タビサ・デンホルムが発信する、女性映像作家の魅力

女性フィルムメーカーを支持するプラットフォーム、Women Under the Influence。その発起人の話を訊き、独占インタビューに答えたクロエ・セヴィニーとナターシャ・リオンの言葉に耳を傾け、このプラットフォームについて知っていこう。

タビサ・デンホルム(Tabitha Denholm)は、使命感に燃えている。「過去に女性フィルムメーカーという領域を切り拓き確立してきた先駆者たちの功績をたたえつつ、現代を彩る若き女性クリエイティブたちの才能を見出し、併せて世界に紹介していこう」というコンセプトのもと、彼女が立ち上げたWomen Under the Influence。ミュージック・ビデオ監督でもありクリエイティブ・ディレクターとしても活躍するデンホルムは、世界に影響を与えることができるだけの素晴らしい作品を作り出している女性映像作家たちにスポットライトを当て、世界へと紹介している。変わらず男女の不平等がまかり通っているハリウッドにおいて、Women Under the Influenceは、女性映像作家や女性ストーリーテラーだからこそ描ける、多様でおもしろく、パワフルでジャンルを超えた、感動的な視点と物語を、イベントやソーシャル・メディア、映像コンテンツを通して世界へ発信し、女性の文化的繁栄を促している。

創始者であるタビサとの対話を読み、またWomen Under the Influenceが行なったクロエ・セヴィニーとナターシャ・リオンの独占インタビューの様子を映像でチェックして、このプラットフォームについて深く知ってほしい。

Women Under the Influenceを立ち上げるきっかけとなった出来事とは?

ハリウッドの黎明期に活躍した脚本家で映画監督の女性フランシス・マリオン(Frances Marion)について作られたドキュメンタリーを観たのがきっかけだったの。世の中がサイレント映画から大いにお金になるトーキー映画へと移行していったとき、映画界は完全に変わった——それまでは女性も脚本を書き、映画を監督し、制作会社まで持っている女性までいたの。それがトーキー映画の登場で「金になる」と男たちが女性を蹴り出したことで、変わってしまった。そんな時代を駆け抜けたフランシスは、1920年代末までに全米一の報酬額を誇る脚本家となり、その後は1931年作品『チャンプ(The Champ)』をはじめ200本近くもの映画脚本を手掛けるまでにいたったの。ハリウッドでは女性として初めてアカデミー賞を2回受賞したひとで、ほかにもたくさんの映画賞を受賞したのよ。そのドキュメンタリーを観て、彼女のようにひとをインスパイアできる女性、「女性には決してできない仕事がある」という社会通念を覆せるような女性のストーリーを、もっと世界に伝えたいと思ったの。女性の活躍が表立って見えてこないということが、女性監督への間違った認識を生んで、その結果、女性監督たちにプロジェクトのチャンスが巡ってこなかったり、資金集めに困ったりという状況が生まれる。それと、ポジティブなロールモデルが存在する業界には、そこでのキャリアを志願するひとが増えるというのも証明されていること。そして何より、この社会の半分ほどを占めている女性のストーリーを、あとの半分である男性が男性的な視点から物語ってしまうことによって、世界の女性に対する視点自体が歪められてしまっている。それに、世の中にはたくさんの素晴らしい女性監督が、素晴らしい映画作品を通して声を世界に届かせようと苦心に苦心を重ねているのよ。だからWomen Under the Influeneでそれをシェアできるのが嬉しいわ! このプロジェクトについて話すときにもっともよく聞かれるコメントが、「紹介する監督がそのうちいなくなっちゃうんじゃないの? だって女性監督なんて7人ぐらいしかいないじゃないか」というもの。本当に四六時中聞かれるの。それを聞くたびに、このプロジェクトの必要性を改めて確信するわ。

もとはイベントとして始まったプロジェクトだったと記憶しています。それがどのようにして映像シリーズのプロジェクトへと発展したのでしょうか?

今もスクリーニング・シリーズのままよ。来年からはハリウッドのNeueHouseで毎月定例のイベントとして、MUBIをはじめとする友人たちとのコラボレーションをたくさん展開していくつもりなの。映像を用いることで、親密な空間が生まれるのよ! 加えて、映像シリーズをやりたかった理由に、「かっこいい女性たちがそれぞれ自作品について語る場を作りたかった」というものがあったの。それは、さまざまな監督がテーマ性もなく一緒くたにされてしまう映画祭では決して実現できないこと。男女が混在する集団の中で“女性監督”という括りにされなければ、守りの姿勢にならなくて済むわけで、だから好きに自作品について語ってもらいたいのよ!

あなたの人生を変えた映画とは?

これまで、女性監督による映画作品に心動かされた経験はいくつもあるわ。でもどれもが違った感動だったように思う。共通しているのは、女性監督による作品はどれも女性を偏った視点から描いていないから、安心して観ていられたということ。私たちは皆、例えば女性が男性の恋心の対象だったり、性的な魅力で男性を翻弄する存在だったり、母親だったりと、女性を表層的にしか描かないエンターテインメントに慣れすぎてしまっていると思う。ハリウッド映画に登場する女性は、どれも女性らしい見た目で女性らしい動きこそするけれど、私はそこに自分を投影できたことがないの。

私の人生を変えた映画としてまず思い浮かぶのは、『マドンナのスーザンを探して(Desperately Seeking Susan)』。あの映画が、私が初めて観た、“女性が中心人物”の映画だった。主人公の女性が好きなように物事の解決にあたり、男と出会って堂々めぐりを繰り返し、だからといって好きに生きることを選んだことで罰がくだるわけでもなく、最後に殺されもしない——そんな女性の描かれ方を見るのは初めてだった。あの映画、あのキャラクターのあり方は、実に偶像破壊的で、同時に面白くて、そしてパンクだったの。主人公のロバータは私のアイドルだったわ。ニューヨークに移り住んだ時、まずは映画の中でロバータがジャケットを買ったショップを訪れたわ。そして今年、ようやく『マドンナのスーザンを探して』の監督スーザン・シーデルマン(Susan Seidelman)と会うことができたの!

あとは『ハイ・アート(High Art)』。あの当時、あんな映画は他になかったわ。他の映画では絶対に見ることがないキャラクターの描かれ方がされていたの。

『Morvern Callar』も、私に同じような響き方をした映画。一風変わったストーリーではあるんだけれど、リン・ラムジーのディレクションによるサマンサ・モートンの演技は、あの映画を観た私の周りの女性すべてが共感したというほど、真に迫って繊細なものだった。もっとも純粋な意味で、映画とは言葉でどうしても表現できない感情や概念をもって観客と繋がる方法だと思う。あの映画は、そういう意味で私にとってとてもピュアな体験だった。自立することで、若い女性の内側に何が起こるのかを捉えた、素晴らしい映画だったわ。

女性のためになるような変化は、最近の映画業界に起こっているのでしょうか?

特に大手制作会社は頭が硬すぎてなかなか変わろうとしないから、統計学的にはひどい状況が続いてるわね! でも、Lakeshoreをはじめとしてメインストリームのコンテンツを作る新しい会社が登場したり、エイヴァ・デュヴァーネイの配給会社が素晴らしかったり、リース・ウィザースプーンの新しいイニシアチブがとても良かったりと、女性が求めてきた“女性の活躍”が多く見られるようになってきているのも確か。こういう意識の高まりがやがて文化的変化を巻き起こすことになる——でも同時にそれが一夜にして起こるようなものではないということも重々理解しているの。長い時間をかけて私たちがみんなで育んでいかなければならないのよ!

最後に、インタビューしてみたいひとは誰ですか?

リン・ラムジーと、ティルダ・スウィントンかサマンサ・モートンという組み合わせが私にとって夢のインタビューね。リンが作った映画がどれも素晴らしいからということもあるけれど、なんといっても彼女は素晴らしい個性の持ち主だし、男性が考える“女性映画監督”のイメージからはかけ離れた、リアルな女性だから。グラスゴー出身の、労働者階級女性なのよ。

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