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私たちが知る限りイギリスにはこのシスターズ・オブ・レゲエ(Sisters of Reggae)以前に “女性だけのレゲエ・セレクター集団”は存在しなかったはず。サウス・ロンドンの“100%レコード・ナイト”で、スカやロックステディ、レゲエ、リヴァイヴァル、ルーツ、80年代から90年代にかけて生まれた初期デジタル・レゲエといった音楽をプレイする彼女たち。年齢は20代から50代までと幅広く、朝晩は母親として子供たちを育てながら、日中にセレクターとして活動をしている。
ラッキー・キャット・ゾーイ(Lucky Cat Zoë)が、「女性だけのセレクター・チームを結成したい」と呼びかけ、ダブプレイト・パール(Dubplate Peral)、ミス・フィールグッド(Miss Feelgood)、ナオコ・ザ・ロック(Naoko the Rock)、デビー・G(Debbie G)、そしてスウィーティ(Sweetie)が集まった。昨年、シスターズはサウス・ロンドンで今一番ホットなペッカム地区で初のクラブ・ナイトを開催し、すぐにブリクストンまで活動を広げた。
「依頼が来るのを待ってるなんてダメなの。自分から動くの」とゾーイ。「自分でどんどん活動を打ち出していくことで、若い女の子や女性たちが『わたしもDJをやってみようかな』と思ってくれるようインスパイアしていくことも重要だと思う。デッキからプレイしながら見上げると、そこに女の子たちが“グッジョブ!”って私に親指を立ててるのが見える——それはそれは幸せな気持ちになるもの。このタイプの音楽に熱心な情熱を注がずにいられない——そんな女の子たちに少しでも働きかけることができるなら、それほど嬉しいことはないの」。
シスターズのメンバーにとって、レゲエはこれまで常に人生の大きな一部だった。東京出身で現在はイースト・ロンドンに暮らすナオコ・ザ・ロックは、20年前に日本でDJクルーの一員だった経歴を持つ。デビー・Gは、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ(Bob Marley and the Wailers)がCatch a Fireツアーで初めてイギリスを訪れた際、彼らが大学で行なったコンサートを観て、レゲエ熱に冒されたそうだ。「70年代のマンチェスターには、ブルースやシェビーン(夜な夜なダンス・パーティを開く違法バー)、サウンドシステム・パーティが流行して、わたしはそのシーンにどっぷりハマったの。そこでたくさんの地元ミュージシャンたちと出会った」とデビーは当時を語る。
それ以来、デビーはずっとイベントやラジオでDJとして活躍してきた——けれども、DJ集団に属したことはなかったそう。「女性と一緒にやるというのは最高よ」と彼女は言う。「特別なエネルギーみたいなものが生まれるの。女性の音楽づくりは、私の音楽人生で核をなす要素。女性をどんどん後押ししていくことは私たちが負った使命だと思っているの。完全な男性社会である音楽ビジネスの世界では、これまでもずっと女性の才能や素晴らしさが大きく見過ごされてきた。この現状は、業界の女性のみならず、業界そのものにとっても大きな損失なの」
女性だけのグループであるということは、ダブプレイト・パールにとっても重要な意味を持っているようだ。ダブプレイトは70年代後期から80年代にかけ、ロンドンに巻き起こっていたサウンドシステムのシーンを追いかけ続けた。サウンドシステムは女性ファンたちにとてもオープンなシーンでこそあったが、ダンスフロアを超えての活躍はさせてもらえないのが現実だったとダブプレイトは言う。そこで生まれたシスターズは、シーンにとって重要な意味を持つ。そういった男性主導の体制に変化をもたらしている(「レゲエ音楽の世界というのは、これまでずっと男性社会。でもそろそろ女性DJたちが評価を受けても良い頃。私たちだって何十年もレゲエ音楽のレコードを買ってきたんだもの」)という理由もあるが、なにより、女性セレクター集団だからこそ作り出せるサウンドというものがあるからだ。
ミス・フィールグッドは、ラジオ局Sound Fusion Radioでソウルとレゲエに特化した番組を受け持つ一方で、過去15年間にわたりDJとして幅広く活躍を見せている。彼女は、シスターズの存在が他のセレクターたちにも良い影響を与えていると話す。「私が子供の頃は女性のDJなんてひとりとして観たことはなかった。だから、自分が人前でレコードをプレイできるなんて考えもしなかった。女性だけの集団の一部として自分が存在しているということは、とても解放された気分、そこには特別な勢いのようなものがあるの。支えられてるんだという実感よね」。
「ゲストDJとして呼ばれると、必ず3〜4人の男性DJと一緒になる。女性DJとして一緒になることはほとんどない。だから、女性のDJ集団を作ったことは特別な意味がある。これまでに幾度と”DJに見えない”と言われてきたことか——サウンドを生み出すDJを見た目で判断するなんてね」
デビー・Gも同様の経験があるという。そして、シスターズが女性のみの集団だからこそ、彼女たちが生み出す作品はユニークなのだと話す。「女性DJがステージのセンターを陣取ることはとても稀なの」と彼女は言う。「この音楽のフィールドで女性が先頭に立つことはとても大きな意味を持つと思う。技術的にも女性は男性と同じようにできる。セレクトもだって、デッキやマイク、プロモーションを駆使することができるの」
しかし、そんな男性優位の状況は少しずつ変化してきているそうだ。その変化の一部となっていることを彼女は心から嬉しく感じているという。「近年のレゲエ関連エキシビションやシンポジウムでは、女性の存在に少しでもスポットライトが当てられてきていることが何よりも嬉しい。私たちが集団として成長することで、この業界で女性が活躍することが“稀”ではなく“普通”に感じる時代が来るように、これからも精進していきたい。それに、男性はほとんどやらないけれど、“女性の曲を続けざまに流す”ことも私はこれからもやっていくつもり。そうやって女性の音楽を前面に押し出すことで、女性DJたちへの寛容さが生まれてくる」。とデビーの後に、スウィーティが続く「最近、私たちの妹分のカヤ(Caya)が自分のサウンドシステムを立ち上げたの」。
彼女たちの活動により、レゲエ音楽界はすでに変化が見られ始めている。その変化を促しているのは、“彼女たちが女性だから”というジェンダーの要素もあるが、同時に“幅広い年齢の女性がチームとして活動しているから”という年齢の要素も大きく手伝っているのではないかとミス・フィールグッドは考える。「デッキで女性DJがプレイしているのを見れるなんて嬉しい、とよく言われるのよ。しかも年齢も様々で!ってね。これが、幅広い年齢層の女性たちをインスパイアできればと思う」。
ゾーイも同意見だ。ひとびとが持っている先入観を打ち崩すのも楽しいのだそうだ。「“DJには見えない”っていう言葉は私もよく聞くけれど、でもそういったサプライズ要素もあると面白いよね。要するに、買う本を表紙のデザインで決めちゃいけないってこと。花柄のドレスを着て、おとなしそうに見えるかもしれないけど、実は持ち歩いているボックスの中にはフロアが度肝を抜くような45インチがたくさん入ってるの。”Watch Out”ってね。」
デッキからプレイしながら見上げると、そこに女の子たちが“グッジョブ!”って私に親指を立てるのが見える——それが至福なの
レゲエ・シーンには受難の時代。次から次へとナイト会場が閉鎖となり、世界は極端な社会情勢の影響を受けて陰鬱な空気に包まれている。しかし、そんな世の中で、音楽は —— そして、特にレゲエは、ポジティブな力を生む効果がある。「レゲエは軽視されがちだし、そこには人種差別的な観点も含まれている」とゾーイは語る。「ルーツやリヴァイヴ、スカ、ロックステディといった音楽は、人類が生んだ音楽の中でももっともポジティブで、歓びに満ち、また歓びで聴く者を包み込む力を持った音楽なの。世界にはもっとそういう音楽が必要 —— 今のように政治が人々を悲しませてやまない時代には」
「悪と闘い、良いレゲエのヴァイブスを世界に届ける。“ワン・ラブ“こそがメッセージなの」シスターズ・オブ・レゲエの勢いは止まらない —— それはきっと、近い将来に新世代の女性セレクターたちを生み出すのだろう。