写真家、クレア・シランドの目から見たニュアンスの世界

目を凝らして見なければ、見落としてしまいそうなほどささやかなニュアンスに彩られたクレア・シランドの写真。そこから読み取る、誠実なコミュニケーションの大切さをひも解く。

その迷いない理路整然としたアプローチにより、クレア・シランド(Clare Shilland)はポートレイトの被写体に息がつける心の余裕と空間を作り出す。そしてそこに、無理なく個性のニュアンスを描き出すことができる。てきぱきと撮影を進め、意図的にスタジオの雰囲気をニュートラルに保つことで、あくまでも被写体のみにフォーカスを絞り続ける現場でのクレア——その存在感は、彼女の写真作品同様、とても地に足ついた印象を与える。

そんなクレアと、写真の世界に足を踏み入れたきっかけについて、彼女のインスピレーションについて、好きな被写体について聞く一方、彼女自身が気に入っている6枚の写真を選んでくれた。それは、ロックバンドやモデルの写真、そして彼女の子どもたちの写真などだ。

写真家になりたいと気付いた明確な瞬間というものがあったのでしょうか?

キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツでグラフィック・デザインを学んでいたんですが、まったく才能がなかったんです。そこである時、カメラを手に取って写真を数枚撮ってみたら、それが良かったんです! あれがその瞬間だったのかな。

私の祖母は、私が子どもの頃、人も景色も物もありとあらゆるものを写真に収める人でした。子供の頃、あなたの家族では誰がそのような役割を?

父がそうでしたが、ティーンになった私がその役割を担うようになりました。その頃は自分が写真家になりたいなどと気付いてはいませんでしたけどね。

最初のカメラは?

父のペンタックスでした。

どのように写真を趣味から仕事へ?

写真が趣味だったことは一度もありません。アート・スクールで「写真を突き詰めたい」と思った瞬間から、後戻りはしませんでした。

もっともインスパイアされた写真家は?

ナン・ゴールディン、ジョセフ・スザボ、ラリー・クラーク、それとサリー・マンです。

写真を撮る時、そこに何を捉えようとしますか?

言葉では言い表せないものですね。不思議な瞬間と、リアルな人間を捉えたいです。

写真に「悪い出来」などというものはあるのでしょうか?

イエスでもありノーでもあります。

「良い出来」の写真とは?

良い被写体と、美しい事象ですね。もしくはそこに起こっている酷いことが捉えられているか。

人でも物でもかまいません。好きな被写体は?

以前は弟を被写体として気に入っていました。その後は妹。ティーンの頃の話です。今は自分の子ども達が最高の被写体です。

Instagramなどの登場によって写真というアートにはどのような影響が及んだと思いますか?

信じられないぐらい写真アートが親しみやすいものになりました。

被写体についてリサーチはしますか? リサーチが被写体から何かを引き出す手立てになるのでしょうか?

撮影前にどれだけ時間があるかによりますね。リサーチが助けになることもあるかもしれませんが、何も知らない方が良いときもあるんです。親密な状況に置かれた二人の人間が、撮影を通してお互いを知っていくわけですからね。

どうやって被写体をリラックスさせますか?

話をします。ジョークを飛ばしたり。世間話程度の会話が苦手なんです。自然とコネクションが生まれたりすると最高の気分です。

男性と女性ではどちらを撮るのが好きですか?

どちらも好きです。男性でも女性でも、同じように親密なコネクションを感じられます(そうとも限らないですが!)。

あなたのスタイルを言葉で表すと?

ナチュラル。複雑さがない。

あなたの作品から何を感じ取ってもらいたいですか?

「少しの間でも心に残るものを見た」ということですね。

1

雑誌『Beat』表紙 ウォーペイント(Warpaint)

これは『Beat』創刊号でした。バンドのウォーペイントを撮影できるということ、そしてそれが雑誌の表紙になるということで大興奮でした。マンチェスターの、誰もいない道中で撮ったんです。屋外広告のスペースがちょうど真っ白に塗られたばかりだったので、それが完璧な屋外スタジオになりました! 表紙と中の10ページほどの撮影を1時間で終わらせなければならなかったんですが、楽勝でした。

2

ジン『Singles』表紙 ダマリス(Damaris) スタイリスト:ハンナ・ケリファ(Hanna Kelifa) デザイナー:スージー・ウッド(Suzy Wood)

ストーリーひとつの自費出版ジンで、ダマリスとハンナ、スージーと4人で作りました。当時ダマリスが住んでいたアムステルダムで、二日間かけて撮影をしました。とても寒かったんですよね。このダマリスがすごく好きです。すごくオープンで幸せそうな雰囲気で!

(メインの写真について)この写真の光が好き——完璧な瞬間が捉えられました。

3

ブロムリーのマクドナルドの外にいるハンナ

ハンナは私の妹。私の出身地ブロムリー区にあるマクドナルドの外で撮ったものです。放課後の様子で、ハンナの手には「trainers(スニーカー)」って書いてあるんですよ。大のお気に入りの一枚です。

4

i-D 「シスターズ」シリーズ

これもハンナ・ケリファと一緒に手掛けたもの。この態度とトラックスーツ最高!

5

ミリアム・ウルフ(2016年)

これは私の娘。夕暮れ時の光の中、お風呂に入れた後に撮ったものです。

6

アリス 「Love From Alice」シリーズから

スウェーデンで撮ったもの。最高の旅でした。静かでただただ美しいこの写真が大好きです。

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