デジリー・アッカヴァンのひとり舞台

脚本家、映画監督、そして女優として世界を沸かせたアッカヴァン。独力で行うその作品づくりを語る。

脚本家、映画監督、女優、さらに文筆家としても活躍するデジリー・アッカヴァン(Desiree Akhavan)は、故郷のブルックリンからロンドンへと居を移し、髪を紫に染めた。「ニューヨークでは、どの場所に行っても、どの通りを歩いても、何かしら思い出があるの」。あの最高に生意気でおもしろくて悲しい映画『ハンパな私じゃダメかしら?』の名を出せば、みな彼女が誰かわかるだろう。なんといっても、彼女はその脚本を書き、メガホンを取った上に、主演までしたのだから。サンダンス映画祭に出品されたこの映画は、アッカヴァンの卒論のために、実体験をもとにして生み出されたものだ。カムアウトまでの葛藤、失恋、感情をかき乱す数々のできごと。自伝的な作品であるにもかかわらず、アッカヴァンは、主人公・シリーンを別バージョンの自分であると言う。ひとりで何もかもを手がける彼女が、そこに至るまでの苦難の道のりを語ってくれた。

あなたとシリーンとはどのくらい違いますか?

あのキャラクターの中に自分がいるとはあまり思えない。私のことをよく知ってる人も、その意見に賛成してるの。自分自身と重ならない部分は多いけど、彼女の感情や思考は私のものね。自分の映画の登場人物に対しては厳しくありたいから、ステキでかっこいい自分を描くことはしない。シリーンはどうしようもないことをするし、私もするんだけど、何をやるかは違うの。もがき苦しんでいるかと思えば何かに夢中になったり、火遊びをしたり、どんなときも最悪な選択をしちゃうところは、ぜんぶ私っぽいけど(笑)。

いま、他に何か取りかかっていることはありますか?

うんざりするくらいたくさん。映画を2本監督する契約をしているし、イースト・ロンドンをベースにしたデートについてのシリーズもやってるの。イギリスでのプロジェクトも、まだ途中だし。2年も仕事がなくて、ダメもとで映画を作ったら、1ヶ月でこんなにやることが降ってわいてくるなんて、ホント怖くなっちゃう。クリエイティブの世界でキャリアを磨くなんて、嘘っぱちね。夢物語よ。『ハンパな私じゃダメかしら?』がサンダンス映画祭に出品されることになったとき、LAの大手エージェントと契約したの。それからの1年間は、いろんな映画祭のために旅行三昧。まさに人生が華やかな方向へ急展開したってわけ。ちょっと圧倒されちゃうくらいにね。いまちょうど本を書いているんだけど、サンダンス以降のことについて書きたいの。だってみんな「サンダンスに行くことができれば、あとは万事OK」って感じでしょ。でも実際は、出品されたからって未来のキャリアが保証されたわけじゃない。油断は禁物。みんな上手いことばっかり言うけど、だからって必ずお金を出してくれるわけじゃない。チャンスは自分で作らなきゃならないし、そのために自己研鑽する必要もあるってわけ。愚痴を言ってるんじゃなくて、それが働くってことなのよね。どんな業界だって、働く以上はやり手にならなきゃ。

最近こんなアドバイスをもらいました。次にいつチャンスが来るかわからない以上、すべての依頼に「イエス」と言え、って。

間違いないわ。『ハンパな私じゃダメかしら?』の公開のためにイギリスに来たとき、セシリアの家のソファで寝泊まりしてたの。彼女、私のプロデューサー兼親友なのよ。そのとき、仕事の打ち合わせが数件あったんだけど、ぜんぶが実のあるものだったわ。その人たちが行動を起こしたとたん、突如としてチャンスが次々舞い込んできたの。アメリカにいたときとはまったく違う感触だった。その1年前まで、次に何をするかさえ決まっていなかったのに。たくさん書いてはいたけど、それをどうしていいかわからなくて。最終的に、故郷に戻るのはやめて、新たな人生をこの場所で始めることにしたの。そのとき持ってたスーツケースはひとつだけだったけど、それから一度も家に帰ってないわ。

これからは、監督と女優業を分けてどちらも続けるつもりですか? それとも、自分の監督する映画で主演を?

ううん、いまはそのどちらも違う気がしてるの。だから、自分がプロデュースも監督もしてない映画に出演してる。他の人の作品の中で、しかも制作側ではないところにいるのって、すっごく楽しい。自分が好きな監督の作品だと、特にね。いままでとは違うことを学んだり、ちょっとだけ自分の思考と離れられるのもワクワクする。自分が監督の立場だと、ありとあらゆることを考えて、コントロールしなきゃいけないしね。2017年には監督をする予定。脚本は私じゃないけど、とっても気に入ってる。台本がエージェントから送られてきた日、徹夜して読んじゃった。そして、エージェントに電話して、開口一番こう言ったの。「この映画を監督できるとしたら、私以外にいないわ」って。高慢ちきに聞こえるかもしれないけど、そうじゃなかった。このストーリーを守りたかったの。この2年間でたくさんの台本を読んだけど、そんな気分になったのはそのときが初めてだった。

映画学校は役に立ちましたか?

私は、現状に満足してる。映画学校がその助けになったかどうかはわからないけど、そう簡単に結びつくようなことでもないと思う。環境が整備されてる学校生活は好きだったし、友だちがいるのもよかった。具体的に何か役に立ったとか、技のようなものを学べたかは定かじゃない。でも、なんども挑戦するための場を得ることができたのは確か。私が必要だったのは、仲間と、励ましと、整った環境だったんだもの。

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