キャサリン・ラングフィールド(Katherine Langford)は2016年にウェスタン・オーストラリアン・アカデミー・オブ・パフォーミング・アーツ(WAAPA)に合格したが、入学前にもかかわらず、パイロット版ドラマのオーディションを受けるためにLAに渡った。最初の渡米では役を勝ち取ることはできなかったものの、オーストラリアに帰国後、『13 Reasons Why』へオーディション用の映像を送付。彼女自身も驚いたことに、その後、役が決まったから荷物をまとめてアメリカに来るようにとの電話がかかってきたのだという。
10代の自殺などといったテーマが鍵となるこのドラマは、パース出身の新人女優にとって初の大舞台となった。ほとんどネット世界にふれることのない彼女は(番組が始まるまで、ツイッターのフォロワー数は1000人ほどしかなかった)、夢見がちなところはあるものの、人生の分岐点に立っていてもなお、大一番にひるむことはなかった。ドラマの原作であるジェイ・アッシャー(Jay Asher)の小説『Thirteen Reasons Why』がカルト的人気を誇っていたこともあり、彼女の成功は確約されているに等しかった。
そんな彼女は現在、LGBTQ支持の長編映画『Simon Vs the Homo Sapiens Agenda』を撮影中。近い将来、キャサリン・ラングフォードについてさらに深く知ることができそうだ。
この作品が、あなたの演技デビュー作ですよね。それまでは無名だったキャサリン・ラングフォードとはどんな人物ですか?
私って、ずっと中道左派で育った子供だったわ。オーストラリア代表の水泳選手だったんだけど、そのあとは歌手になりたくなって、それから演技に興味が向いたのよ。おうし座だから(笑)。選ばれた子供向けの特別な学校に行っていたの。そこでいろんなクリエイティヴィティが花開いたのね。水泳をやめたあとは、ヒマがあれば学校のホールに行って、そこのピアノで曲をつくったりしていたわ。ほかの子に交じって演技もやっていたんだけど、高校を卒業するとき「これでやってみたい」って思ったの。今までのところ、それがうまくいっている感じね。
それは容易なことでしたか? はたから見ていると、デビュー作がうまく転がり込んで、大きなチャンスになったように思えますが。
これまでの経過を見ると、簡単に事が運んだように思えるのはわかるわ。でも、振り返ると苦労も多かったの。(演技を)始めたのが遅かったから。2015年の3月に初めて演技のクラスをとったのよ。19歳になる年。もうギリギリだったわ。すぐさまパイロット版ドラマや、このデビュー作にわが身を投じなければならなかった。この番組はすばらしいけど、今までで一番難しくて最高のデビュー作だったわ。私ってとっても熱心で、向上心があって、頑固な若者だから、こんなことを言われたことがあるの。「あなたはもう19歳でしょう。女優になんてなれないわよ。遅すぎるわ」って。「今に見てろ」って思っていたわ(笑)。
あなたが演じるハナはどんな人物ですか?
彼女は勇敢で機知に富み、周りに合わせる必要なんてないと思っているの。合わせるのがプレッシャーに感じるのね。合わせようとがんばるときもあるけど、結局彼女は変わらないし、人に変えられるのもイヤだと思っている。ほかの人に対して誠実で、彼らを信頼している彼女は、みんながいい人だと信じたいのね。この部分、すごくわかるわ。でもそれが彼女の大きな間違いなんだけど。
演技の学校に通った経験がないから、よく演技が直感的だって言われるの。
仕事をすることによって成長をしたと感じますか?
逆に若返ったと感じるわ。今は大人の世界で仕事をしてるでしょ。それはいいことなんだけど、16~17歳の女の子を演じるにはちょっと老けてるかもしれないっていうのが心配。でも、演技やドラマの世界では、自分の中の子供が目覚めるわ。目の前で起こっているすべてのことに対して、オープンでいなければいけないから。「バカみたい」って態度じゃいけないの。「舞台に上がって、猿になりきれ」って言われたら、そうするのみよ。
番組のために、ご自身の高校時代の経験を生かすことはありましたか?
実は私、3つの学校に行っていたの。そのうち2校はプライベートスクールで、反抗しまくったわ。ナイーヴで内にこもった女の子のやることなんて興味なかったもの。14歳だった私は、そこに籍を置きながら、周囲をバカにしていたわ。そんな、自分の殻に閉じこもった不誠実な自分が大嫌いだった。そのあと、3つめの学校に放り込まれたの。そこは私みたいに、普通の学校にあまりなじめない子ばかりだった。だからとってもうまくいったのね。自分が必要だと思うことができる自由を手に入れられた一方で、それをやるための責任を負ったとも感じたわ。
ハナの役をこなすために重要な思い出が自分にあるとは思わない。今あるセットや環境で、じゅうぶん役に入り込めるわ。だってこれは私にとって最初のドラマだから比較対象もないしね。でも、高校のときのことを思い出して懐かしくなったことはあるわ。自分自身の学校での思い出や、大きな不安や絶望を乗り切った子たちのこと、初恋、喜びとプレッシャー、学校に足を踏み入れるときの感情や、一人ぼっちになってしまったときの、世界から取り残されたような気持ち。あの孤独感は破滅的よね。
小説も番組も若者向けと宣伝されていますが、年上の人もストーリーに懐かしさを感じたり、テーマに共感できるのではないかと思います。
私は、あの番組は大人向けだと思うわ。アプローチの仕方もぶれないし、高校で起こっていることだけを扱っているわけじゃないもの。ハナの先生の視点や、彼女の両親に何が起こったかについても描かれているわ。視聴者に何かを伝えたいとする番組の1つなのよ。16歳の子たちは、同年代の子がセックスしたり、ドラッグを使ったりするのを日常的に見ているけど、親や教師はそれを見過ごしてる。この番組はそういうところにも気をまわしているわ。
演技をするときに一番重要な感覚は何ですか? それとも、演技が感覚を研ぎ澄ますのだと思いますか?
演技の学校に通った経験がないから、よく演技が直感的だって言われるの。私にとって一番大切なのは、存在すること。存在しているからこそ、ものがどう見えたり聞こえたりするかとか、自分の発する言葉が気になるんだもの。あなたは今、私が何を求めているか考えているけど、私はあなたが何を求めているかを、あなたを見たり、話を聞いたりすることで理解するの。何を言うかだけじゃなくて、どんなふうにあなたがしゃべるかも大事なのよ。
ほかの人が感じていることを聞き取れるようになりたい。そしてそれを、また別の人が体験できるような何かにするの。
画面から香りを感じられるようになったら、テレビや映画はもっと良くなると思いますか?
すごく変な感じだと思うわ。だって、感覚すべてで感じることができるようになったら、実際に体験しているのと同じことじゃない。安全な場所からただ見ているだけっていうわけにはいかなくなってくるもの。何かを見たり聞いたりして、泣いたり感情を揺さぶられたりする。そこに香りまで加わったら、リアルすぎてトラウマになっちゃうかも。『タイタニック』の香りを感じられるようになったとしたら、私、死んじゃうかもしれないわ。
『13 Reasons Why』のエグゼクティヴ・プロデューサーはセレーナ・ゴメスです。彼女はあなたに自身の解釈を元にしたアドバイスがありましたか? それとも普通に演技をするように言いましたか?
そうね、彼女はワールドツアー中だったんだけど、物理的にこっちにいられないときも、セレーナとお母さんのマンディは、編集用フィルムを毎日見て、Eメールで私たちをサポートしてくれていたわ。セレーナがこっちにいられるときは、1日ずっと現場にいて、夜にはみんなを連れ出して番組やファンについてのアドバイスをしてくれたの。彼女が私にSNSを教えてくれたのよ。私はいつも自分だけの世界にいたから、ディナーの席で、セレーナが文字通り身を乗り出してこう言ったの。「公の場に出てきなさいよ」って。それから数日後に実行したわ。番組を見て人生が変わったって言いに来てくれる人たちのために、そうしたかったの。番組を見てくれたり、似たような苦労を乗り越えてきたような人たちのためにね。絶対にそうしなきゃいけない責任があるとは思わないけど、ちょっと引き受けてみてる。それに、SNSというプラットフォームを人助けに活用したいと思っているわ。LGBTQやいじめ、精神疾患といった問題には関心があるし、正しい情報が与えられるようにしたいから。誰もが1人じゃないってことを示したいの。みんなが番組を見てハナに共感したあと、キャサリンとしての私にたどりついて自分と重ね合わせてくれたら、私はいつもそこにいるわ。
ということは、あなたはとても共感力のある人間なんですね?
(笑)そうよ! それって演技する助けにもなるのよ。それに音楽も。もし誰かが私に心を開いてくれたら、私はその人の言っていることを聞くだけじゃなくて、感じていることを同じように感じ始めるの。母はそれをスーパーパワーって呼んでた。最初の2つのエピソードを観たあと、訪ねてきてくれた女性がいたの。彼女は泣きながら私を見ていたんだけど、私もその手を包み込んで同じように泣き始めたわ。ほかの人が感じていることを聞き取れるようになりたい。そしてそれを、また別の人が体験できるような何かにするの。でもそれはときに危険でもある。だってすべての苦痛を引き受けることなど不可能だもの。
『13 Reasons Why』は現在〈ネットフリックス〉で視聴可能。