〈ガールズ・イン・フィルム〉が選ぶ、五感をくすぐる映画

女性監督のサポートネットワーク〈ガールズ・イン・フィルム〉による、五感をくすぐるお気に入り映画を紹介。

二コラ・ワサコワ(Nikola Vasakova)によって設立された〈ガールズ・イン・フィルム〉は、映画制作に従事する女性たちをつなぐネットワーク。会員は、ワークショップや上映会、新たな動画コンテンツの制作を通じて、お互いをサポートする。イベントが初めて完売となったとき、ニコラのモチベーションは急上昇し、以降はICA[訳注:ロンドンのギャラリーである現代美術協会]の上映会をキュレーションし、多くのイベントを企画する一方で、女性によってキュレーションされた動画コンテンツサイトを立ち上げ、運営するようになった。ニコラは映画について正式に学んだことがない。だからこそ、彼女の存在は、自らの経験や短期コースでの学習、YouTubeのおかしなハウツー動画を通した自己啓発に多大なる信頼を寄せることで、自分の本当にやりたいことがじゅうぶんにできるのだという証明でもあるのだ。

「私が〈ガールズ・イン・フィルム〉を立ち上げたのは、見過ごされがちな映画業界の女性たちに機会を与え、サポートするため。いくつか変えていきたいことがあるの。監督となる女性を増やすのがまず1つ。それから、役の人種と役者の人種を同じにすること。トランスジェンダーの役だって、トランスジェンダーが演じるのよ。理屈はシンプルだけど、すごく大きな効果があると思う」と彼女は言う。「ジェンダー間の著しい差に言及しなかったら、それはほんの小さな一部しか見ていないのと同じこと。公開された映画のうち、女性が監督したものはたった11.5%に過ぎないのよ。今回紹介するのは、女性監督がメガホンを取った作品の中でも、私のお気に入りのもの。どの作品も五感を駆使しているわ」。

1

ソフィア・コッポラ『マリー・アントワネット』(2006)

この映画に出てくるお菓子はすべて、フランスの超有名パティスリー〈ラデュレ〉が手がけたが、その中のいくつかは、フランスの宮廷にいる女性たちの髪型に滑稽なくらいそっくりなのだ。晩餐のシーンでは、美しく盛り付けられたアスパラガスや、カラフルなケーキとゼリー、砂糖がけのオレンジピールやクリームの上にベリーやピオスタチオを飾ったミニケーキが、金箔が貼られたお皿や手描きの模様が入った陶器に乗って運ばれてくる。こうした過度な美食や豪華さが、まもなく悲惨な最期を迎えることを描き出すためだ。とはいえ、このシーンはそこらの料理番組よりよっぽど食欲を刺激するのだが。

2

パトリシア・カルドーゾ『リアル・ウィメン・ハヴ・カーヴス』(2002)

この映画は、北米のある女の子の成長物語だ。彼女の体は、メディアや社会が定義する暗黙の基準には沿わない部類。ときによくあるドラマのような展開を見せながら、ボディイメージに対する甘い感情を描き出している。印象深いのは、うだるような暑い日の菓子屋のシーンだ。『アグリー・ベティ』のスター、アメリカ・フェレーラ演じるアナは、母親、そしてメキシコ人女性たちと一緒にしぶしぶ仕事をしている。その日の熱気と湿気に耐え切れず服を脱ぐと、他の女性たちも次から次にセルライトや脂肪によるシワを見せ合い、最後にこう締めくくるのだ。「見てよ。私たちって、なんて美しいのかしら」。お嬢さんたちときたら!

3

エイミー・ヘッカーリング『クルーレス』(1995)

『クルーレス』に関してなら、論文が書けそうだ。この作品をもとにしたドキュメンタリーも制作されており、一見の価値がある。さまざまな世代の試金石となった映画で、セリフやファッションを真似たりしたことがある人も多いだろう。キャットウォークやポップカルチャーシーンでも、いまだにこのタイムレスな作品がネタにされているほどだ。カリフォルニアのエリート学校ならではの空気感が、お互いをきゃあきゃあ罵り合う場面など、女の子たちの意地悪さに巧みに描き出されている。「ああ、あるある!」と私たちの誰もがかつてのことを思い出すが、私が好きなのは、あんまりあるあるではない場面。アンバーを一気に他の子より格下に見せた、例の「なんちゃってデザイナー香水」の部分だ。

4

ジェーン・アーデン『ジ・アザー・サイド・オブ・ジ・アンダーニース』(1970)

イギリス映画において、最も熱くラディカルに女性の精神疾患を扱った作品の1つ『ジ・アザー・サイド・オブ・ジ・アンダーニース』。統合失調症を患う女性が持つ、狂気ではなく、現代社会の抑圧された規範によって生じる性的罪悪感を掘り下げている。映画論上、耳障りなキーキー音はストレスのたまった動物に関連付けられるのだが、この映画における耳を塞ぎたくなるような叫び声や乱れたヴァイオリンは、それ以上の役割ーー音を使って観る者を精神世界へ誘うーーがあるようだ。

5

リン・ラムジー『少年は残酷な弓を射る』(2011)

『少年は残酷な弓を射る』に血の描写はほとんどないが、赤色が多用されることにより、暴力や流血への危機感がつのる。冒頭からティルダ・スウィントンがスペインのお祭りでトマトジュースまみれになるが、これはケヴィンの出産を暗示したもの。家の中やケヴィンの服に飛び散った赤い絵の具は、ティーンエイジャーのケヴィンの暴力性にリンクする。リン・ラムジーはまた、音の使い方にも秀でた監督だ。対立するキャラクターの状況に沿って音楽を変え、また多くのシーンでワシントン・フィリップス[訳注:アメリカのミュージシャン]の曲を使うことで、巧みに愛らしさや恐怖を演出している。

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