匂いとは粒子が空気伝達されるだけのものでもなく、ナビゲーションツールでもない、それに肺に漂う空気でもない。あなたの欲求であり、外の世界との関係でありあなた自身だ。突然激しい脳震蕩が降りかかった、傷跡は膨れ上がり、約一年の間、私の鼻の穴から入る分子の情報処理能力のすべてを失ってしまった。それはみじめで、最悪で、からっぽになった。しかし、時間と体を休め、リサーチと多くの自己意識に目が遠くなるような訓練のおかげで、また初めから世界を学び始めたこと、匂いから始まる。これが私が見出した道のりです。
1. 誰もあなたの匂いについて触れない
自身に伝える能力をすべて失った時、あなたは匂いを感じるほど手に汗握るパニックの連続の中に生きます。そして誰も正直にあなたに教えてはくれないでしょう。
2. 空港でぶち当たる悲しみ
ドバイ空港での4時間もの待ち時間、私は、昔から使っていた香水へと向かっていた − 大学生の時から社会へ飛び出てからも使っていたものだ – ピクルス並みに浴びてもまだ、何も感じない。何も匂わない。こうして去年は最悪の門出を迎えることとなった。
3. 米はいとも簡単に焦げる
すべての食は、実に、少なくとも3つ鍋使っていなければならない。すべては、こげちゃの米に、焼き焦げた玉ねぎ、炭となったポテト、真っ黒となった豆のために永久に溶けてしまった。火事の嗅ぎつけることができなければ、ご近所さんがドアを叩くまでソファでゴロゴロすることなんて容易いこと。
4. 母の香りを懐かしむ
実家に帰り、初めて母を抱きしめた時、感じたショック。彼女の腕のなかに立った際に、彼女のゴワゴワした髪が顔に刺さったこと、そして、彼女が飛びこんで来ても私の胸は微動だにしなかったこと。そして、一番はこの一回り小さくなった女性が私の腕の中でこじんまりと佇んでいた時に、私の身体は母の匂いを感じ取ることができなかった。彼女は何の匂いもしなかった。
5. 匂いのない食事は、ただの塩と砂糖
嗅覚消失の中にも希望の光となるのはスリムなること、と願っていた(または、嗅覚消失の中の光ともいう)。私は、フレーバーという誘惑を避けることができ、ブロッコリーとライスにオレンジで生きることができる。がしかし、しょっぱさ、甘さ、苦味に酸っぱさというテイストを感じることができるという事実が発覚し、苛立たしさを感じた。要するに、ポテとチップスやチョコバーにボールいっぱいのドリトスにといったジャンクフードにおさらばしたということ。
6. 匂いは言語を制す
新鮮な空気、胡散臭い、危険な香り、何かを嗅ぎつける。- これらの言葉に対して苛立つことはないでしょう。こんなことに注意をすることもないでしょう。恐怖の顔面蒼白の顔だったり、奥さんと喧嘩した時みたいに、手を握ってウィスパーボイスで”ごめんね”など。大事なことではないけれど、理解できるのは良いこと。
7. 香らない思い出なんて、ただの悪い絵画のようだ
たくさんのことが起こったこの数年だったが、匂いなしでは思い出すことは難しい。佇んだ丘に、泳いだ海、寝ていたベッド。すべてのことが、なぜかヴィヴィット感にかけるし、記憶が遠い、そしてそんなに起こった感じがしない。
8. そして、また匂いを感じた瞬間、ハートは花火のように弾ける
暑さにやられた時、初めての激しい涙の匂いを感じた。自発的に、空気にワイルドガーリックのピリッとする強い匂いを感じた。約2年越しに初めてのリンゴを食べた時、まるで家に帰ってきたような感覚だった。初めて誰かの手にキスをした時、恋をしたその人の首筋の匂いだとわかった。
9. 土の匂いがするジンジャー
あなたの匂いのパレットを学び直すこと問題は、少しばかり不思議でもある。学生時代の昔のボーイフレンドにと会うようなもので、ただわかることは、金のブレスレットに太い首だということ。ジンジャーは土臭くて、男はオニオン、グレープフルーツは古いコイン、そして、バラは焦げた砂糖の匂いだった。
10. 本当にあなた自身の匂いを忘れてしまう
ある温かい夏の夜、それは少しずつ嗅覚が戻りつつあった6か月前のことで、腕を折り曲げて柔らかい肌に息を吹きかけ、そこに鼻を押し付けた時。深い呼吸。匂い、ほのかに、摑みどころない、なぜだかよく知っている幽霊のような。クッキーに、マッチ、そして微量の紙。それは1年ほど忘れかけていた私自身の肌の匂いだった。