女性写真家、カミーユ・ヴィヴィエの見つめる影

女性の視点から見る官能性、それは一体どんなものなのだろうか? フォトグラファー、カミーユ・ヴィヴィエが探し求めているのは、ありのままの官能、質素な被写体、そして女性の肉体だった。

女性は、他の女性に対して明らかに異なる視線を投げる。フランス人ファッションフォトグラファー、カミーユ・ヴィヴィエ(Camille Vivier)のウェブサイトを見ると、女性の被写体と、その女性らしさをかたち作る目に見えない何かをとらえる彼女の視点は、他に類を見ないものであることがわかる。1977年にパリで生まれたカミーユは、官能性を他の誰よりも気高いものに変えた。華美なファッション関連の写真とは隔絶した彼女の個人作品は、女性の肉体の多様性を自由闊達に探求している。レンズを通すことで、カミーユは女性をギリシャ彫刻のようにとらえ、美しさが身長や体重に由来するものではないということを明らかにした。小さな動き、ポーズ、振る舞いや体の曲線に、美は宿っている。彼女のアーカイヴを共に見直しながら、私たちは女性の視点について話をした。

"いつも作品を通して、お互いに引き立てあうけど、まったく異なる世界観をくっつけようとしているわ"

こんにちは、カミーユ。あなたはよく、見事な建築物の前に裸婦を配置した写真を撮りますよね。作品に共通したテーマは何ですか?

実はね、私、生き生きと動く体とそうでない体に共通項をつくるのが大好きなの。奇妙にも、近しくも感じられる、超自然的で、精神分析学的な考えを呼び起こす建築物や、擬人化された物にも関心があるわ。つまり、不可思議で滑稽なギリシャ彫刻が持つ、静かな官能性が大好きだってことね。型にはまったつまらないポーズ(よく物や円柱、イスなんかでモデルを囲むでしょ)をとらせることって、私にしてみたら、他のどんなポーズよりもエロティックに感じられる。いつも作品を通して、お互いに引き立てあうけど、まったく異なる世界観をくっつけようとしているわ。例えば、肉体とコンクリートとか。そこに演出を加えることでモデルと自分との間の距離を保ち、私自身があまり作品に影響を及ぼさないようにしているの。

あなたは優れたファッションフォトグラファーでもあります。アートや写真によってあらゆる種類の肉体を表現することは重要だと思いますか?

ええ、そう思うわ。美しさの定義を決めつけるのには我慢ならない。個人的な作品を通して私が表現したいのは、強くて自信に満ちあふれた女性たち。美しさのスタンダートに挑み、自分がなりたいものになることを選んだ女性たちよ。

"官能性は対比と不完全さにすべて集約されていると言える"

女性フォトグラファーであることが、自分の美的感覚に影響していると思いますか?

もちろんよ。被写体の女性と私との間には、常に暗黙の契約があるの。畏れとかパワーバランス的なものはなくて、平等な立ち位置でのことだけど。女性フォトグラファーである私の目標は、写真を通して、強さや力を与えること。私たちが慣れっこになってうんざりしている、伝統的で家父長制的、性差別的で男性的な視点からは遠く隔たったものよ。私は、被写体と自分との間に、謙虚な関係を築きたいの。

官能性に対するあなた独自の定義も一般的な基準に縛られていないことは、想像に難くありません。

私にとっての官能性は、対比と反対から生まれるの。未熟と誇示、洗練とつつましさとかね。たとえば、私にとって質素さは官能性を暗示するわ。たいてい、未熟で謙虚な被写体や、とげとげしくて粗野な形状のものに官能性を見出しているの。私からすれば、官能性は対比と不完全さにすべて集約されていると言えるわね。

香りは、視覚的な作品をつくる現代アートの作家の道具には、あまりなりません。みなさん、他の感覚器官を使うことが多いですから。どうしてそうなのか、ご意見を聞かせてください。

香りって、視覚的に表現するのが難しいからじゃないかしら。それに、香りは私たちの一番奥にある記憶に直接働きかけるでしょう。それって、通常とても表現がしにくいの。私の作品では、香りはひっそりと内在するものであって、微細な表現としてあたりに散りばめられているわ。鉱物や粘土、木の香りが、作品と私自身を再び結びつけるの。すごく個人的な感覚だけど、私、教会の匂いにすごく惹かれるのよ。すごく安心するんだけど、アイデアソースとしては使えない。だって、感情的すぎるから。

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