ファッション界でクリエイティブに商業アートを作り出すかたわら、“アンチ・ファッション”のアウターを作り出すラグジュアリー・ブランド、Moose Knuckles Cananaでクリエイティブ・ディレクターを務めるなど、ニューヨークをベースに、領域を超えた作品世界を作り上げているステフ・ホフ(Steph Hoff)。彼女は、旅を通して得た知識や経験を作品に落とし込んでいく。
アーティストとして最初に使った素材はブランケット——よく妹とともに、クッションやキルトを使ってリビングに要塞を作って遊んだ。
私の母は、トロント郊外、メノナイトやアーミッシュのコミュニティと隣接する小さな町に育ったんです。母はキルトのオークションに出かけるのが好きで、だから家にはハンドメイドのキルトがたくさんありました。テキスタイルや服というのは、寒さや怪我から体を守るという明確な目的のもとに作られています。それを踏まえた上で、私はMoose Knucklesでもキルト作品でも、パーソナルなスタイルでも、作品のモチーフでも、そこに実用性とオーセンティシティを大切にしています。「頑丈で温かく、質の良いものを」、と。
昨年夏、オンタリオのウォータールー郡で4ヶ月を過ごした。すべてが猥雑で高速な現代社会とは対照的に、極限まで質素を追求したメノナイト流の生活様式に、強く惹かれた。
その独自の、厭世的ともいえる生活様式に感銘を受けました。そして、彼らと私の共通点として、キルトの存在がありました。キルトに注ぐ愛情は私たちが共通して持っているもので、それを通して私たちはお互いにアーティストとして尊敬し合い、お互いの間にある違いを凌駕しました。用いた生地はすべて現地で作られたものを選び、デザインには伝統的なものから現代のものまですべてメノナイトのものを用いました。すべての作品がだいたい80時間ほどかけてできあがり、機械は一切使いませんでした。
ケースから出してプレイヤーに入れて、ボタンを押して、早送りや巻き戻しを繰り返して曲の冒頭部分を探す——無機質なMP3では決して味わえない、カセットテープのそんな面倒な面が好き。
そういう煩わしさがあってこそ、音楽との深い、感覚的な繋がりというものが生まれるんだと思うのです。手間と時間をかけなければ決して生まれないもの——今季は、手描きのスケッチや、自分の足で歩いて見つけたアイテムのキュレーション、コラージュなど、とにかく時間と手間をかけたプロセスを大切に、作品作りをしています。最終的な作品がウェブサイトのコンピューター・グラフィックになったとしても、そこに感覚的な関係性が深く感じられるアートやアイデアを生み出したいと願っています。
1960年代のSF映画、コミック『Hate』、皮肉、パティ・スミス(Patti Smith)の文学世界、エンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)の音楽、美しい顔、東京、母とのドライブ、デヴィッド・リンチ(David Lynch)の映画世界、洗濯したてのシーツ、16歳のスケーター、パンクのファッションなどが私のインスピレーション源。
多文化が混在する環境と、労働者階級の不満、無秩序な街のあり方、母の個性が、私の人格形成に大きく影響しています。私は、労働者階級が多く暮らすトロント郊外で、シングル・マザーの母のもとに育ったからです。母は、私がこれまで出会った中でもっとも子供っぽく、遊び心に富んで、とにかく個性的な人です。
これまでも、そしてこれからも、個性的なひとと、カウンターカルチャー、反逆精神に惹かれ続ける。
物心つくかつかないかというほど幼いとき、顔のいたるところにピアスをし、髪をモヒカンにしてハンド・ペイントを施したレザー・ジャケットを着たパンクスを見た記憶があるんです。「なんてクールなんだろう」と思ったのを覚えています。当初はただ周りの人たちとは違うんだということを表現するために格好を真似していたにすぎませんでしたが、それが私のクリエイティブ・プロセスの根幹部分となり、「革命的なアイデアを生み出したい」という終わりなき探求の旅となりました。メノナイトは、ある意味でパンク精神を貫いているひとびとだと思います。彼らは嫌がるでしょうけれどね。でも彼らの信条の根幹にあるのは、「反体制」という姿勢です。彼らの服装ひとつをとっても、クールとしか言いようがありません。