シュールなおかっぱ娘、写真家宮崎いず美が魅せる自撮りとアートの未知なる邂逅

宮崎いず美が撮る世界は、日常を切り取るタイムライン上にあって、同時に、体系的なセルフポートレートの系譜にある。彼女は自撮りとアートの境界線で、ポップに遊ぶ。

シュールレアリスムの常套句に「手術台の上でのミシンとこうもり傘の不意な出会い」というのがあるが、彼女の場合、「ミカンとビニール傘」となる。

実際に、宙に放り出されたバナナと黄色いビニール傘を物惜しげに見つめる作品がある。出会うはずのなかったものが、あるべきではなかったものが、彼女の世界の中では存在する。

頭に乗せた鯖もろとも真っ二つ。おにぎり山でY字バランス。階段の踊り場で増殖する。そして、生首からは真っ赤なホールトマトがどろり…。

ジャパニーズホラーのような不穏な空気を漂わせつつも、ジメジメとした湿っぽさは感じない。どちらかというと朗らか。クスッと思わず笑みがこぼれてしまうような、ファニーで奇妙なセルフポートレートたち。

日常と非日常の間で、無表情で佇む彼女に「そっちの世界はどうなってるの?」と、問わずにはいられない。

高校生の時に写真を取り始め、大学の授業の課題でセルフポートレートを作品として提出した。「モデルになってくれる人がいなかった」からと、ひとりで収まった写真は、多くの人を惹き付けるものだった。

在学中に「1_WALL」写真部門(日本の若手写真家にとって登竜門的な存在)でファイナリストに選出され、その後は国内ブランドのイメージ写真や、グループ展で活躍。今年は表参道Art-U roomにて個展も開催。現在はプラダ財団主催のグループ展でミラノにて展示が行われている(ちなみにライアン・マッギンレーやメラニー・ボナジョらも名を連ねる。日本からは小林健太も参加)。

特に海外メディアーーTIMEやCNNなどの大手ニュースメディアから、Juxtapozなどのアート系メディアまでーーから熱い視線を注がれ、世界的に認知され始めている。

試しに「Izumi Miyazaki」で検索してみると、かなり多くの記事が出てくる。見出しには、”Surreal”(シュールレアル)や”Bonker”(狂った)などの単語が続く。また、”Kawaii”や”Tokyo”など、日本独自の文化と結びつけて紹介している記事も多い。

ついつい、シンディ・シャーマンや森村泰昌を引き合いに出したくなる。はたまたアンドレ・ブルトンやマン・レイまで遡って…。ノンノン、ムシュー。もちろん彼女の作品群は、体系的な写真芸術としてのセルフポートレートという側面も持っているが、インスタグラムの延長にあるような「セルフィー」のほうが近い。自分を”増やしたり””傷つけたり”することは、セルフパロディであり、ある意味ではコスプレでもある。

「自撮り」という行為に、新たな価値を付与する彼女のアプローチは、日常と非日常の間をするすると蛇行しながら、写真に対する未知なる楽しみ方を教えてくれる。


宮崎いず美/1994年生まれ。2012年武蔵野美術大学造形学部映像学科入学。 2013年に第9回1_WALL写真部門にてファイナリストに選出され、グループ展に参加。 在学中から服飾ブランドotonaciumのイメージ写真などを手がける。 2016年3月卒業後、同年12月にArt-U roomにて個展を開催。 2017年3月までプラダ財団主催のグループ展に参加予定。

http://izumimiyazaki.tumblr.com/

This Week

和洋新旧の混交から生まれる、妖艶さを纏った津野青嵐のヘッドピース

アーティスト・津野青嵐のヘッドピースは、彼女が影響を受けてきた様々な要素が絡み合う、ひと言では言い表せないカオティックな複雑さを孕んでいる。何をどう解釈し作品に落とし込むのか。謎に包まれた彼女の魅力を紐解く。

Read More

小説家を構成する感覚の記憶と言葉。村田沙耶香の小説作法

2003年のデビュー作「授乳」から、2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』にいたるまで、視覚、触覚、聴覚など人間の五感を丹念に書き続けている村田沙耶香。その創作の源にある「記憶」と、作品世界を生み出す「言葉」について、小説家が語る。

Read More

ヴォーカリストPhewによる、声・電子・未来

1979年のデビュー以降、ポスト・パンクの“クイーン”として国内外のアンダーグランドな音楽界に多大な影響を与えてきたPhewのキャリアや進化し続ける音表現について迫った。

Read More

川内倫子が写す神秘に満ち溢れた日常

写真家・川内倫子の進化は止まらない。最新写真集「Halo」が発売開始されたばかりだが、すでに「新しい方向が見えてきた」と話す。そんな彼女の写真のルーツとその新境地を紐解く。

Read More

動画『Making Movement』の舞台裏にあるもの

バレリーナの飯島望未をはじめ、コレオグラファーのホリー・ブレイキー、アヤ・サトウ、プロジェクト・オーらダンス界の実力者たちがその才能を結集してつくり上げた『Five Paradoxes』。その舞台裏をとらえたのが、映画監督アゴスティーナ・ガルヴェスの『Making Movement』だ。

Read More

アーティスト・できやよい、極彩色の世界を構成する5つの要素

指先につけた絵の具で彩色するフィンガープリントという独特の手法を用いて、極彩色の感覚世界を超細密タッチで創り出すアーティスト・できやよい。彼女の作品のカラフルで狂気的な世界観を構成する5つの要素から、クリエーション誕生の起源を知る。

Read More

ハーレー・ウェアーの旅の舞台裏

写真家ハーレー・ウィアー(Harley Weir)が世界5カ国に生きる5人の女性を捉えた旅の裏側、そして、ドキュメンタリー映像作家チェルシー・マクマレン(Chelsea McMullen)が現代を象徴するクリエイターたちを捉えた『Making Images』制作の裏側を見てみよう。

Read More

『Making Codes』が描くクリエイティヴな舞台裏

ライザ・マンデラップの映像作品『Making Codes』は、デジタルアーティストでありクリエイティヴ・ディレクターでもあるルーシー・ハードキャッスルの作品『Intangible Matter』の舞台裏をひも解いたものだ。その作品には、プロデューサーとしてファティマ・アル・カディリが参加しているほか、アーティストのクリス・リーなど多くの有名デジタルアーティストが関わっている。

Read More

ローラ・マーリンが表現する、今“見る”べき音楽

イギリス人のミュージシャン、ローラ・マーリンのニューアルバムに満ちている“ロマンス”。男っぽさがほとんど感じられないその作品は、女性として現代を生きることへの喜びを表現している。

Read More
loading...