現実を抜け出し幻想的な世界へ誘う、アーティスト須藤絢乃

夢か現か、まるで白昼夢のような幻想的な作品の中で、被写体は解き放たれ、きらめき、抱いていた願望を叶える。フォトグラファーでありアーティストである須藤絢乃は、その独自の方法論でときに自らを、そして他者を美しく幻惑的にとらえて、この現実から色鮮やかな異世界へとかろやかに運ぶ。

被写体の性別を超えた変身願望や理想像を写真に納める、須藤絢乃の作品の一貫したテーマだ。それはどの作品を見ても一目瞭然であり、見たら最後、その独特の世界に一瞬にして引き込まれる。目に見えない内なる願望、そして衝動を、彼女は身をもっていとも簡単に具現化する。少女マンガのカラー原稿と写真の狭間にあるようなそのクリエーションは唯一無二である。

『Ye Lai Xiang for Ahcahcum look book 2016SS』

『浅草に死す Death in Asakusa』

『Autoscopy』

その作品の数々は、独自のテクスチャをもった印画紙にプリントされる。さらにラインストーンや、グリッターなどで装飾され、照明の元でキラキラと輝く仕様になっている。作品が描き出す世界によって、構図、色使いから装飾の細部にわたるまで、緻密に練られている。

『FULUFFY GIRL』

『幻影 Gespenster』

実在する行方不明の少女たちに自ら扮したシリーズ、『幻影 Gespenster』でキャノン写真新世紀2014年グランプリを受賞し、注目を集める。「制作中は彼女たちの悲しい気持ちをどうしても考えてしまい、とてもつらかったのですが、私には彼女たちの魅力、光を見いだしたい気持ちがありました」と受賞時に語ったその言葉の通り、作品からは限りなく続くはずであった日常へのやりきれない思い、悲しみ、そしてその奥にあるかすかな光を感じ取ることができる。彼女の切実な思いが作品として結晶化している。同タイトルの作品集も、フランスの出版社から刊行されている。(写真上)

『An art dealer and his wife』

『beauty and beast』

鑑賞者は、作品を眺めているうちにみるみる平衡感覚を失い、その彼女のイマジネーションのなかへ、美しさに包まれた世界へと誘われる。写真というパラレルワールドでのみぞ理想は現実に変わる、彼女の作品を見ているとそんなことを思い抱く。

写真展 『てりはのいばら』

つい先日まで、芦屋市谷崎潤一郎記念館にて開催されていた写真展「てりはのいばら」では、谷崎の代表作である「細雪」に登場する蒔岡姉妹をモチーフにした新作セルフポートレートを発表した。作品中には、かつて谷崎が実際に住んでいた芦屋の家(富田砕花旧居)や、愛用の家具たちが登場する。また、衣装では、船場をルーツに持つ須藤の祖母が大切にしてきた着物や小物を用いている。大阪・阪神間で育った須藤が「細雪」を通して見た阪神間モダニズム、そして近代の女性像を自らが被写体になり、体現してゆく作品となっている。

須藤 絢乃/アーティスト、フォトグラファー。2011年、京都市立芸術大学大学院修士課程造形構想を修了。同年に、ミオ写真奨励賞にて森村泰昌賞受賞、その後、アメリカはNYにて写真フェアでデビュー。2014年、キャノン写真新世紀グランプリ受賞。

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