ジェニー・ゲージ(Jenny Gage)の作品を少し調べると、なぜ多くの人がそれを“シネマティック”だと評するのかがわかるだろう。ファッションフォトグラファーから映画監督に転身した彼女は、女性ハリウッドスターたちをとてもさりげなくそのカメラでとらえてきたのだ。まるで彼女たちの名声という名の殻が突如として閉じてしまったかのように、壮大な背景がその前に立つ人間に引けをとらぬ存在感を放っている。
ゲージがパートナーでありコラボレーターでもあるトム・ベタートンと10年以上暮らしたニューヨークは、彼女の意欲作に最大のインスピレーションを与えた。その映画監督としてのデビュー作『all this panic』は、大人の一歩手前にいる7人のブルックリンの少女をとらえたドキュメンタリーだ。青年期と責任ある社会人のはざまにあるこの難しい時期は、過ぎてから思い返すと霞みがかっていることがよくある。学校生活のストレス、不器用な性の目覚め、門限などがモヤモヤと混じり合うその世界は、私たちができれば忘れたいと思っている暗黒時代なのだ。『all this panic』を通して、ゲージはそんな時期を再構築し、美しい何かと狂おしいほどの真実を生み出したのだった。
レナ、サーガ、オリヴィア、アイヴィ、デリア、ジンジャー、そしてダスティ。ゲージがその姿を追ったこの少女たちは80年代の学園ドラマに出てくる不良を思わせるが、その人生はこれ以上ないほど普通だ。きらびやかな時代の恩恵を受けながら、ゲージとベタートンは3年間、彼女たちの姿を追い続けた。控えめな口論や10代のケンカなど、ありとあらゆる出来事をカメラはとらえている。さまざまなものを映し出しながらも、大胆なまでに深く対象を追ったこの作品は、現代の若い女性がどれほど賢く、またどれほど誤解されているかを世に知らしめたのだ。
『all this panic』の元となるアイデアはどんなふうに生まれたのでしょうか。
少女たちのこの時期の生活には、常に興味を持っていたの。私たちに子供ができてすぐ、通りの向こうにジンジャーとダスティが引っ越してきたのよ。彼女たちが学校に行ったり、地下鉄の駅に向かうのを見てたんだけど、話している(であろう)内容に惹かれたわ。
では、どのようにして彼女たちを映画に参加させたのですか?
父親を通じて彼女たちのことは知っていたから、両親にメールを送ったのよ。カメラで追っかけ回してもいいかしらってね。そしたら答えがイエスだったの! おもしろいことに、あの子たちは今じゃこんなことを言うの。「あなたがどうやって頼んだのか覚えてないわ! ある日突然私たちの前に現れたあなたに、いつの間にか慣れちゃったから」
若い女性たちに焦点を当てたストーリーがもっと必要よ。脇役として使うのじゃなくてね。
あなた自身が16歳だったころの生活と、今の女の子たちの生活に、共通点はありますか?
私はカリフォルニアのマリブーで育ったの。すっごく違うわね! マリブーはLAから1時間くらいなんだけど、郊外みたいな感じなの。私がそこにいたころは、どこへいくにも両親に車を出してもらうよう頼まなきゃいけなかった。環境は違うけど、あの子たちがキャラを変えてみたがったり、何時間も自分の部屋に閉じこもって音楽を聴くことにはいつだって共感したわ。それがティーンのいいところじゃない。自分と向き合う時間は十分にあったわ。たぶん、ありすぎるくらいにね。
ニューヨークは多様な文化が折り重なっている街です。映画に登場する女の子を使って、あなたはそのことを非常に巧みに描いていますね。有色人種の少女もいますし、何人かは自らの性的指向に気づき始めている。大切なのは彼女たちの声なのでしょうか。
そうね、それが主題よ。あの子たちに、自らのストーリーを語る場を提供したかったの。若い女性たちに焦点を当てたストーリーがもっと必要よ。脇役として使うのじゃなくてね。賢い女性たちがお互いを支え合っている姿を示したいという、強い欲求があったから。アメリカの政治状況とは裏腹に、いまどきの成人間近の人たちって本当にすごいんだから! その流動性や性的傾向、お互いを支え合うこと、オープンさ。現代のティーンには、たくさんのポジティヴな要素があるのよ。
セックスや飲酒、パーティについて、映画の中では正直で率直な意見が交わされます。カメラの前であれほどオープンでいることを、彼女たちはなんとも思っていなかったのでしょうか。
もちろん思ってたわ! ときどき、自分が話した内容について心配したと思う。でも正直に言って、恥ずかしいと感じていたのは、たいていの場合トムと私で、あの子たちじゃなかった。同じ部屋にいる唯一の男性だったトムは、いつも1人で赤くなってたわ! 映画を撮り始めた当初は、セックスやパーティはあの子たちの頭の中にはなかったの。友情や学校生活に夢中だったから。成長するにつれてそういうことが自然に湧きあがって、ボーイフレンドとかガールフレンドについて考え始めるようになったのね。だから、そういう話題が上がったのは自然なことなんじゃないかしら。
同じように、女の子たちのあいだでは、涙を流すような場面や、言い合いもありました。そういうときは映さないようにしようとは思わなかったのでしょうか。
映画にするにはプライヴェートすぎると思うこともあったわ。そんなときは映さなかった。たぶん、ほかのドキュメンタリー映画監督なら、無理やり撮っていたかもしれないけど……。
彼女たちの年齢についても考慮しなければいけなかったのではないでしょうか。
その通り。あの子たちは若いから。街を歩くときも、すばしこくて流れるようなのよ。トム(と私)は、追いつくために小走りしなきゃいけなかったくらい。家に帰り着くまで、いったい何を撮ったのか見当がつかないなんてことも、ときどきあったのよ!
友達と一緒にこの映画を見たのですが、2人とも、若きフェミニストとしてまともに受け入れてもらうことについて話すサーガのスピーチに舌を巻きました。文句のつけようがないほど雄弁でしたね。
でしょう! 若い女性たちが今考え、話している内容がどれほど重要かということに、みんな気づき始めているの。映画に盛り込んだこと以外も、サーガは話してくれたわ。彼女はすごく賢いし、政治的にもアクティヴなんだけど、こんなことも言うのよ。「だけど私、ワン・ダイレクションにも超ハマってる。何にもおかしいことなんてないでしょ!」 彼女たちの(興味があることの)すべてが大切ってわけじゃないの。あの子たちは複雑なのよ。
映画を撮影していた時期を思い出させる香りはありますか?
ニューヨークのそこかしこにある10代の女の子のベッドルームで撮影をしたから、(一番思い出に残っている)香りは、何かのお香ね。燃えているロウソクや、熱の香りも。あの子たちのベッドルームって、いつだって暑いのよ!
大人になる手前の子を描いた映画で、お好きなものはありますか? 彼女たちにその映画の話をしましたか?
『フィッシュ・タンク』と『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』が大好き! どんな映画が好きかって聞いたとき、あの子たちは『パロアルト・ストーリー』に共感するみたいだったわ。これはわかる。ティーンのアンニュイな気分を、はかなくそして美しく描くこの映画は、あの子たちにぴったりハマるもの。私たちみんなが好きって言ったもう1つの映画は『スタンド・バイ・ミー』。でもあの子たちったら、こんなことを言うの。「どうして女の子にもこういう映画がないの? 私たちの『スタンド・バイ・ミー』はどこよ? 私たちの少年時代はどこに行ったの?」
悲しいことに、今でも、女性がお互いを賛美し合うメインストリームの映画というのはないようですね。
その通り。リアリティTVの絶頂期に、私たちはこのドキュメンタリー映画を撮っていたわ。でも、(あの子たちの)誰もが「他の女の子の悪口を言っているところなんて見られたくない」って言っていたの。すごく美しいことよね。