パリのサン・マルタン運河での待ち合わせに現れた17歳のフランス人女優リリー・タイエブ(Lily Taieb)は、眼鏡をかけ、堂々としていた。そして、私たちの目の前でショルダーバッグから中身を取り出し始めたのだ。筆箱、お守り数個、そして一番大切な、絵がたくさん描かれたスケッチブック。「仲間を描くのが大好きなの」。彼女自身や撮影スタッフの絵を私たちに手渡しながら、彼女はそう言った。学校をやめて家での勉強に切り替えてからというもの、映画の撮影現場が彼女の新しい友達づくりの場となった。友人のリリー=ローズ・デップ(Lily-Rose Depp)とともに、この若きスターはカンヌを熱狂の渦に巻き込み、ファッションショーにも引っ張りだこの存在となる。しかし周囲の騒ぎとは裏腹に、リリーは、最近多い“大人気なのに地に足のついたティーン”の1人のようだ。
「自分の世代のことをよく考えるの」。緑茶のカップを口に運びながら彼女はそう話す。「だって、私もしっかりそこに属しているから」
アルノー・デプレシャン(Arnaud Desplechin)がメガホンをとった『あの頃エッフェル塔の下で』がたちまちヒット(ディレクションや音楽がいくつかの著名な映画賞から評価され、6つの賞を贈られた)し、リサ・アズエロス監督(Lisa Azuelos)の『ソフィー・マルソーの秘められた出会い』にカメオ出演を果たしたリリーは、下馬評に反し、その後ひっそりと普通の生活に戻っていった。「静かなひとときって大切よ」。賢い。賢すぎて、1日をどのように過ごすかなどという質問さえしにくいほどだ。ナイトクラブはどう思う? 「ばかげてるわ」。お酒やタバコは? 「大嫌い」。ドラッグについては? 「興味ない」。じゃあライブに出かけたりとか? 眉をしかめて一考したのち、彼女はこう言った。「ああ、そうそう。先週、ザ・ウィークエンドのライブに行ったわ。大騒ぎが始まるまではよかったわよ」。言葉はとても速く流れていってしまう。リリーはときどきその影響力を認識するために立ち止まらなければならないのだ。「説明しにくいんだけど、大きくなるにつれて、知らない人と一緒にいると居心地悪く感じるようになってきたの」。
社交的なイベントに参加するよりも、リリーは友人たち、特に若手俳優として活躍するボーイフレンドのタラ・ジェイ・バンガルテルと有意義な会話をするシンプルさのほうを好む。「彼と出会ったのは去年の夏。フェリックス・ド・ジヴリの初の短編映画『Journée Blanche』の撮影中よ。たちまち恋に落ちたわ」。そう話す彼女の目は、『あの頃エッフェル塔の下で』に登場する役者たちを思い起こさせる輝きを放っていた。この映画は、アルノー・デプレシャン自身の初恋の記憶を、2015年を舞台に描いたものなのだ。「いつも一緒にいたいって思う関係を築いたのは初めてのことよ」。
リリーと話していると、気づかないうちに、それとなく話題が変わっている。「私ってちょっとおかしいの」。カップの底に視線を落としながら、彼女はそんな告白をした。私たちがそんなことはないと言っているうちに、リリーは話題を4つの福音がおさめられたアイルランドの写本『ケルズの書』へと移してしまうのだ。「この深遠で神秘的な本にすごく興味があるの」。私たちがなんとかその質問にたどりついたときには、リリーはもうすでに香りや、それが自身の記憶にどう結びつくかについて話し出していた。「説明のつかない現象の1つ」だと感じるそうだ。