MY BODY MY RULE:私の体は私が決める

“女性差別”と聞くと、男性から女性へ向けられる偏見と捉えがちだが、問題は男女間だけだろうか。イギリス在住のフェミニズムライターRuru Rurikoが写し出すさまざまな女性像とともに、身近に起こりうる女性同士の偏見について考える。

ここ最近日本でも話題になってきているフェミニズムやガールズパワー。おそらく多くの人が“フェミニズム”という言葉を聞いて思い浮かべるのは男性と女性の格差でしょう。

しかし私個人の体験では、女として生きてきて、おそらく男性よりも私と同じ女性からの態度や言葉で傷つけられ、自分を見失ってしまったことが多かったと思います(まだ学生なので社会に出たらまた違うのでしょうが)。

私は着飾ることが好きです。

そんな私が他人に言われたことは、

“なんでそんなに見た目を気にしてるの?” “すっぴんに自信がないの? すっぴんで外歩ける?

現在イギリスに住んでいますが、イギリスの女の子はどすっぴんにスウェット姿から、バッチリメイクを決めてセクシーな服で学校に来る子までさまざま。そして特に、パーティーになるとセクシーに着飾ってくる子が多く感じます。そんなイギリスの女の子たちを見てあるとき、友人の1人で東欧出身の子がこう言いました。「イギリスの女の子ってあんなビッチな格好してるの? 男のことばっかり気にしてバカみたい」。正直、「は????」と思いました。セクシーにドレスアップする=男性のため、なんて考えは本当にくだらない。

私が思うに、女性は(男性もですが)自分がセクシーになりたい気分なら、そういう格好をしてもいいんです。私にはレズビアンの知り合いもいますが、彼女たちもセクシーに着飾ってパーティーに行くこともあります。しかしそれは、男性の視線を気にしているからなのでしょうか。

仮に、セクシーな服を着ている女の子が、男性にモテたいためにやっていたとしても、他人には関係ないことではないでしょうか。嫌悪感を持つのならば、自分はしなきゃいいだけ。

日本では、まったくメイクをしてないとそれはそれでダサい、だらしない、のような風潮もあります。反対にメイクをしすぎたら、“派手” “ビッチ” の扱い。セックスに関してもそう。未経験だと“恥ずかしい”と感じ、逆に多すぎるとまるで性格まで悪いように扱われ、価値のないような軽蔑した態度を取られる。

派手な見た目だったり、性的にオープンだったりすると、ほかの人とは少し違うと人間として扱われ、その人の価値が下がるのでしょうか?

イギリスの美術評論家ジョン・バージャー(John Berger)の『Ways of Seeing』という本にこうあります。

「Men look at women. Women watch themselves being looked at. The surveyor of women in herself is male : the surveyed female. Thus she turns herself into an object - and most particularly an object of vision.(男は女を見る。女は見られているという彼女自身を見る。女は彼女自身を男目線で測り、そして他の女を見る。このようにして彼女は彼女自身を物としてみなす。)」

彼は、女性は自分や他の女性を見るとき、男性の基準で判断し見ていると書いています。人の目を気にする、容姿を気にする女性に対しての嫌悪感には男性という存在はあるでしょう。

アメリカの大人気セレブリティ、カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)に対して、“ビッチ” “整形”などの悪口やゴシップをよく見かけます。そして、それは女性から発せられることが多数。少し前はマイリー・サイラス(Miley Cyrus)が同じようなことを言われていました。カイリーは確かに、自身のインスタグラムにセクシーショットを載せたりしているし、容姿をかなり気にしているようには思えます。でもそれを人の目を気にしていたり、自分の容姿に自信がないからやっているかは私たちにはわかりませんし、メイクアップ商品をプロデュースするくらいなので、メイクがただ単に好きな可能性もあります。

カイリーのような見た目の女性は、“他人、特に男性の目を気にしている” と嘲笑されたりしますが、おもしろいことに世間的に(特に日本では)、“モテメイク” と推奨されるのはナチュラルで露出も控えめのメイクとファッション。今では「No make-up tutorial(すっぴん風メイク)」なんて動画がYoutubeで人気だったり。それではファッション誌がいうように、“モテるか”を気にしてナチュラルメイクをしている人、“派手な格好してたら周りからどう思われるかわからない”と他人の目を気にしてナチュラルにしている人、そしてどれも気にせず派手にしている人では、どちらが周りの目を最も気にしているのでしょうか?

今回、このTHINK PIECESを書くにあたって、「着飾る人」とネット検索してみましたが“着飾る人は自分に自信がない”と言い切る記事がたくさん出てきました。自信がない人が着飾ることによって自信を持てるのならば、それはいいことだと思います。それで毎日楽しくなるならすごく素敵。それがファッションの力だと思います。おそらく誰でも、ある程度は人の目は気にしているでしょう。

そして着飾る、着飾らない理由は人それぞれあるのではないでしょうか?

メイクやファッションが好きなら苦ではないから毎日楽しくやると思うし、そこまで好きではなかったら身だしなみとして義務感を感じているかもしれない。

結局は他人の見た目です。

着飾る人を見た目ばかり気にしていると判断するのは、あなたがその人のことを見た目で判断しているということではないでしょうか?

着飾っていてもいなくても、それが他人の目を気にしていてもしていなくても、“彼女はこうしているからこうだ”と、自分の思う価値観と比べて人を蔑むことをする必要はないのだと思います。

“MY BODY MY RULE(私の体は私が決める)”。自分の体や見た目を自分自身が理解して決めていくことが、自分の体を愛することに繋がっていくのではないでしょうか。

Ruru Ruriko 

1994年生まれ。イギリスでファインアートとフォトグラフィーを学ぶ。昨年11月より、フェミニズムや時事問題を考えるwebマガジン『honeyhands』を立ち上げる。

http://www.honeyhandsmag.com/

https://www.instagram.com/yourlocalpinkgirl/

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