映画監督ラリツァ・ペトローヴァ(Ralitza Petrova)は、子供の頃、よく美術作品を作ったという。そして、20代前半になり映画を撮り始めると、「アートを見たり作ったりしていた子供の頃、そこにあったリズムが恋しくなった」のだという。愛する者の自殺に苦しむティーンたちを東京で追った実験的ドキュメンタリー映画を作り上げた後、ラリツァはロンドン芸術大学(University of Arts London)で映像を学び、英国国立映画テレビ学校(National Film and Television School)でフィクション・ディレクティングの修士号を取得した。共産主義がブルガリア国民達の日常に与える影響を見つめ、苦境に直面したとき人間がやむを得ない嘘のうちに見せる真実の姿をリアルに映し出した彼女の最新作『ゴッドレス(Godless)』は、2016年のロカルノ国際映画祭で、金豹賞、女優賞、エキュメニカル審査員賞を受賞した。
現在はブルガリアのソフィアに暮らしている。ソフィアは、ロンドンから想像もつかないほど混沌とした街。
フィルムメイカーとして、私は混沌とした場所に惹かれます。疑問を呈すべきことも、伝えるべきことも、混沌とした場所のほうが多く見られるんです。またそういう地域ではロンドンやニューヨークなどに見られる“ホットなトレンド”に気をとられることもないので、クリエイティブな視点を形にしていく可能性の余地があります。
スペースの雰囲気に敏感な人間。
ものの構造にとても影響を受けます。だからイメージやサウンドのアイデアを書き留めておくのですが、これが、作る映画の中でフィクションとしての文脈の中に突然意味をなして浮かび上がってきたりします。私は、ものの意味を取り払って、もとは関連がなかったものをつないだりするのが好きです。ブルガリアのピリン国立公園(2,914平方メートル)に見る厳粛な美しさが好きです。ヴァシレシュキ湖(Vasilashki Lake)のほとりにいると、とても静かな気分になります。
新たな視点から見つめ直すことで、私をとりまく世界を理解したい——その思いが、私を映画監督の道へとひた走らせた。
アーティストやフィルムメイカーは、とてもラッキーな存在です。作品んやストーリーを通して、さまざまな人生を体験できるのですから。“○○ごっこ”をずっと続けているようなものです(笑)。それはそれは美しく自由な世界ですよ。フィルムメイキングの芸術性を私に初めて見せてくれた作品は、デビッド・クローネンバーグ監督の『ザ・フライ(The Fly)』でした。そのミニマリズムに魅了されましたね。緊迫した雰囲気のアパートですべてが撮られているんです。息を飲みました。
道徳の視点から映画を作る。
社会が何を許し、何を許さないかについて疑問を呈するのが好きです。醜いと考えられがちなものに美を見出すのが好き。純粋だと考えられがちなものに闇を見出したり。子どもの頃から、社会通念に疑問を抱き続けてきたんです(笑)。私は、感情の奥底から湧き上がるものを大切に、寓話的な見せ方で映画を作ります。実体験をフィクションと織り交ぜることによって、複雑な物語やアイデアを描くことができるんです。ビジュアルとサウンドで刺激することによって観客をストーリーの中へと引き込む——そんな映画作りを心がけています。
これから死ぬまで同じものしか食べてはならないとしたら、きゅうりを食べ続ける。
きゅうりは98%が水分でできていますから、きゅうりさえ食べていれば水分補給には困らないだろう、と。おそらく私は通常のひとよりも多くの水分を必要とする身体なのだと思います。6フィートと長身だからかもしれません。きゅうりはブルガリアでとても人気のある野菜です。サラダや、夏に食べるスープのタラトゥールにもきゅうりはたくさん用いられます。タラトゥールは、ヨーグルトと水でベースを作って、そこに擦ったウォルナット、ニンニクを少々、そして砕いたきゅうりを入れて、レモン汁を加えます。ぜひ作ってみてください。夏向けの、とてもさっぱりとした味のスープですよ。