台湾人アーティスト、デビー・ウー(Debby Woo)のイラストは、例えば恋愛、SNS、そして日常生活における人間関係に根差したネガティヴな感情を表現したものだ。デビーが最初に自身のイラストをネット上で公開したのは、まだ高校生のとき。以来、ロマンティックな恋愛やSNS上の人間関係をテーマにした感情豊かな作品で注目を集めている。2013年には、『Debby W∞ Love Encyclopaedias』と題された初めての作品集を出版し、続いて昨年『Debby W∞ Handbook for Healing a Broken Heart』を発表している。後者には、人間関係によくみられる不安な気持ちをもとにしたイラストのほかに、〈Insecure Asian Girls〉シリーズからの作品も多く掲載されている。〈Insecure Asian Girls〉では、デビーがインスタグラムでみつけた4人の女性に人間関係に関する質問をし、彼女たちの答えをベースにそのポートレイトを描いたもの。その4人とは、中国人モデルのチェン・シュエ(Cheni Xue)、台湾人アーティストのジャン・ヨウイ(Yuyi John)、中国人ハーフモデルのローレン・サイ(Lauren Tsai)、そして台湾人モデルのジュ・ホ(Ju Ho)。彼女たちの奥深さ、そしてその個性が決め手となった。
どこから作品のインスピレーションを受けるのですか?
たいてい、私自身か友達の恋愛ね。特に失恋や、それにともなって感情を吐き出すことからインスパイアされるの。作品の中では、そんな負の感情にちょっとだけ前向きな要素を加えるようにしているわ。
ビジュアルアートが持つメッセージ性を言葉で表すなら、どのようになりますか?
言葉遊びみたいなもの、スマートな表現方法だと思うわ。それぞれの人がそれぞれ異なる解釈をする、主観的なものよ。こちらが明確な解釈を持って描いたものでも、結局みんな独自の解釈をするわ。だから、絵画はよく心理療法の一形態だと考えられるのね。無意識化で考えていることがわかるから。魔法みたいよね。
あなたの人生において、恋愛が持つ最大の意義とは何でしょうか。
言葉にするのはすごく難しいわね。今、恋愛よりもっと大切だと思えるような関係性があるの。友達関係と親族関係の中間でバランスを保っているような関係なんだけど、この調和が私にとってはちょっと意外だったわ。私って、1カ月記念日とかそういうものを大事にするタイプじゃないの。1年以上つき合ったら、細かい記念日を祝う必要はないから。私にとって恋愛は、よりよい人間になるための最大の刺激なの。
「どんな恋愛であれ、私にとって愛とは常に与えることであり、信頼は恋愛関係における疑念と恐れを解決する唯一の手立てなの」
あなたの本『Love Manual of Self Healing』は、人間関係における不安感をテーマにしていますね。このテーマを思いついたきっかけは何だったのですか?
私はひとりっ子だから、人との離別をひときわ恐れていたの。でもその一方で、一生続くような関係性にもおよび腰だったわ。だって、人生を通して継続する関係性の存在が信じられなかったから。そんなわけで、自分自身を捧げすぎているようにも、過去の人間関係にとらわれ過ぎているようにも感じていたの。このかなり一方的な感情のおかげで、相手はよく私に無関心になってしまったわ。このテーマを扱った本を出すにあたって、恋愛をぶち壊したり、好きな人を遠ざけてしまったりする悪しき習慣の根本的問題を探る手段としてイラストを活用したの。すべてお手柄ってことにしてね。価値を高めるためにセンセーショナルにしたり悲劇的にしたりする必要はないわ。
あなたが考える愛とはどんなものでしょうか。
愛とは、それを知るために一生かかると感じるようなもの。無限のものよ。3年くらい前に、私、生きる意味を見失ったことがあるの。「人生の目的って何?」って自分に問い続けたわ。すぐに、その答えについて自分なりの結論が出た。どんな恋愛であれ、私にとって愛とは常に与えることであり、信頼は恋愛関係における疑念と恐れを解決する唯一の手立てなの。しょっちゅう、信じることを思い出すようにしているわ。
どのように自分の感情をイラストで表現しているのですか? 制作はどうやって始めるのでしょうか。
言葉を絵と結びつけるのは、いつだって簡単。まず自然と頭の中に浮かんだ言葉を書き留めて、それから言葉に関係する考えを、物語やカギとなるアイテムにまで発展させるの。そしたら最初のラフを描いて、絵にして、色づけね。
シリーズ作品〈Insecure Asian Girls〉について、アジアの女性はほかの文化圏の女性と比べて、感情表現や感情が異なると思いますか?
私もアジア人女性だけど、文化の違いは確実にあると思う。コミュニケーションに関して言えば、私たちってふつう“シャイ”だって形容されるわ。例えば、アジアの女の子は、脈がありそうな相手に過去の恋愛のことを聞くのをためらうことがよくある。プライバシーの侵害じゃないかって感じるのね。デートをするようになると、もっと聞くのが難しくなる。そのせいで、長いことつき合っている相手でも、ある特定の価値観だけわからないってことが起こるの。欧米人と比べて、アジア人は感情を表に出さないし、コミュ力も高くない。だから、アジア人がつくる曲は心の奥の感情にふれたものが多いのね。そういう曲の中で、相手の感情を想像したり、あえて聞くことをしなかったり、疑問を呈したり、ためらったり、淋しがったり、誤解したりするの。私たちが心の中に持っている制約がすべて取り払われたら、そんな複雑な感情は必要なくなってしまうでしょうね。
もし愛に香りがあるとしたら、それはどんなものだと思いますか?
チキンスープの香りが一番しっくりくるんじゃないかしら。それか、大きな鍋で出てくる温かい食事。私はその香りを嗅ぐとワクワクして、安心して、ほっこりするの。
あなた自身がこれまでの恋愛経験から学んだ、最も大切なこととは何ですか?
ベストを尽くすこと、責任を持つこと、過去は過去に過ぎず、覆水は盆に返らないと知ること。
現在進行中のプロジェクトについて教えてください。
間もなく、北京に住んでいる女の子たちに焦点を当てたイラストのシリーズに取りかかるわ。去年の夏、2週間ほど北京に滞在していたの。今年の夏か来年には、もっと長いあいだそこで過ごして、現地の人たちと恋愛関係にあることないことについて話をしたいと思っているわ。取りかかるのが楽しみで仕方ないのよ。