自身と、自身をとりまく環境を題材として、ジャンルを超えた作品を生み出し続けるアーティスト、タメカ・ジェニーン・ノリス(Tameka Jenean Norris)。イェール総合大学院でアートを学んだ後、彼女はジェンダーや人種、LGBTQIコミュニティ、社会階級に関連した問題を扱うことで、「アイデンティティ」を根本としたテーマを模索してきた。タメカが作り出す世界観のルーツは、ラップとヒップホップのカルチャーにある。模索の工程にも、アートとポップカルチャーのエディティングにも、作品中で彼女が投げかける疑問と、自ずとしてそこに生まれる答えにも——独善的で偏狭なイデオロギーに対し、彼女は、幼い時分にラップとヒップホップが教えてくれた「果敢な姿勢」と「プロテストの声」を、自身の創作で実践している。実体験と思い出に駆り立てられて創作活動を続けるタメカは、パフォーマンス・アートからペインティング、映像、インスタレーション、写真、音楽まであらゆる手段を用いて、これまで自身が知り得てきた「自分という存在と人生」を通し「アイデンティティ」というテーマを模索する。
アートに関して思い出せる最初の記憶は、私が子供の頃、「ザ・ジャジー・レディ(The Jazzy Lady)」としてラジオ番組のパーソナリティ/DJをつとめていた母が、ラジオ局でリスナーにレコードを紹介していた姿。
夜勤の母についてラジオ局に泊まったりするとき、使われていないDJブースに忍び込んで、プリンス(Prince)やシャーデー(Sade)といった当時私が大好きだったアーティストのレコードに合わせて感情いっぱいに歌ったりしていました。観客を前にコンサートで歌うシンガーという設定でね。
医療・歯科保険に一切の未払いがない状態を誇りに思う。
アーティストの多くは、企業という大きな後ろ盾があるか、もしくは長期プロジェクトで組織に支援でもしてもらっていない限り、保険がない状態で暮らしています。アーティストの世界は競争社会で、常に篩に掛けられているようなもの。仕事もいつなくなるか分からない。誰もが公平で安く保険を利用できる社会が理想だけれど、悲しいことに現実はそうじゃない。
マリファナの煙と、コロンCool Water by Davidoffの香りが、若かりし頃の記憶を呼び起こす。
あのコロンはスモーキーな香りだとずっと思っていたんだけれど……いま嗅いでみると、そこにはスモーキーさなんてまったくないんです。
高齢者と赤ちゃんという存在に、心動かされる。
老人と赤ちゃんこそは、人間という存在の中でもっともひたむきな状態にある——もっとも究極の瞬間を生きている存在。先入観やかっこつけには幼すぎたり歳を取りすぎていたりする、あの状態に、わたしはとてつもない敬意をおぼえるんです。
スマートフォンの目覚まし機能で、毎朝わたしを起こしてくれる鳥の鳴き声が好き。
季節にもよるけれど、外で鳴いている鳥の声と、スマートフォンの鳥の鳴き声を聴き分けられるときがあります。目覚めてからしばらくはベッドの中に横たわって、二種類の鳥の声に耳をすますんです。聴き分けられたときはとても幸せな気分で一日を始められます。そうやってまた新しい朝を迎えられるということは、なんて幸せなことでしょう。