エディ・サンデーとの奇妙な巡り会い

写真と心理学の両立など、あまり聞いたことがない。だが、フォトグラファーでありながら心理療法士の訓練も受けているテキサスっ子のエディ・サンデーは、そんな数少ない人間のひとりなのである。

10代のときから写真と心理学の両方に惹かれていたエディ・サンデー(Edie Sunday)。テキサス州オースティンで活動する26歳のこのフォトグラファーは、あるとき、どちらを本職にするかという決断を迫られることになった。「最終的に私が選んだのは、心理学だった。だって写真は学校に行かなくても続けられるもの」。アートスクールに行かないという選択は厳しいものだったが、後になって彼女は気づいたという。「心理学を学ぶために学校に行くことで、自分自身のことがもっと深く理解できたし、アートスクールではできなかったような方法で自分と対峙することができたの。そして、作品に対してシャイだった自分を変えることができたの。最後にはみんなに写真を見てもらえるまでになったんだから」。心理療法士になるため訓練中の彼女は、現在、写真を使って博士号を取ろうと奮闘している。写真は彼女自身の心の中を写し出すもの、つまり彼女独自の心理療法なのだ。

ヒューストン郊外で育ったエディは、小さな町によくある陳腐な光景からなんとかして離れるべく、旅をしていた。絶景が望める場所、広大な平野があちこちに見られる場所、泳げる場所。そして「ハワイにしかなさそうな」夢のような場所さえも、テキサスの美しい夕日が見られる乾いた丘の後ろに、思いがけなくも隠れていたのだという。広大な、もしくは息を呑むほどに美しいランドスケープの中でポーズをとる被写体。それを切り撮った彼女の写真は、まるで無限に変化する色彩の中で泳いでいるかのような、ミステリアスで異世界的雰囲気を漂わせている。

エディにとって、写真を撮ることは「夢と覚醒の間にある、意識があるようでまったくないような時間。無意識下で見る不思議なイメージが、覚醒時に流れ込んでくるようなとき」にアクセスする手段なのだという。非現実的な明晰夢[訳注:夢であると自覚して見る夢]に対する興味が見え隠れする言葉だが、現実もまた同じように彼女の感性を刺激するようだ。「今はフォトグラファーでいるほうがしっくりくるから、自分の身の回りで起こっていることからも刺激を受けるようにしてるの。カメラを持って出かけるときは、いつも成り行きに任せているわ」。

現在の住まいはオースティン。この街の空港に降り立った瞬間に漂った孤独の香りが、ここをホームだと教えてくれたのだと彼女は言う。「世界中のどこよりも、この街に漂う香りは自然なの。瑞々しいのに、乾燥していて。街をつくるときに自然を破壊しすぎなかったのが、オースティンのいいところよ」。視覚的な人であるにもかかわらず、彼女はこうも話す。「私は嗅覚がいちばん鋭いと思う。ほかのどの感覚よりも記憶を呼び起こしてくれる。歳を重ねるにつれて、香りを嗅ぐと、その香りにまつわる思い出が即座に蘇るようになったわ。そういうときは、記憶や懐かしさやそのほかの感情に押しつぶされそうになってしまう」。

女性らしさ、感情、そして脆さ。そのようなテーマがエディの作品に一貫している。彼女自身や友人たちを自然のまま撮った写真には、「人間という、脆くはかない存在。セルフポートレイトは、気分が悪いときにあえて撮るようにしているのよ。そうするとちょっとマシになったりするの」。セルフポートレイトは、彼女自身とその作品をより近づける。「現代社会は私たちを引きこもりたくなる気分にさせたり、無感覚にさせようとするかもしれない、けれど、私は穏やかで脆い存在でいたいの。こう言うのは簡単だって思うかもしれない。でも、無感覚になると本当の自分を見失ってしまうと思う。私の仕事は、感情なしでは成り立たない。フォトグラファーとしてだけじゃなく、心理療法士としてもね」。

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