ゲーム版『インディアナ・ジョーンズ』とでも言えそうな、プレイステーション3用アクションゲーム〈アンチャーテッド〉3部作の指揮をとり、現在は〈エレクトロニック・アーツ〉社のもとで9桁の予算が注ぎ込まれているという『スターウォーズ』のゲーム開発を仕切っている、エイミー・ヘンニグ。ゲーム業界で最もスピルバーグに近いと言われる人物だ。
「皮肉なことに、私、『インディアナ・ジョーンズ』か『スターウォーズ』の新作を監督したいって考えていたのよ。ルーカスやスピルバーグになりたいってね」と彼女は回想する。「でも順番から言ったら私なんてまだまだだって思い知らされたし、映画業界で女性がたどりつける地位なんてたかが知れてるって言われたわ」。
ヘンニグの言葉から映画監督らしさが感じられたとしたら、それは彼女がそのポジションに近い存在だからだ。英文学の学位を持つ彼女は、サンフランシスコの大学の修士課程で映画の理論と制作を専攻したのち、その目標をハリウッドに定める。しかし、彼女が実際に仕事を得たのはゲーム業界だった。「ゲームの世界に行ったのは、そっちの方が比較的女性に対して寛容だったからよ」。
ヘンニグが初めてクリエイティヴチームの指揮をとったゲームは、スーパーファミコン用ソフト〈マイケル・ジョーダン〉だった。人気選手をフィーチャーした〈シャック・フー〉というアクションゲームが発売されるなど、NBAのスター選手を使ったゲームを開発会社が望んでいた時代だったのだ。結果的にこのゲームはすぐに人気となり、評価の高い〈ソウルリーバー〉シリーズの開発へとつながった。そしてまたその成功によって、いまや大手となったゲーム会社〈ノーティドッグ〉が、彼女をプラットフォームゲーム〈Jak 3〉、そしてシネマティックな〈アンチャーテッド〉3部作の開発リーダーに抜擢することとなったのである。
しかし、ヘンニグ自身は、ゲームのクリエイティブチームリーダーという自分の立場がまったく意味のないものであるように感じ、ひどく失望していた。現在でも、ゲーム開発に携わる女性の割合は全体の22%に過ぎないのだ。
「私が業界に入った頃は10%くらいだったけど、今でもそんなに増えてるわけじゃない。残念だけど、業界にあまり女性が入ってこないっていうのが事実なの。メディアだけじゃなくて、教育すらも、この業界のことをネガティヴに語るから。女性のプログラマーたちは、私が映画なんかにうつつを抜かすんじゃないって言われたように、ゲームなんかにうつつを抜かすんじゃないって言われてきたのよ」。そう語ったのち、彼女はこう反論を始めた。「だけど、もうすぐ時代は変わるわ。今は女の子たちを迎え入れて、偏見を正す時期ってだけ。もちろん性差別的な言葉を投げつけられることはあったけど、そんなのもう過去のことよ」。
〈アンチャーテッド〉の制作を通して、へニングは自分がどれほど俳優とのリハーサルやコラボを楽しんでいるかを知ったという。そして、声優にアドリブを許し、お金のかかる変更不能な台本をやめることで、通常は世に出ることのないノーラン・ノース(〈アンチャーテッド〉のネイサン・ドレイク役)のような名声優の育て親として知られるようになったのである。
実際、ハリウッドの俳優たちも今や映画と同じようにゲームをとらえるようになったと話すとき、彼女の顔は喜びに輝いていた。
「以前はテレビの役者と映画の役者は完全に別で、交わることもなかったでしょう。ゲームはよく最下層のメディアとして扱われるけど、今はゲームの画面でも映画と同じように顔だけで感情表現ができる時代。昔は俳優たちにゲームがどんなものかとか、そこに関わる意義とかを説明しなきゃならなかったわ。今では、現場でよくハリウッド俳優にもお目にかかるようになった。おかしなことに、彼らは私をセレブみたいに扱うの。みんなテレビはもう終わったなんて言うけど、まだまだよ。ゲームもまったく同じ」。
しかし、その変化の過程で、ヴァーチャル・リアリティ(VR)には侵されたくないのだとヘンニグは言う。「IMAXシアターからVR用機器をなくせってわけじゃないけどね。ストーリーをただ見せるんじゃなくて、メディアが観客を刺激し、考えるきっかけを与えたり、感情を呼び起こす力がVRにはあると思うから。ただ安易すぎるの」。
恋愛とマシンガンの虜でインディ・ジョーンズ風のネイサン・ドレイクが、伝説の宝を求めて地球を探検するという人気ゲーム〈アンチャーテッド〉3部作。そのクリエイティヴ・ディレクターを務めあげたヘンニグは、その後もっと小さなプロジェクトに関わりたいと思うようになった。本音を言えば、彼女の心は「より自由」でインディペンデントな環境を求め、そこで「ひと言も会話のない」ゲームをつくりたいと考えたのである。彼女はこう説明する。「小規模なインディ映画をつくりたいって思う映画監督のような気分だったのよ。でも、そんなとき〈エレクトロニック・アーツ〉社と〈ルーカス・フィルム〉からお呼びがかかって、『スターウォーズ』のゲームをつくらないかって言われたの」。そして少し間を置いたのち、彼女は意図せずに『ゴッドファーザー3』でアル・パチーノが言ったセリフを引用したのだった。「たった今自分が外されたと思ったところで、オファーを受けた。ノーと言えるはずがないだろう?」
開発元である〈ヴィセラル〉社も販売元の〈エレクトロニック・アーツ〉社も、2018年など遥か未来のことであると考えていたようで、詳細はほぼ知らされなかったという。それでもヘンニグは、自らの役割について「オープニングの日に公開される『スターウォーズ』最新作の中に、プレーヤーが実際にいるかのように感じさせること」なのだと話す。
彼女は言う。「『スターウォーズ』を見たことがある人なら、あの映画が一つの目標に向かって戦う陽気な仲間たちの話だってことがわかるでしょう。明確な主人公はいないの。でもレイヤやハン・ソロを単なるサブキャラとも呼べない。ゲームを映画みたいにしたいのなら、同じ方法でつくらなきゃならないの。はるか宇宙で登場人物を動かしてたかと思ったら、お次はジャングルでさまようって具合にね。マルチな登場人物がいないと、『スターウォーズ』のにぎやかな感じは出せないわ」。
ヘンニグは「ゲームと映画の共通点」には興味がないが、「ゲームにできて映画にできないこと」には関心があるという。映画の方が強い印象を与えるという意見もあるかもしれないが、ゲームでは登場人物の感情をほぼそのまま感じることができる。「〈アンチャーテッド2〉では、ネパールで悪役に待ち伏せされ、カメラマンがケガを負う場面があるんだけど、彼は自分をおいて行けと言うの。そこで主人公のネイサンは倫理的な選択を迫られるってわけ。カメラマンを連れて行くとスピードが遅くなるから、プレーヤーは実際にその重みを感じることになるわ。映画では、この重さを表現することはできないでしょ」。
だが、もっとこじんまりとした環境で心のこもったゲームをつくる機会が到来したら、彼女はゲーム開発業界のトップの座から喜んで降りるというのだろうか。〈ノーティドッグ〉社のもとで〈アンチャーテッド〉シリーズを制作しているあいだ、ヘンニグは「労働時間が週80時間を切ることはなかった」と話す。
「(インディペンデントな開発者が)時間をかけられるのがうらやましいし、インディの開発環境っていろんな意味でストレスが少ないの。こっちが数百人のチームで開発するのに比べて、もっとパーソナルだしね。でも、できるだけ言葉を選んで言うけど、彼らの方も私が持ってる9桁の予算がうらやましいかもしれないわよね」。
そして、そのびっくりするような言葉のあとで、彼女はこう予見した。「私はただ楽しくやりたいの。ゲーム業界が映画業界みたいになればいいなって思ってるのよ。監督がその晩年まで作品をつくれるような。私が知る限り、引退なんて存在しないみたいだもの」。
一時は自身も監督を志したヘンニグ。しかし彼女がパソコンとにらめっこする道を選んでくれたのは、私たちにとっては喜ばしいことだった。