シェイ・ディターのシュルレアルな世界に浸る

ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、シェイ・アコピアン・ディター。その幻想的でロマンティックな絵画や写真作品は、彼女がつくり出した夢の世界へと観る者を誘う。

ニューヨークに拠点を置く独学のアーティスト、シェイ・アコピアン・ディター(Shae Acopian Detar)。その幻想的な絵画および写真作品は、彼女がつくり出した夢の世界へと観る者を誘う。ルネッサンス期や印象派、後期印象派の絵画、そして音楽や文学からインスピレーションを受けながら、写真に絵画の技法を組み入れたシェイの表現は、そのままブロンテ姉妹やディキンソンの小説のワンシーンになってしまいそうな世界観を持っている。しかし、その作品には悲劇的なエッセンスはない。彼女のシュルレアルなユートピアに存在する赤い岩やスモーキーピンクの崖からもわかるように、ロマンスこそ、その世界におけるナチュラルでエターナルな要素なのだ。

あなたはファインアートの作品を手がける一方で、自ら撮った写真にペイントした作品も制作しています。これはあなたにとって自然なことなのでしょうか。

そうね、とっても自然なことよ。だってどっちも想像力を使うでしょう……。でも後者は前者より計画的にしなきゃいけないわ。モデルやロケ場所を探したり、現像もしなきゃいけないし、大きく写真を引き延ばすのだってすごくお金がかかるもの。絵を描くだけなら、必要なのは絵の具とテレピン油、筆、キャンヴァス、それから想像力だけ。ああ、それからコーヒーと音楽もね(笑)。

最近は、真っ白なキャンヴァスに向かうことが前より多くなっているの。でもここ7年は写真を使った作品をつくり続けてきたわ。写真を大きく(1.5〜2mくらい)に引き伸ばして、その上に絵の具を塗るの。写真と絵画を組み合わせたことから、絵画の世界に入ったのよ。それで今は絵画の方に夢中。でも写真を撮るのも、それで何か別のものをつくるのももちろん大好き。目の前にある写真をそれ以上のものにしてみようとすることもね。写真を使った作品と同じように、言葉にはできないけど、絵画を通して伝えたいことが今たくさんあるの。だから今は絵画をメインにしているってわけ。

作品をつくるようになったそもそものきっかけは何だったのですか?

12歳くらいのとき、日記の中で写真に色をつけたりコラージュをしたりし始めたの。女優になりたかったから、アーティストになるなんて考えたこともなかったわ。ミュージカルやTVコマーシャル出たりしていたし、夏は毎年演劇合宿に行っていたのよ。本物の女優になるために、ニューヨークで毎週レッスンを受けたりもしたわ。でも、日記の中での制作はずっと続けてた。すごくおもしろかったし。本能みたいなものね。

スタジオでの1日を教えてください。

いつもは、犬のウェイロン(保護犬で障害のあるシャー・ペイ)と一緒にコーヒーを飲んで、散歩をしに公園へ出かけることから始まるの。それからスタジオに行くんだけど、今みたいに何か依頼された仕事を抱えていたら、大きな写真(いつもだいたい1.5〜2mくらい)に絵を描くわ。伝記とかドキュメンタリー、ポッドキャストや音楽を聴きながらね。途中でコーヒーブレイクをして、もう一度仕事にかかる。だいたい夜までいることが多いわ。家に帰ったら本を読んだり(今読んでいるのは、ジョン・キーツの伝記。シャーロット・ブロンテの伝記を読み終わったばかりなの)、映画を観たり。友だちと出かけることもあるわね。

撮影の日はどうですか?

撮影があるときはいつも楽しいし、落ち着いているのよ。事前に計画を立てなきゃいけないけど。女の人を集めるときは、だいたいインスタグラムを使うの。人が集まったら、みんなをバンとかSUVとかの大きな車に乗せて、私の運転でロケ地に向かう。音楽を聴いておしゃべりしながら向かえば、到着するまでに友だちになれるわ。ロケ場所に着いたら、写真を撮りまくるのよ。ほとんどアドリブ。いろんなシチュエーションを撮りたいから。撮影が終わっても時間があれば、夕食に行って、街まで戻る。『NY Magazine』の表紙のような、仕事の撮影だったら、もっとリーダーっぽく振る舞うわ。みんなが私のディレクションで動くから、舵取りをしなくちゃいけないでしょ。

スタジオで作業しているとき、自分の感覚にふれていると感じる瞬間はありますか?

音楽ね。絵を描くとき、音楽にすごく影響されるの。ヒップホップのムードのときもあれば、クラシックしか聴かないようなときもある。映画のサントラや、バッハとかモーツァルトばっかりかけてね……。60年代、70年代の音楽にハマっているときは、ザ・ビーチ・ボーイズを何度もリピートしたり。ビヨークやレディオヘッド、エイフェックス・ツインがいい日もあるし。ジャンルはいろいろだけど、作品に影響するのは間違いないわ。

ニューヨークに住んでいることはどのように影響しているのでしょうか。

私はニューヨークとペンシルヴァニアで育っているから、このふたつの街と、その郊外にある自然が大好きなの。自然にはすごくインスパイアされるわ。ニューヨークの街はこれからもずっと故郷だけど、それは身近にあるものだし、家族がいることが大きな理由ね。そのエネルギーやスピード、みんなが一生懸命なところや、この街のアートも好き。小さなカフェや、いろいろな文化が息づいていることにもすごく魅力を感じるわ。どこに行っても、様々な国や人種の人がいて、1つの街に一緒に暮らしている。それってとても美しいことだと思う。すごくインスピレーションを刺激されるわ。

I love that Frida Kahlo didn't seek to be famous or be known, she just painted because she needed to, to get through the pain of her broken body and from not being able to have children due to her injuries.

あなたのアイコン的な女性といえば誰でしょうか。

ジェーン・オースティン、フリーダ・カーロ、ジョージア・オキーフ、エミリー・ディキンソン、それにシャーロット・ブロンテ。それぞれ全然違うキャラクターだけど、ものづくりに対して情熱を持ち、人生を捧げてきた人たちよ。シャーロット・ブロンテ、ジェーン・オースティン、エミリー・ディキンソンは、女性がまだ考えたり、ものをつくったり、意見を言ったりすることに対して世間がいい顔をしなかった頃に小説を書いた、とても勇気のある人物。当時の男性たちはもちろん、同じ女性たちからも、好奇の目で見られたり差別されたりしてきたのよ。この人たちの作品が世に広まったことは、当時の人たちにとってとても強みになったと思うし、自信を回復し、恐怖を乗り越えるきっかけとなったことは間違いないわ。他の人が彼女たちの作品に対してどう思うかってことよりも、自分の考えや感覚を信じることが大事だって教えてくれたのよ。私はこの女性たちをものすごく尊敬しているし、その作品や恐れを知らない物腰にとても影響されたわ。

フリーダ・カーロとジョージア・オキーフからも影響を受けたけど、彼女たちをとりまく世界はまったく違う。1800年代の頃と比べると、彼女たちが生きた時代やその文化は、ずっと女性の自己表現に寛容だったから。フリーダ・カーロは、有名になりたいとか知名度を上げたいとか考えなかったところが好きなの。体の痛みや、ケガのせいで子どもを産めなくなってしまったことを乗り越えるために、彼女は描きたいから描いた。彼女はこんなことを言ったわ。「私は自らの真実を描くのです。私が知っているただ1つのことは、自分が必要にかられて描いているということ。私は自らの頭をよぎったものを描くのです。余計な考えを入れることはしません」。彼女の作品は正直でピュアなの。そしてその人生と作品には、ものすごく感動させられたわ。ジョージア・オキーフも、有名になることに興味がなかったという点では似ているわね。今でも大勢の人がやるように、彼女もひどく傷つけられたわ。

ここ5年ほど作品制作に没頭してきたようですが、その中で学んだ大切なことを言葉にして伝えるとするならば、どうなりますか?

若い人、そしてこれからアートの世界(とかそれと似たようなところ)に入ろうとしていたり、入ることを夢見ているすべての人たちにこう言いたいわ。内なる炎を燃やせ、一生懸命取り組め、失敗を恐れるな。失敗っていつも多くのことを教えてくれるし、自分を高め、強くしてくれるのよ。それから、恐怖を感じる瞬間が大切だということも伝えておきたい。アーティストとして、恐怖に直面することはたくさんあるはず。避けられないの。だって、アーティストであるからには、いつも未知の世界に飛び込み、自らの心を頼りにあえて想像力を働かせなきゃいけないんだから。アーティストでいるのは、すごく勇気のいることよ。非難されたり、誤解されたりすることもあるかもしれない。でもそんなことでうろたえちゃダメ。ただ制作し、想像力を躍動させるために必要なこと以外はシャットアウトするの。怖いからって逃げていたら、どんな素敵なことがあなたの手からこぼれ落ちたかってことにすら気がつかないから。

It's not about how “successful” you are in your own lifetime, I think it's just important to enjoy making your work, and making it because you must.

いつもこの話をするんだけど、C・S・ルイスはこう言ったわ。「新しい目標を定めたり、新たな夢を抱くのに年齢は関係ない」年齢のことを気にして、アーティストになるのを諦めちゃダメ。グランマ・モーゼスというアーティストは78歳のときに絵を描き始めたんだけど、今じゃその作品は何百万ドルで取引されているわ。ジョージ・エリオットが始めて小説を出版したのは、40代の頃だし……。メアリー・ディレイニーがアーティストとしてのキャリアを築き始めたのは、71歳のときよ。でもその作品はブリティッシュ・ミュージアムに所蔵されているでしょ。このリストはまだまだ続くわよ。

そして、最後にもう1つ。“成功”という考えに縛られないこと。成功は単なる相対物よ。何人の偉大なるアーティストが無名のまま、貧困の最中に人生を終えたか知ってる? たくさんよ。死後何年も、もしくは何世紀も経ってから、その作品が見つかるの。自分が生きてる間にどのくらい“成功”したかってことは問題じゃない。大切なのは、楽しんで作品をつくっているかということ、自分がやりたいからつくっているかということ。この地球に生きて、人や動物、自然にやさしいなら、もう大成功よ! マヤ・アンジェロウが成功について語った言葉が大好きなの。彼女はこう言ったわ。「誰かに対して心を砕く自分がいたら、あなたは成功したことになる」

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