ファッショナブルな表現だけでは物足りない、簡単に消費されない力強いヴィジュアルが欲しい…。今のディレクターの仕事ぶりに不満をもっているなら、すぐにMOTTYに電話すべきだ。
彼女が生み出す、カラフルでリッチな、“仰々しい”アートワークたちは、一度見たら忘れられないインパクトを残す。“仰々しい”なんて表現は、通常ネガティブな意味で使われるが、彼女に対して使うとき、それは褒め言葉に変わる。
広告ヴィジュアル、CDジャケット、雑誌やカタログのエディトリアルデザインなど。なかでも高校時代から友人のバントのステッカーを制作したり、ビョーク(Björk)のアルバム『Homogenic』のジャケットに出会い感銘を受けるなど、音楽に関するデザインには特別な思い入れがあるようだ。
今年2月に発売される、ネットシーンを牽引する実力派ヴォーカリスト、majikoのメジャーデビューアルバム『CLOUD7』では、目を引く鮮やかな赤色にモノクロでシュールなモチーフを施し、MOTTYらしい世界観のアートワークを作りあげた。
2014年冬季ソチオリンピックにおいては、女子・スノーボードハーフパイプのスペイン人選手が、MOTTYがデザインしたボードを使用するなど、ファッションやアート、音楽の枠にとどまらず、その活躍は多岐にわたる。
アートディレクターと呼ばれることもあるだろうし、グラフィックデザイナーと呼ばれることもあるだろう。ゼロの状態から一つの空間を作り上げるという意味ではアーティストでもある。被写体との距離感をリアルに表現したいとき、自ら撮影までしてしまうフォトグラファーでもある。
肩書きはともあれ、そのアートワークは、“病みつき”になる中毒性を持っている。
色の塊が目にダイレクトに飛び込んでくる感じだ。網膜に赤や青の残像が張り付いて離れない、そんな風な。彼女にだけ見えている色の世界があるのだろう。「色鮮やかなものに惹かれる」と語るように、彼女自身も“色”については並々ならぬこだわりを持っている。
「フライヤー1枚作るにしても、配色には特に気を使います。それを突飛なところから拾ってくるかというと、そうでもありません。例えばマヨネーズ。ぼってりとしたクリーム色の容器部分と赤いキャップのコントラストって、サラダを食べる度にハッとします。色と色のぶつかり合いというか、訴えかけるような色使いを意識しています」。
幼いころから絵画教室に通うなど、もともとアートは彼女の近くにあった。「中学校の授業だったかな。windows97の『ペイントツール』を使う授業があって、それでどこまでできるかなって、試行錯誤してグラフィックやってみたり。子供の頃から作ることが好きでしたね」。
大阪でデザインについて学んだ後、上京。いくつかのデザイン事務所を経て、独立。クライアントはさまざまだが、どの作品を見ても彼女らしいヒップなポップネスにあふれている。「インスピレーションを得るために、躍起になって本や写真集を捲るとかはしないです。なんでもないストリートの風景とか建物、道に落ちているもの、ゴミとか。色やテクスチャーが面白かったものをなんとなく覚えておいて、形にする感じ。夢で見たイメージなんかも助けになりますね」。
例えるなら、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)によるヴィヴィッドなシルクスクリーン、ジャン・コクトー(Jean Cocteau)の牧歌的なイラスト、そしてピエト・モンドリアン(Piet Mondrian)的な色使いによるインパクト。さまざまな美のイメージを優雅に拝借し、リッチなフレーバーをまぶして、今に甦らせる。
「どんな仕事でも自分の“色”を出すようにしています。機会があれば、一度見たら忘れられない色づかいの怪物のキャラクターや、衣装など自分でデザインしてみたいという気持ちもあります」。
次は、彼女の作品をどこで見るだろうか。新進気鋭ミュージシャンのアートワークかもしれないし、もしかしたら舞台上の衣装で魅せてくれるかもしれない。
丸井”motty”元子
東京を拠点に活動する1985年生まれのアートディレクター/グラフィックデザイナー/アーティスト。いくつかのデザイン事務所を経た後、デザインスタジオRALPH(現YAR TOKYO)にてアートディレクションを学び、2014年独立。エッジとシュールさのある表現を得意とし、音楽、ファッション、広告などの分野で活動中。2017年には、国内外でファッション・カルチャー分野での仕事が控えている。
instagram : @_motty_