想像を掻き立てる、GIMICOの独特な世界観に浸る

2016年パラリンピックの閉会式で、世界に衝撃を与えた義足モデルGIMICO。彼女はサロンオーナーというフィールドでも活躍している。その謎めいた存在に興味を抱く人は多いはず。そんな魅惑的なGIMICOワールドへと誘う。

高層ビルやマンション、店が立ち並ぶ都会のど真ん中にモデル兼サロンオーナーのGIMICOが経営する〈GIMICO SALON〉はある。マンションの最上階にたどり着きエレベーターを降りると、騒がしくも美しい大都会を見下ろすことができる、何だかスペシャルな風景が広がっていた。彼女のサロンは、静かで暖かなプライベート空間だ。出迎えてくれたGIMICOは、まるで人形のようだった。ブロンドの髪に艶やかな肌、ふわりとボリュームのあるワンピースにコルセット。ロンドンにいるような、古着をこよなく愛す、パンチの効いた“フェティッシュ女子”。勝手にそんな印象を抱いた。

GIMICOがモデルを始めたのは2009年。今では義足モデルとして世間での知名度がどんどん上がっている。彼女のモデルとしてのキャリアは、アンダーグラウンド専門のキャスティング会社との出会いから始まった。「クリエイティブなことに関わりたかったんです。でも裏方としてではなく被写体になることに興味があって、この世界に飛び込みました。とにかく私にしかできないことがしたかった。だからアピールポイントとして義足をチョイスしました。義足を含めた私を素材としてクリエイターの人たちに料理してもらいたかったんです」。初めての撮影は世界的写真家、レスリー・キーによるものだった。キャスティング会社に出会ってから、わずか1週間であったというから驚きだ。2010年には森美術館で開催された「医学と芸術展」で、写真家・映画監督の蜷川実花が手がけた義足を着用し、その被写体を務めた。その後、映画やミュージックビデオに出演するなど、活躍の場を広げて行った。最近ではランニングシューズの広告塔も務めている

彼女には謎めいた独特の雰囲気がある。それと同時に、淡々と話す彼女の内面からは、包み込むような暖かさ、そして強さも感じられる。「普段の生活でも、公の場でも、あまりテンションが変わらないんです。昔からずっとそうでした。よく周りからは、“障がいを強さに変えている女性”と見られがちですが、常に自分のペースで生きてきたつもりです。何かきっかけやターニングポイントがあって強くなったわけではなく、常にこの感じの延長線上です」。つまり、“私はいつでも私”ということなのだろう。なんて自由な人だろう。世間体や他者の意見に捉われたり、他人と比較をすることや誰かの前に立つといった考え方は彼女の中に存在しない。「私は生きるために足を切断し義足になったので、義足であることを負い目に感じる必要はまったくないんです」。いたって自然体であり、自分のことを強いとは思っていない。そこに真の強さがあり、魅力でもあり、惹きつけられる。彼女とコラボするクリエイターが多いのはその魅力に魅せられているからかもしれない。

そんな彼女がサロンをオープンしたのは2010年。始めたきっかけは「ブラジリアンワックスについてのテレビ番組を見て、思いつきで始めました」とさらりと言う。しかし、思いつきで6年半続いていることに驚きだ。「初めは、モデルとしてのGIMICOをサポートするつもりでサロンを始めました。モデルだけでは生きていけなかったので。サロンを始めてからの方が女性を好きになったような気がします。“平均2ヶ月に一度程度しか会わない、普段人に見せないプライベートな体の部分をケアしてくれる女”に自然と心を許して、誰にも言えないような濃い話を私に打ち明けてくれたりします。それが興味深いですね。女の人生は、2ヶ月の間に劇的に変化し得る。長年通ってくれている方の中には、結婚し子供ができて、子育てをしながら、またここに通ってくれたり。まるでオムニバスドラマを見ているような感覚です」。このプライベートかつアットホームな空間で顧客と築く関係が密であることはよくわかる。かといって多くの質問をしたり、他人を深堀りしないGIMICOのどこかドライな性格に、多くの女性が心を許すのだろう。

モデルとサロンという二足の草鞋を履いている彼女だが、自身が納得のいく形で仕事を両立することは簡単ではない。マイペースな彼女だが、モデル業とサロン業のバランスがうまく取れず、モヤモヤした気分を抱えていた時期もあったそう。「モデルとしてのGIMICOを応援するためのスポンサーとしてサロンを始めたはずなのに、次第にサロンの稼業比率の方が高くなってしまい、周りからも“毛を抜く人”と認知されてしまった時期もありました。そんなとき、私は何をやっているんだろうと思いました。サロンをやっている私とモデルをやっている私、2人の私に対してモヤモヤしていましたね。特にサロンに関しては、6年以上もこのプライベートな空間で、しかも1人でやっているとマンネリもしてきますしね」

©GIMICO Official website

しかし昨年、そんな彼女に転機が訪れた。「アングラな私の存在が昨年、突如世界に発信されました。今まで機会のなかったジャンルのお仕事も増えはじめ、私は今、表現者としてとても面白い位置にいると感じています」。さらに、「自分が抱いているセルフイメージとリアルな自分、他人が抱く自分のイメージが合致したときに、人はやりがいや楽しさ、生きやすさを感じると思います。私は最近、そうなりつつある気がします。心の中のモヤモヤが消え、解き放たれたようなすっきりした気分です。結局、モデルの私もサロンでの私もどっちも私。私は何をしていても私なんだって気づきました」と、活動の場が広がると共に変化する心境についても語ってくれた。あくまでアングラスタンスは保ちつつ、認知度はメジャーになりつつあるGIMICOだが、「何をしていても私は私」という魅力を武器に、さらなる飛躍や新しいチャレンジを続けていくだろう。

最近、書くことや話すことにも興味を持っているという。「以前は、私がしていることや自分自身の考えを言葉にすることを避けていました。なぜかというと、言葉にするとすべてが終わってしまう気がしていたから。他人が私を見たときのインパクトで人々の想像力を掻き立てたいと思っていました。でも、最近言葉にすることの面白さに気づきました。時に言葉はさらなる想像力を掻き立てる。自分の中で表現の幅が広がった気がします」。また、自己表現の幅を広げるツールとして「Twitterは言葉あそび、Instagramは写真あそび」と、現代のSNSもうまく利用しているようだ。言葉で表現するおもしろさも手に入れたGIMICO。“何が本業か”という固定概念にとらわれず、自分の五感を信じもっと自由に、もっと広い視野を持って自分の可能性を探っている。個々が主となっていく時代だからこそ、彼女のような存在が大切なのではないだろうか。次は何をして私たちを驚かせてくれるのか? 彼女のこれからに注目だ。

GIMICO Official website

instagram:@gimico_gimico

This Week

和洋新旧の混交から生まれる、妖艶さを纏った津野青嵐のヘッドピース

アーティスト・津野青嵐のヘッドピースは、彼女が影響を受けてきた様々な要素が絡み合う、ひと言では言い表せないカオティックな複雑さを孕んでいる。何をどう解釈し作品に落とし込むのか。謎に包まれた彼女の魅力を紐解く。

Read More

小説家を構成する感覚の記憶と言葉。村田沙耶香の小説作法

2003年のデビュー作「授乳」から、2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』にいたるまで、視覚、触覚、聴覚など人間の五感を丹念に書き続けている村田沙耶香。その創作の源にある「記憶」と、作品世界を生み出す「言葉」について、小説家が語る。

Read More

ヴォーカリストPhewによる、声・電子・未来

1979年のデビュー以降、ポスト・パンクの“クイーン”として国内外のアンダーグランドな音楽界に多大な影響を与えてきたPhewのキャリアや進化し続ける音表現について迫った。

Read More

川内倫子が写す神秘に満ち溢れた日常

写真家・川内倫子の進化は止まらない。最新写真集「Halo」が発売開始されたばかりだが、すでに「新しい方向が見えてきた」と話す。そんな彼女の写真のルーツとその新境地を紐解く。

Read More

動画『Making Movement』の舞台裏にあるもの

バレリーナの飯島望未をはじめ、コレオグラファーのホリー・ブレイキー、アヤ・サトウ、プロジェクト・オーらダンス界の実力者たちがその才能を結集してつくり上げた『Five Paradoxes』。その舞台裏をとらえたのが、映画監督アゴスティーナ・ガルヴェスの『Making Movement』だ。

Read More

アーティスト・できやよい、極彩色の世界を構成する5つの要素

指先につけた絵の具で彩色するフィンガープリントという独特の手法を用いて、極彩色の感覚世界を超細密タッチで創り出すアーティスト・できやよい。彼女の作品のカラフルで狂気的な世界観を構成する5つの要素から、クリエーション誕生の起源を知る。

Read More

ハーレー・ウェアーの旅の舞台裏

写真家ハーレー・ウィアー(Harley Weir)が世界5カ国に生きる5人の女性を捉えた旅の裏側、そして、ドキュメンタリー映像作家チェルシー・マクマレン(Chelsea McMullen)が現代を象徴するクリエイターたちを捉えた『Making Images』制作の裏側を見てみよう。

Read More

『Making Codes』が描くクリエイティヴな舞台裏

ライザ・マンデラップの映像作品『Making Codes』は、デジタルアーティストでありクリエイティヴ・ディレクターでもあるルーシー・ハードキャッスルの作品『Intangible Matter』の舞台裏をひも解いたものだ。その作品には、プロデューサーとしてファティマ・アル・カディリが参加しているほか、アーティストのクリス・リーなど多くの有名デジタルアーティストが関わっている。

Read More

ローラ・マーリンが表現する、今“見る”べき音楽

イギリス人のミュージシャン、ローラ・マーリンのニューアルバムに満ちている“ロマンス”。男っぽさがほとんど感じられないその作品は、女性として現代を生きることへの喜びを表現している。

Read More
loading...