セックス、官能主義そして、差別撤廃のためのアクション

LAのスリーピースバンド、MUNAの「I Know A Place」は、大胆なメッセージが込められた、彼女たちを象徴する曲だ。MUNAはそれぞれが固い絆で結ばれ、世の中の不平に対して反対の声を上げている。そんな彼女たちの考えをご覧あれ。

MUNAはヴォーカルのケイティ・ギャヴィン (Katie Gavin)、 ギター、ヴォーカルのジョゼット・マスキン (Josette Maskin)、 そしてシンセ、ギター、ヴォーカル、プロダクションを手がけるナオミ・マクファーソン(Naomi McPherson)からなるLAの3ピースバンド。今年の初めにケイティ・ペリー(Katy Perry)が社会的意思を持つポップスという意味の言葉“Purposeful Pop”を打ち出す前から、彼女たちはメッセージ性の強い曲を作っていた。セルフプロデュースし最近リリースされたアルバム『About U』でも彼女たちはセクシャリティ、女性差別、差別撤廃といった問題について取り上げている。また、このアルバムは、これらの問題に対して活発に抗議する彼女たちの姿勢をよく表している。例えば2月にアメリカのトークショー番組「Jimmy Kimmel Live!」で彼女たちの代表曲「I Know A Place」を演奏した際も、ボーカルのケイティがサビの前の部分で通常の歌詞のとおり歌わず、“トランプは大統領でも私にとってリーダーではない”と果敢なパフォーマンスを行ったのだ。

怖いもの知らずで、強い意思で結ばれた彼女達をインタビューすることは、マラソンランナーと一緒に走っているような感じだった。

3人はホームパーティで知り合って、そこで初めて一緒に演奏したってらしいけど、本当ですか?

ジョゼット(以下J):その伝説はウソ。私たちの作り話よ。実際はスイスで執り行われていた修道会のミーティングで知り合ったの。

ナオミ(以下N):実際にはパーティにいたのではなく、私のアパートで一緒に飲んでいただけなの。その時にはすでに友達だったわ。

J:ナオミはそこでギターを弾いていて、“なんで今まで一緒に演奏したことがなかったんだろう”って思って、一緒にセッションすることになって。ケイティがミニキーボードを持ってきて、曲を作り始めて、それから今までずっと活動しているの。

どうやって3人は仲良くなったのですか?

N:私たちはすでに友達で“バットバディズ”[注:ゲイが使う”カップル“という意味のスラング]だったの。私たちはお互いを愛しているのよ。“バットバディズ“っていう言葉使わない? 「すごく仲がいい友達」という意味でこの言葉を使っているわ。

J:私も今までデートした子たちのことを“バットバディズ“って呼んでいるわ。私たちは本当に“バットバディズ“よ。

ケイティ(以下K):私たちは一緒に抱いて寝るぬいぐるみのように、一緒に抱き合って寝る仲なの。

J:ツアーに行くと3人で同じ部屋で寝ているわ。

実際に知り合った期間以上に、長い間ずっとお互いのことを知っているような感じでしょうか?

N:ええ、もう2万年ぐらい知り合いな気がするわ。

J:実際は知り合って5年だけど、それよりも長くずっと知り合いって感じね。

K:歩き始めた頃から知っている20年近い知り合いがいるけど、この3人の関係はそれよりももっと長くて、私が生まれてからすぐに2人と友達でいるような気分よ。MUNAから私の人生が始まった気がするわ。

全てのミュージシャンが危険や心配を感じずに、自分たちを100%表現できるようになればいいと思っているわ。

それぞれのことについて、最近知ったことはありますか?

K:最近、わざと2人のことでまだ知らないことがあるはずと思うように心がけているの。私って人に私のことを知り尽くしたと思い込まれることが嫌なの。“超ケイティっぽい”とかって言われると、もう永遠にさよならって感じ。

J:私は本当になにもわからないから、大丈夫。

K:ちょうど昨日、あなたと知り合ってから、随分時間が経ったんだと確信したわ。だって、あなたは私たち2人の好きな食べ物と嫌いな食べ物をよく覚えているから。

J:食べることは大事なのでとても興味があるからね。

そうなんですね。ではテスト。ケイティの好きな食べ物は?

J:彼女は魚、オリーブが好きね。チーズが好きでよく食べているけれど、あまり食べ過ぎない方がいい。あと、デーツが嫌い。本当は食べた方がいいんだけど。

本当だ。あなたたちはとても実験的な音楽を作ることから始めて、メジャーなポップミュージックをやるようになったけど、それはなぜですか?

J:実は最初に作った曲もポップソングだったの。私たちはただ作りたい曲を作っているだけで、それが今はポップミュージックなの。

N:ライブでのお客さんの反応が良かったっていうのもあるわ。お客さんが私たちのポップな曲が好きだったので、そういう音楽が私たちには向いていると気付いたの。それからポップミュージックをやるのに慣れていって、ケイティがポップのサビを作詞するのも当たり前になったの。

『About  U』を作るのにはどれくらいの時間がかかりましたか?

J:このアルバムは私たちがミュージシャン、作詞家としてここまで成長したこと記録でもあるので、このアルバムにはバンドを始めてから今までの全てが込められているの。

だとすると、次のアルバムを作るのがとても大変なのでは?

J:そんなことないわ。

K:次のアルバムを作るのはもっと簡単だと思うの。

N:最初のアルバムを作ることでいろいろ学んでバンドとしてだいぶ上達した。だから、新しいアルバムを作るのは前よりは簡単じゃないかしら。

J:あと、ナオミはプロデューサーとしてとてもよくなったと思う。1年ぐらい前からプロデュースを担当し始めて、今は一人前のプロデューサーになったわ。あとバンド内のコミュニケーションもよくなった。私たちは親友でいつも一緒に生活もしているから、お互いをとてもよく分かり合えるの。そのことが音楽にも表れているんだと思うわ。

一般的なポップミュージックと違って、あなたたちの曲はメッセージ性が強かったり、人々が触れないことを取り上げていますよね。それはなぜ?

K:一緒に演奏を始めた時から、ポップミュージックでは普段テーマにならなかったようなものを取り上げたかったの。「So Special」の作詞をしている時も、誰かにオーラルセックスするんだけど、その人とちゃんと付き合ったことがないので罪悪感を感じることを歌にしようと思ったの。これもポップソングとして成立すると思ったわ。だってやっている人がいることは知っていたから。音楽でメッセージを伝えることも上達した。でも、バンドを始めたときから普通のポップソングでは扱われないことをテーマにしたいというのはあったの。

ファンの子たちから「So Special」や「Loudspeaker」が心に響いたって言われたり、彼女たちの考え方が変わったって言われたことは?

N:毎日そういうコメントをもらうわ。こういう反響を聞くのが一番嬉しい。私たちはとてもオープンに生きているから、ケイティの歌詞が批判されることもある。でも私たちの音楽が自分たちのことを代弁していると感じてくれる人たちがいるというのは一番クールなことよ。子供の頃、私もそんなバンドが欲しかったわ。

J:バンドで音楽を演奏できることがベストだと思っていたけど、そのことで誰かの人生にポジティブな影響を与えられるということは本当に最高なこと。周りの人をポジティブにできなかったら人生の意味もわからないわよね。

誰かの人生にポジティブな影響を与えられるということは本当に最高なこと。

トランプ政権において、ポップミュージックは今まで以上に大きな問題に取り組む必要があると思いますか?

N:全てのアーティストは自分自身がやりたいアートを作ることができる。個人的には政治的な音楽を聞くのが好きね。

ケイティ・ペリーが最近、彼女の曲を通して政治的なことを取り上げるようになったっていうのはとても興味深いことでしたね。彼女にとってある意味リスクが高いと思うけど。

N:本当そうね。でも彼女はヒラリー・クリントンの選挙キャンペーンにも関わっていたことがあるから、それ自体は新しいことではないわ。「I Kissed A Girl」も政治的な曲だと思うの。メインストリームの曲で女の子同士がキスをすることを歌っていて、私は共感できたしとても印象的だった。

K:全てのミュージシャンが危険や心配を感じずに、自分たちを100%表現できるようになればいいと思っているわ。こんなふうに考えること自体が政治的なことね。

ジミー・キンメル(Jimmy Kimmel)の番組での演奏は怒りと、反抗心、一縷の望みが完璧に混ざり合っていたように感じました。この混ざり合った思いが演奏にパワーを与えているのですか?

K:あの演奏はとても楽しかったし、気持ちを解き放つことができたわ。

あなたたちはシリアスな問題をノリのいい音楽するというテクニックに優れていますよね。「I Know A Place」なんて特にそうだと思う。

K:これはポップミュージックならではのトリックだわ。だから最近ロビンのことにツイートしたの。だって私たちは彼女の曲からこのテクニックを知り、学んだの。

J:バンドを始めた時、ドラムとベースのメンバーも欲しいと思った。その方が音楽をより体感できて気持ちを解き放つことができて心が綺麗になる気がしたから。

ケイティの曲の中での発音について聞きたいのですが、「So Special」の中で“ライン”(“line”)という言葉を“ロイン”(“loine”)と発音したり、「I Know A Place」でも“ウエポン”(“weapon”)という言葉を“ウェポーン“(”weapoon“)と発音しているよね。それはなぜ?

K:これは以前話したことがあるんだけど、ある人は“彼女はアイルランド系の血が入っているのでアイルランドの訛りで歌っている”と思ったり、“これはジャマイカの訛り”だと言われたりするの。でも実際はそんなことはなくて単純に曲に合わせて自分にしっくりくるように発音にしているだけなの。誤解を招かないためにも、白人のアーティストは他の人種のカルチャーのことを歌う時は気をつけないといけないわね。

バンドの中で、それぞれはどのような役割を担っていますか?

N:私とジョゼットは間抜けなどたばたコメディアンかな。

J:私たちはジョークを言うのが好きなの。

N:ケイティが可愛い子担当ね。

K:ジョゼットは人気があって憧れている人が多いわ。彼女はカメラの前に立つのが上手なの。

J:2人はすごいがんばり屋。なので私はいつも2人に追いついていかなきゃいけないわ。それぞれが違った役割を持っていてうまくバランスを取りあっている。

一番いい香りがするのは誰?

N:3人ともとてもいい香りがするわ。

自分の家を連想させる香りはありますか?

K:私のお香。

J:そうね彼女が使うお香はとても気持ちが落ち着くの。

N:私も、自分の部屋でそのお香を焚いているわ。

ロンドンの香りはどう感じますか?

K:空港から出てすぐに感じた植物と芝生の香りがとてもいいと思った。

J:冷たくて、張り詰めた感じ、そしてフレッシュな香りを感じたわ。LAは暑くて参っちゃうの。

K:私はシカゴ出身なんだけど、ロンドンで感じた香りでアメリカの中西部の春の始まりのころを思い出したわ。

子供の頃を思い出す香りは?

N:”See's”のキャンディね!今ここにある?あれってアメリカのショコラティエっていう感じね。小さい時、私のおばあちゃんはいつもSee'sのキャンディを持ってきてくれたの。

J:私は年老いた犬かな。私は狼に育てられたの(笑)。

もしMunaがオフィシャルの香水を出すとしたらどんな香り?

J:私たちがいつも使うフレーズは何?

N:ケイティは“バイセクシャル・アイコン”っていう香りね。

K:そうね、3人別の香りを作るわ。ナオミは“あなたの彼女を盗め”かな。

N:私たちの香りは“乙女マリアン”かな。これかっこいいかも。もしくは、“プラトニックな妻たち”っていうのは?

J:それ次のアルバムの名前にいいかもね。

This Week

和洋新旧の混交から生まれる、妖艶さを纏った津野青嵐のヘッドピース

アーティスト・津野青嵐のヘッドピースは、彼女が影響を受けてきた様々な要素が絡み合う、ひと言では言い表せないカオティックな複雑さを孕んでいる。何をどう解釈し作品に落とし込むのか。謎に包まれた彼女の魅力を紐解く。

Read More

ヴォーカリストPhewによる、声・電子・未来

1979年のデビュー以降、ポスト・パンクの“クイーン”として国内外のアンダーグランドな音楽界に多大な影響を与えてきたPhewのキャリアや進化し続ける音表現について迫った。

Read More

小説家を構成する感覚の記憶と言葉。村田沙耶香の小説作法

2003年のデビュー作「授乳」から、2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』にいたるまで、視覚、触覚、聴覚など人間の五感を丹念に書き続けている村田沙耶香。その創作の源にある「記憶」と、作品世界を生み出す「言葉」について、小説家が語る。

Read More

川内倫子が写す神秘に満ち溢れた日常

写真家・川内倫子の進化は止まらない。最新写真集「Halo」が発売開始されたばかりだが、すでに「新しい方向が見えてきた」と話す。そんな彼女の写真のルーツとその新境地を紐解く。

Read More

動画『Making Movement』の舞台裏にあるもの

バレリーナの飯島望未をはじめ、コレオグラファーのホリー・ブレイキー、アヤ・サトウ、プロジェクト・オーらダンス界の実力者たちがその才能を結集してつくり上げた『Five Paradoxes』。その舞台裏をとらえたのが、映画監督アゴスティーナ・ガルヴェスの『Making Movement』だ。

Read More

アーティスト・できやよい、極彩色の世界を構成する5つの要素

指先につけた絵の具で彩色するフィンガープリントという独特の手法を用いて、極彩色の感覚世界を超細密タッチで創り出すアーティスト・できやよい。彼女の作品のカラフルで狂気的な世界観を構成する5つの要素から、クリエーション誕生の起源を知る。

Read More

『Making Codes』が描くクリエイティヴな舞台裏

ライザ・マンデラップの映像作品『Making Codes』は、デジタルアーティストでありクリエイティヴ・ディレクターでもあるルーシー・ハードキャッスルの作品『Intangible Matter』の舞台裏をひも解いたものだ。その作品には、プロデューサーとしてファティマ・アル・カディリが参加しているほか、アーティストのクリス・リーなど多くの有名デジタルアーティストが関わっている。

Read More

ハーレー・ウェアーの旅の舞台裏

写真家ハーレー・ウィアー(Harley Weir)が世界5カ国に生きる5人の女性を捉えた旅の裏側、そして、ドキュメンタリー映像作家チェルシー・マクマレン(Chelsea McMullen)が現代を象徴するクリエイターたちを捉えた『Making Images』制作の裏側を見てみよう。

Read More

ローラ・マーリンが表現する、今“見る”べき音楽

イギリス人のミュージシャン、ローラ・マーリンのニューアルバムに満ちている“ロマンス”。男っぽさがほとんど感じられないその作品は、女性として現代を生きることへの喜びを表現している。

Read More
loading...