タイムトラベルとアフロフューチャリズムが導く未来

ラシーダ・フィリップスとキャメイ・アイワの手によって生み出された、タイムトラベルとアフロフューチャリズムを駆使し、アートと音楽によって女性を鼓舞するコミュニティスペース〈Community Futures Lab〉の真相にせまる。

「あなたの一番古い記憶って何? どんなイメージや香りがその思い出と結びついているかしら? あなたは未来ってどんなものだと思う? それって、あなたの家族や仲間が思う未来とどのくらい違うかしら?」。これはノース・フィラデルフィアにある〈Community Futures Lab〉が行った、時間と記憶に関する調査の質問の一部。こんな言葉で語られれば、タイムトラベルも身近に感じられるし、記憶や夢、憧れ、季節や休暇や日々の習慣などと同様に、私たちの日常に関連するもののように感じられる。中産階級化によってほかのコミュニティが消えていく中、〈Community Futures Lab〉はタイムトラベルとアフロフューチャリズム(世界中に散らばったアフリカ系民族の歴史と空想に、科学やテクノカルチャーを結びつけるというアート的思想)を駆使することで、コミュニティの記憶を留め、明るい未来を描こうとしているのだ。

コミュニティの創設者は、ラシーダ・フィリップス(Rasheedah Phillips)とキャメイ・アイワ(Camae Ayewa)。2人とも、長いあいだアフロフューチャリズムと時間を自身のアートや活動に取り入れてきた。ムーア・マザー(Moor Mother)名義で音楽活動を行っているアイワは、そのノイズ×ポエトリー×パンク×ジャズサウンドが高い評価を受けているデビューフルアルバム『Fetish Bones』をひっさげて、ただいまツアー中。さらに、同性愛者、トランスジェンダー、有色人種、女性アーティストをフィーチャーした月1のショー〈ROCKERS!〉を10年近く共同運営しているのだ。一方、科学ライター、母、フルタイムの住宅弁護士あるフィリップスは、〈Afrofuturist Affair〉という名のチャリティパーティを開催し、アフロフューチャリズムのクリエイターたちに出会いと集いの場を提供している。「アフロフューチャリズムは、とても学術的な用語だったわ」とフィリップスは言う。「だけど、同時にアンダーグラウンドなシーンでも使われていたのよ。私はその思想の実際的な部分や、コミュニティ、もしくは私が法律家として出会う人たちをどう支えられるかというところに興味があるの」。

フィリップスの小説デビュー作のサウンドスケープをアイワが手がけたことで2人のコラボレーションが始まり、それがやがて〈Community Futures Lab〉として結実したのである。

かつて製造業で栄えたほかのアメリカの都市と同じく、ノース・フィラデルフィアもまた、アメリカ国内における製造業の崩壊や、それにともなう白人の離散によってその力を失った。そして、それまで放置され続けていたその土地に、数百万ドル規模の再開発が行われることになったとたん、かつて存在していたコミュニティは故郷を追われることになるのである。アイワはメリーランド、フィリップスはニュージャージーの出身だが、2人とも10年以上にわたって自分の故郷はノース・フィラデルフィアだと言い、彼の地と自分たちの絆を強調してきた。発足からまだ1年しか経っていないにもかかわらず、〈Community Futures Lab〉は中産階級化の波に飲まれつつある。しかし、黒人社会における賃借人の権利やメンタルヘルスに関するワークショップを開催したり、コミュニティの記憶を保存したり、未来だけでなく過去にもアクセスするためのタイムカプセル制作などを通して、〈Community Futures Lab〉はその変化を食い止めようとしているのだ。

ある晴れた冬の火曜日、リッジ・アヴェニューのカラフルな建物は活気に包まれていた。〈Community Futures Lab〉が、第6回目となる〈Afrofuturist Affair〉チャリティパーティの準備を進めていたからだ。アイワも、大学のバスケチームのコーチをする準備に追われている。そんな折、その活動やタイムトラベル、住宅についてはもちろん、コミュニティで働くことやその活動範囲を広げることなどに関しても意見を聞くべく、彼女たちにインタビューを敢行した。

〈Metropolarity〉や〈Black Quantum Futurism〉、〈Afrofuturist Affair〉といったほかの活動と〈Community Futures Lab〉の関係性を教えてください。

〈Community Futures Lab〉は(その共同体の理念から)自然に発展してできたものなの。既存のコミュニティにアフロフューチャリズムや進歩的黒人フューチャリズムといった理念を付け加えて、自由に発展させる。アートや音楽も入れてね。ほかの共同体と別ものだとは思ってないわ。どれもこの世界を生き延び、経験していくため、もしくはみんなを力づけるための方法だから。でも、私たちは自分が人を力づけてるとは思ってないわ。そのコンセプト大嫌いなの。みんなと一緒のコミュニティにいるってだけ。

みんなこのコミュニティで暮らしていくうちに、中産階級化や再開発によって何が起こるかを見、体験してきたわ。それについて考えたり、コミュニティに対して何をすべきか、どうやって変化をもたらし、自分たちが望む未来をつくり出すことができるのかを理論化したりする場所がほしかったの。

このプロジェクトではコミュニティの記憶を留めることが大きな意味をもっているのですね。どのようにそのアイデアをつなぎ合わせてきたのですか?

フィリップス:一般的なアイデアだから。耳触りはいいけど、関連の仕事をしている人からすれば、日々やっていることに過ぎないわ。ワークショップをすると、コミュニティ以外のところからもたくさんの人が来るの。コミュニティの中の人を参加させるほうが大変なのよ。理由の1つは、住む場所を追われているから。次に、仕事に行って疲れている彼らは、ワークショップに行くより家に帰って休む方が大事だから。ほんとにずっと難しいし、課題でもあるの。

今そのことについて書いていて、それ自体は素晴らしいことなんだけど、この立ち退き問題の犠牲になった人たちが、それで見方を変えてくれるとは思っていないわ。時間がかかることなの。ピカピカの事務所を構えるだけで、半年のうちにどうこうなるようなことじゃないのよ。

このスケジュールを見ていると、賃借人の権利に関するワークショップ、家庭内暴力ワークショップとあります。いろんな分野で仕事をされているんですね。

アイワ:そう、力を入れているの。これは今、冬にしているワークショップだから。冬って大変なのよ。みんな凍えてるし、ライフラインも料金未納で止められたり、壊れたままになってるものもたくさん。でも、ライティング講座や音楽について語るだけのワークショップなんかもしているのよ。

フィリップス:このプロジェクトの要は住宅問題なの。個々人にとって、そしてコミュニティにとっても、住宅は最も重要な安定化要因よ。住宅状況がまともじゃなければ、ほかのすべてもおかしくなってしまう。住宅状況がどうかを話せば、そこに住む人(やコミュニティ)がどう暮らしているかがわかるの。このコミュニティに関して言えば住むところを失いつつあるし、(ディベロッパーは)家を建ててはいるけど、そういうところはコミュニティの住人向けじゃないわ。

アイワ:どういうところに住んできたか、何度引越しをしたかが、今の自分や、今住んでいる場所に何をもたらすことができるかに影響するということを、すべての人に知ってもらいたいの。

ずっと行っていなかった場所を訪れたとき、一番身近に感じたものの1つが光の質だということに気づきました。それまではそれを感覚としてすらとらえていなかったのに。

アイワ:私は秋に、講義をするためにここに来たの。だからここが秋になるたびに「ああ、これだ!」って思うのよ。出来事、香り、風向きなんかのすべてが、ここに初めて来た記憶に私を引き戻すの。みんなが解き明かそうとしているのはこれなんだって思うわ。

自分自身の記憶や無関心でいられること、関係を断つ方法を、消し去ってしまうこともあるわよね。もっと自分たちに関することの解明を進める必要があると感じるわ。

現在、若さに由来する、いわゆる“ポップ・フェミニズム”がとても注目されています。世代間問題を浮かび上がらせる上で、とても重要な事柄です。

アイワ:そうね、ツイッターで、黒人女性が乗り越えるべき実際の状況について話すことはないわ。広報活動に必死で、こういったことはしていないと思われるかもしれないわね。

(例えば)警察がやりがちなことがほとんど報道されていない点について話すことはあるわ。警察を呼びすぎて家を失うケースがすごくたくさんあるのよ。

これからの予定を聞かせてください。

アイワ:3月に、ペンシルヴァニア大学に併設されている〈Kelly Writers House〉で展覧会をするの。2月には、ベルリンで開催されるTransmedialeフェスティバルに〈Black Quantum Futurism〉が参加する予定よ。今週末は〈Afrofuturist Affair〉が(6周年を記念した)チャリティパーティを開くの。イベントもまだやっているけど、プロジェクトを広めたり、ノース・フィラデルフィアが怖い場所だって思ってるアート系の学生やほかの人たちを引っ張ってくるのに最良の道だって気はしないのよね。

フィリップス:共同でキュレーションを手がけるうちに、いろいろなリソースを得ることができたわ。ときどき裏切り者になったような気分になるけど。でも、自分の街にばかりいないで、ベルリンやロッテルダムに行ったり、ほかのアフロフューチャリズム関連のフェスに足を伸ばしたりすれば、もっとサポートが得られると思う。

アイワ:最近行った2度のツアーで、ポートランドには私たちは必要ないって思ったわ。海外にも必要ない。でも今は海外にいるわ。それがすべての考えのもとになってるの。ムーアっていうのは、黒人を表す言葉。黒人はただ奴隷船に乗せられてアメリカにきたってだけじゃない。それがそもそもの発端よ。クリストファー・コロンブスより前に、私たちはアメリカにいたの。コンキスタドール[訳注:16世紀に南米を侵略したスペイン人]より前にブラジルにだっていたわ。世界中にいたの。裏切り者みたいに見えるかはわからないけど、これって開放的なものよ! 事務所をひとつでノース・フィラデルフィアを半年のうちに変えることはできない。でも、ノース・フィラデルフィアがどんなところかを広めることはできるでしょう。


communityfutureslab.tumblr.com

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