アイスランドが誇るガールズラッパー、レイキャヴィークルダエトゥール

レイキャヴィークルダエトゥールがやってくる!

レイキャヴィークルダエトゥール(RVKDTR)[注:アイスランド語でレイキャヴィークの娘という意味]は、レイキャヴィーク発の14人組ガールズラップグループだ。14人と聞くと字面はもちろん、ステージ上でも人数が多めな感じは否めないが、メンバーは交代でリードヴォーカルやコーラスを担当し、節ごとに歌い分けたりもする。歌メインのR&Bから全員が1節を歌うヘヴィな低音のトラックまで、その曲調は幅広い。曲のテーマも、政治的なものもあれば、官能的なラヴソングもある。アイスランドのプロデューサー、友人、そしてそのほかの様々な人たちと組んで活動している彼女たちは、ステージパフォーマンスも抜群だ。ビートに合わせてユニゾンし、ときには節の途中でマイクを他のメンバー渡したりもする。今回、昨年デビューアルバムをリリースしたこのRVKDTRに、おそらく世界で最も大規模なガールズラップバンドであることの実態について尋ねた。

まずは自己紹介と、どのようにしてお互いと出会ったのかを聞かせてください。

私たちは、アイスランドのレイキャヴィークから来た、14人のラッパーよ。出会ったのは3年前。メンバーのうち2人が、女の子だけのラップイベントをレイキャヴィークでしようとしたの。それからいろいろあって、今はレイキャヴィークルダエトゥール(レイキャヴィークの娘)というバンドとして活動してるわ。

音楽を作る以外では何をしているのですか?

アンナ・タラはバルセロナで学校に通っているわ。ベルグソーラはダンス講師なの。ヨハンナは絵画を勉強しているし、ソルヴェイはランジェリーの販売員。カトリーン、ソーレイ、アスシルドゥル、ソルディスはツアーをしているの。ビヨークは演技を勉強していて、カルフィンナは産休中。スーラはグラフィックデザイナーで、サラとステイニーはTV番組の制作をしているわ。サルカは音楽を勉強中。ステイナンはアマバダーマという別のバンドでも活動しているのよ。ヴァルディスはプロダクトデザインを勉強していて、ブライルは〈シティ・シアター〉で演劇をしているわ。

曲を書くときはどうするのですか? みんなが関わっているのでしょうか。

その時々によるわね。共同体みたいに活動しているから。ソロもデュオもトリオもやるし、全員で曲をつくることもある。色々な方法にトライしてみたのよ! 歌詞を作ったり作曲をするときも、新しいメソッドを試すのが好きなの。自分自身やお互いに挑戦するのもね。

こんなにたくさんの人がいて、いろいろ複雑なのではないでしょうか。

いい面も悪い面もあるわ。たとえば、海外に行くと飛行機代がすごくかかるとかね。でもいつだって解決策を見つけてきたし、一緒にいるのが一番だもの。ときには打ち合わせするのすら不可能に思えることもあるけど、驚いたことに最後にはうまくいくのよ。それに、今では全員が同時にしゃべらない術を身につけたの。時間がかかったし、説明するのも難しいんだけど、見たかったらいつでも打ち合わせに来て。そうしたらわかるわよ。たぶん、私たち、あなたが来たことにすら気がつかないわよ。すぐに溶け込めるから。いっぱい人がいるしね。

ステージでは場所もパンパンですよね。リハーサルはどの程度するのですか?

ライブにはたくさんの意見を投入するし、計画を練るのにも時間がかかるわ。だけど、たぶん私たちにとって一番大切なのは、友達としての時間を持つこと。そうすればパワーも湧くし、お互いの間に愛があれば、ステージに立ったときにパフォーマーとして自由になれるから。

作曲をするのは誰なのですか? また、それはどうやって行われるのでしょうか。

いい曲が書けるなら、誰でも。私たちと一緒にやりたい人とか、私たちがコラボしたい人とか。どういう雰囲気を私たちが望んでいるか、どういう気分なのか、何を伝えたいかにもよるわ。ところで、私たちはいつも新しい音楽を待ってるの。プロデューサーの皆さん、いかが?

その曲をどうやって歌詞と結びつけ、ラップに仕上げていくのですか?

共同体である以上、どの子が曲をつくるかによるわね。作曲した人と、バンドのメンバー1人が話し合っただけでできることもあるし、全員で話し合って完成させることもあるわ。例えば「ÓGEÐSLEG」という曲は、iamHelgiっていうアイスランド人プロデューサーからサンプルをもらって、それぞれの子がそれに歌詞をつけたの。そしてそれをスタジオでミックスして、できたのがそれよ。でもバンドの最新曲「Tista」は、数人のメンバーが詩を書いて、みんなでそれを分け合ったわ。もっと短期間で曲をつくるために試してる、新しい方法なの。つまり、そうね、曲とか内容にもよるんだと思うわ。

曲はほぼすべてがアイスランド語で書かれていますが、そのテーマはとてもクリアです。

今までつくってきた曲のテーマは、父親に関する問題、旅行者、火種、アイスランドの政治家、愛、私たちがどれだけクールかってこと、セックス、最初の世界的おバカになること、など。決まったテーマっていうのはないの。そのときに頭にあることを書くのよ。数人の政治家の堕落に腹が立っているときは、それについての曲を書くことが私たち流の怒りの表現だし、社会に向けて声を上げることでもあるの。でも次の日には、恋に落ちたって曲を書きたくなるかもしれないわ。決まりみたいなものって、本当に何もないの。そのとき自分たちにとって重要なことや、思っていることを書くだけよ。

いくつかの歌詞はアイスランド語ではなく英語で書かれています。何かわけがあるのですか?

自分たちを表現する方法に違いがあるということ。英語のほうがしっくりきたり、サウンドにハマったりすることもあるの。

Reykjavíkurdætur,Ólafur Arnalds and Helgi Sæmundur - 《Tista》

音楽におけるヒーローは誰ですか? 自分が影響を受けたと思う曲はありますか?

私(ステイニー)にはヒーローっていう人はいないんだけど、今聴いているのは、アイスランド人ラッパーのGKR。尊敬してるわ。私(シーグルレイグ・サラ)は、ラップを聴いて育ったの。2パックが多かったけど、父と聴いたわ。そこからR&Bやヒップホップに行ったのよ。最近気がついたんだけど、女性ミュージシャンの方を多く聴いてるみたい。ローリン・ヒル(Lauryn Hill)、エリカ・バドゥ(Erykah Badu)、ケレラ(Kelela)、エンジェル・ヘイズ(Angel Haze)、ビヨンセ(Beyoncé)、それからリアーナ(Rihanna)。彼女たちみんなから、すごく影響を受けたわ。ソウルとかR&Bも好きだけど、だからといってRVKDTRの子みんながそうだということじゃない。みんな興味は別々だし、好きなジャンルも違う。私たちがグループになったときダイナミックでいられる理由は、そこにあるの。

レイキャヴィークのミュージックシーンは盛り上がっているようですね。実際そうなのですか? どんな感じなのでしょうか。

今、アイスランドのミュージックシーンではたくさんのことが起こっているわ。海外で活躍するバンドも多いのよ。まだまだ男性優位だけど、変わっていくといいわ。

PVはどのように制作しているのですか? 全員が制作過程に関わっているのでしょうか。

たいていそうね。他のことと同じで、場合によるけど。制作過程には入るようにしているの。ほとんどの子が芸術分野を勉強したことがあるから、PVとかアーティスティックなことにはなるべく関わっていくようにしているわ。

RVKDTRの曲からどんなことを感じ取ってほしいですか?

みんながどんな曲を聴きたいのか把握するのはとても難しいわ。聴き手によって好みも違うし、みんなを満足させるなんて無理な話よ。他の人に影響を与えたり、誰かに何かを体験させてあげようと考えるのって、パフォーマーとしてとっても大変なのことなの。自分たちがしたいことをして、言いたいことを言って、本能に従って行動すれば、そのエネルギーが拡散されるんじゃないかしら。私たちはただ、全力を尽くしたいだけ。それぞれのメンバーや、バンド全体がインスパイアされるようなことをするの。それから何を感じようが、それは聴く人の自由よ。

rvkdtr.com

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