アメリカで生まれ、13歳のときに日本に移り住んだ茂木モニカ。彼女が趣味で写真を撮り始めたのは15歳の時だった。小さい頃からインターネットに慣れ親しんでいた彼女は、ブログに自分で作ったZINEや友達の写真を投稿していた。雑誌『The Editorial Magazine』の創刊者であるクレア・ミルブレイスや、フォトグラファーのペトラ・コリンズなど、アメリカを拠点に活躍する若手クリエイターたちともインターネットを通じてつながっていったのだという。「彼女たちと知り合ったときはとても新鮮な気分だった。私が通っていた高校でアートクラスを受けていたのは私1人だったの。学校には本格的なアートプログラムもなく、同じ興味を持った友達が少なかった。クレアやペトラなどと知り合ってからは、お互いの作品をシェアしていたわ。そしたら『ヴァイス マガジン(VICE MAGAZINE)』が私たちのワークを見つけてアプローチをしてきたの」とそれまで趣味だった写真が初めて『ヴァイス マガジン(VICE MAGAZINE)』に取り上げられたときのことを振り返る。当時18歳だった彼女の人生は、そこから徐々に変化していったのだろう。
「新しい雑誌よりも古い雑誌が好きだし、フィルムカメラ以外は使わない。アナログカメラは、撮った写真をすぐに見ることができなくて、現像するまでのお楽しみ。それも私が写真を好きな理由の1つかな。撮った写真をその場でチェックできないし、それは仕事でも同じ。中には私が撮った写真をその場でチェックしたいと言う人もいるけれど、私はこれからもしないわ」。アナログの良さや楽しみ、写真への深い興味と愛情がにじみ出ている。そんな彼女の作品を見ているとどこか懐かしい感覚を覚える。
茂木が映し出す被写体の多くは女性であり、若者が送る日常生活の1シーンを切り取ったような写真だ。生っぽさもありながら透明感もある。そして何より斬新なのだ。若者たちの素顔やさまざまなシーンを映し出したリアリティあふれる写真に衝撃を受ける人もいるだろう。クレア・ミルブレイスやペトラ・コリンズなど、若手クリエイターたちとのつながりが深い。彼女たちが共通して表現しているのはありのままの女の子たちの姿であり、いわば彼女たちこそ現代ガールズたちの目なのだ。ファッション界に大きなムーブメントを起こし、ガールズカルチャーという新境地を形作ってきた彼女たちは、「完璧とは一体何? 1パターンの完璧追い求めるのではなく、自然な姿が1番美しい」と、アートを通じて発信し続けてきたのだ。「ペトラに関しては、16歳の頃から知っているの。ブログを通して彼女と仲良くなって、会話をしたのが始まり。そのあと実際に会って話して、リアルフレンズになった。その後は一緒に展覧会をしたりしたわ」。そう、ペトラ・コリンズとの出会いを振り返る。「私たちが作り出してきたアートは、女の子たちが本当に見たいリアルな女の子たちの姿がテーマになっている。私は彼女たちが見たいリアリティを写真で表現しているの。“この商品を買ってみて!”とか、“こんな顔やスタイルになって、このモデルみたいになって”なんていうメッセージを送っているわけではない」と写真にかける想いを語る。
茂木のこだわりの1つでもあり、何よりも大切にしているのがキャスティングだ。自分が撮影したいと思う子や、スケーターガールズなど、自らがストリートに出てスカウトすることが多いという。自身のプロジェクトにも仕事にも友達やスカウトしたモデルをよく起用する。「特に日本では、どの雑誌を見ていても似たようなプロポーションのモデルが登場している。まるでこのスタイルが正解って言っているかのような、固定概念があるの。でも実際には、いろいろなテイストやボディタイプの女の子がいるでしょう? いま、読者の子たちは、いろんな意味で自分に似たタイプの子たちを見たいんだと思うの。だから、あるアパレルブランドのキャンペーンを撮ったときには、私や私の友達のように、さまざまなプロポーションの子を見つけて撮った。それは私にとってとても重要なことだったの。アメリカでは1つの概念にとらわれない考え方がトレンドになっているわ。けれど、日本ではまだそういった考え方や写真のスタイルはあまり浸透していないような気がする。これから変化していったらいいな。もっといろいろなテイストの子たちをブランドの広告や雑誌などで見せたい」と素直に写真を楽しみながらも積極的に日本のファッション界に新たな風を吹き込もうとしている。
彼女が表現する世界観は日本の人びとをも魅了している。実際に彼女にキャンペーンビジュアルを任せるブランドも増えてきているほどだ。「私のやり方を理解してくれるクライアントと仕事をすることができている。クライアントたちは、キャスティングはもちろん、私にアートディレクションを手がける機会もくれたりする。私を信じてくれるブランドと一緒にできることが嬉しい。ただのファッション広告というだけではなく、ブランド独自の世界観を私らしく表現し、ブランドのビジュアルを作り出す手助けをしているの」。それは彼女が描写する世界観に共感する人が増えている証であり、彼女のチャレンンジはこれからも続くのだろう。
そんな若手女性フォトグラファーの草分けでもある彼女だが、次第にファッションからドキュメンタリーへと興味がシフトしていることを明かしてくれた。これまでも女の子たちが求める“リアリティ”を表現し追い求めてきた彼女だからこそ、自然と見えてきた次のステップなのかもしれない。「もっと広い視野で色々試してみたい。メンズを撮ったり、経験のあるアーティストを撮ったり、これからはただ“かわいい写真”というだけでなくもっとストーリー性に着目した作品を作りたい。正直、いまはファッションフォトグラフィーにはあまり興味を持てないの。ドキュメンタリーにとても興味があって、アメリカ出身のアーティスト、タリン・サイモンとか、そういったテイストが好き。もっと会話やストーリー、深いメッセージ性のあるものを作っていきたい。だから最近ではフィルムビデオも撮っているの」と茂木は自由に思いのまま進んでいく。コンビニで働いている女の子に関するショートフィルムや、『ヴァイス マガジン(VICE MAGAZINE)』のドキュメンタリーを手がけるなど、すでに新しい挑戦は始まっている。自然と変化を続けていく、これからの彼女の活動から目が離せない。