テキサスで生まれ育ち、現在はLAを拠点に活動している映像ディレクター、マリア・ジェームス(Malia James)は、LAに移る前、エマーソン大学で映画と心理学の学位を得た。その後思いつきでロンドンに移住するが、その前には、カリフォルニアのガールズバンド、〈ダム・ダム・ガールズ(Dum Dum Girls)〉にベーシストとして加入したこともある(なんと彼女がベースギターを習い始めた最初の日のことだ)。彼女は、目の前を通り過ぎる楽しそうなことをすべて捕まえてしまうのだろう。現在は、音楽PVのディレクターとして活躍している彼女。クライアントのリストには、デンマークの歌姫ムー(MØ)や、ホールジー(Halsey)、ヘイリー・スタインフェルド(Hailee Steinfeld)など、錚々たる名が並ぶ。自らを頑ななロマンチストと呼ぶ彼女は、その作品を通して愛というテーマを探求し、人間関係に魅了されながら、そこに命を吹き込み続けている。
自らを表現しなければならないと初めて感じたときのことを覚えていますか?
すごく若い頃から、ものづくりや自己表現を自分がやらなければならないものだと感じていたわ。6歳ごろには、創作したラジオ番組を自分でテープに吹き込んでいたし。子供時代は、とり憑かれたみたいにバービー人形で遊んでいたんだけど、よく人形を使って映画をつくっていたのよ。ほとんどがR指定モノだったわ。おもしろいことにね、私、タッパーウェアとラップでバービー用のウォーターベッドを作ったのよ。80年代で、ウォーターベッドが人気だったの。母親はよく出歩くシングルマザーだったから、想像の世界でよく遊んだわ。
〈ダム・ダム・ガールズ〉というバンドでベースを担当していましたよね。それをやめて映像ディレクションという道を選んだのは何がきっかけだったのですか?
音楽はいつも私の心に火をつけるの。でも、26歳まで楽器は手に取らなかったわ。怖かったの。でも実際やってみたら、まずまずだった。だからちょっとだけその夢を叶えようと思ったってわけ。バンドの一員になることができて、いろんな経験をさせてもらえたことは本当にラッキーだったわ。『レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン』っていうTV番組で演奏したり、フェスを回ったり、テレンス・マリックの映画にマイケル・ファスベンダーと一緒に出演したり、デボラ・ハリーと歌ったりね。
数年前、ディレクション業に集中するために、音楽と写真をやめたの。私が本当にやりたいのは映像ディレクションなんだってわかっていたし、そこで本当に成功するために150%の力を注ぎたかった。そうしたらすぐに、いろいろうまく行きだしたわ。だからいい選択だったってわけ。ときどき音楽をやってみたくなるけど、ディレクションしているときがやっぱり一番幸せなの。
音楽はあなたの人生にとって大きな原動力のようですね。最初は自分で演奏し、今はPVをディレクションしている。自分と音楽との関係はどのようなものだと思いますか?
音楽は今も昔もずっと私と一緒だった。気分屋だった10代の頃、部屋に座ってニルヴァーナをガンガンかけてたわ。悲しいときは、床に座ってスプリングスティーンの『ネブラスカ』を聴きながら泣いたものよ。ジョギング中はヒップホップを聴いて、ロッキー気分にひたるの。若いカップルが、仄暗い灯りのもと、ソフトな音楽をかけながら日が昇るまで寝ないで過ごす夜のことも忘れちゃいけないわね。
音楽を演奏するのって、他のどんなものとも違う才能よ。だから私は、やめられなくなるまで演奏にハマりこまないようにしたの。その後、1日を終わらせるために、夜中にひとりでよく踊るようになった。特に、旅行しているときや撮影しているときね。そうすれば、自分を自分の体の中に留めておけるから。ディレクションをしていると、たくさんのエネルギーが体の中から出て行っちゃうの。音楽はそれを呼び戻してくれるのよ。
PVの制作過程について教えて下さい。まずどのように始めるのですか?
まず曲が送られてくるわ。そしたら、近所を歩き回りながらそれを繰り返し聴くの。するとアイデアがかたちをとり始める。たいてい、何かのイメージが浮かぶだけだけど。そのあとは、長い時間をかけてインターネットで写真を見るの。次に大まかな全体の雰囲気をつくるんだけど、脚本の前段階の本書きのために少し削っていくわ。本書きができたら、それをアーティストとレーベルに回して、OKをもらうの。ゴーが出たら、制作開始。制作はいつだって大騒動よ。準備段階が終わるとすぐ、私の勝手なアイデアを実現するためにクルーからメールが来るの。「じゃあ、どういうアイライナーがいいと思う?」「これはトップライトの方がいいかな?」「どういうふうにカメラを動かしてほしい?」「このシーンには何人くらい必要かな?」って。撮影本番は、私が一番好きな日。みんなが持てる力を最大限に発揮して、1つの絵をつくるときだから。セットの中にいるのも大好き。撮影が終わったら、映像を切り貼りして編集して、色調整してピッカピカにするのよ。
ディレクションをしているとき、あなたにとって最も大切なことは何ですか?
美しい光が大好きなの。美しい光が本当に好き。ストーリーや内容と同じくらい、色やライティングにこだわるのが私流よ。キャリアを始めたばかりの頃によく仕事をしていた撮影監督が、こんなことを言ってたわ。もっと練り上げるために、私は三脚を使って撮影をすることを学ぶ必要があるって。自分がいかに行き当たりばったりな作風で名を成したかってことを、最近よくネタにしてるのよ。構成をよく練った映像は“高価に”見えるけど、私は自分のやり方でしか撮影しえないエモーションやリアルさを大事にしたいの。
私はいわゆる“フェミニン”タイプじゃないから、自分なりの女性らしさに自信を持つ術を学んできたわ
あなたの作品は、あなたの感覚にどんなふうに働きかけていると思いますか?
視覚:いつも見たり眺めたり観察しているわ。
聴覚:音楽を聴くと、いつも映像が浮かぶの。つまり音楽を聴きながら、イメージを見ているのね。
触覚:人の感触にはすごく好き嫌いがあるんだけど、私は世界有数のハグ好きでもあるの。撮影の混乱から復活するには、触覚ってすごく大切だと思う。
嗅覚:香りがものづくりに与える刺激が大好き。私、本書きから色調整のときまで、プロジェクトごとにキャンドルを燃やすの。1つ終わったら、次のプロジェクトに備えて新しいのを買いに行くのよ。
あなたにとって女性らしさとは何ですか?
自信と優しさね。私はいわゆる“フェミニン”タイプじゃないから、自分なりの女性らしさに自信を持つ術を学んできたわ。私のマニキュアは何日か経つとハゲちゃうし、髪もボサボサが好き。ワンピースよりパンツスタイルが好きだし、アルファ気質だし、とかね。でも、一方ですごく優しいし、繊細でもある。リン・ラムジーとアンドレア・アーノルドは、私のお気に入りの映画監督で、『フィッシュ・タンク』(アーノルド)と『モーヴァン』(ラムジー)は私の中の映画トップ10に入る作品よ。私は“女性監督”か“監督”かってことには、怒りもしなければ気に留めもしないけど、この2人の監督が、暗く美しい映画を通して、なんとか自らの道を模索しようとしている欠落した女性を描き出したことには感銘を受けたわ。暗くて美しい映画には、いつも心惹かれるの。この2人はその点に関して完ぺきな作品をつくったわ。あと、タイムレスで素晴らしい“ポップ”映画をつくったペニー・マーシャルも大好きよ。
あなたと同じように、たくさんの制約を乗り越えて仕事をしようとしている女の子たちに、アドバイスをお願いします。
すべての夢を追いかけて、どんなものでも経験して。でも最後には自分が一番望むものを選び出して、すべてをそこに注ぎ込むの。答えにノーはいらない。自分の武器にしがみついて。そして親切にね。