33歳のドーン・リチャード(Dawn Richard)はジャンルを超越するアーティスト、DAWNとして活動し、すでに確固たるキャリアを確立している。2004年、彼女はパフ・ダディ(Puff Daddy)の「メイキング・ザ・バンド」というテレビ番組のオーディションを受け、5人組のR&Bバンド、ダニティ・ケイン(Danity Kane)のメンバーとなった。ファーストとセカンドアルバムがともにUSチャートのトップになるなど、このバンドは大きな成功を収めたが、2009年に解散。2013年に再結成するも、2名が脱退するなど悲惨な結果となった。その間、リチャードは、ショーン・コムズ(Sean Combs)によって結成された別のスリーピースバンド、ディディ・ダーティ・マネー(Diddy-Dirty Money)のメンバーとして活動するが、このバンド名義では1枚のアルバムしかリリースしていない(2010年の傑作『ラスト・トレイン・トゥ・パリ』だ)。その後も絶え間なく活動を続けたリチャードは晴れて自由の身となり、心をとろけさせるポジティヴなアルバムを、完全にインディペンデントなかたちで次々にドロップしたのだった。3部作となるそれらのアルバムは、色で区分されている(2013年の『ゴールデンハート』はゴールド時代、2015年の『ブラックハート』はブラック時代、そしてこれからリリースされる『レデンプション(贖罪)』はレッド時代)。リチャードの音楽はまるで映画のように感覚をオーバーロードさせ、アーティストとしての彼女と同じく、奥深くまで染み込んでくるのだ。
ご自身を感覚とどう調和させているのですか?
これまでの自分と同じように調和するの。瞑想やヨガをやっているんだけど、自分のチャクラと一体化する。今、私は内なる自分と対話するのにとてもよい環境にいるわ。
サウンドづくりの過程に色を組み込むことが、どうして重要なのでしょうか。
音だけじゃなくて、他の感覚でも人の心をつかむことが重要だと思っているの。音の世界のもっと先を目指すのね。色彩は、そういう意味で大きな存在感を持っているわ。そうすることで、聞き手は何を歌っているかはもちろん、何を暗示しているかを聞き取ることができるでしょう。
どちらが最初なのでしょうか? アルバムをつくっているときに、すでに頭の中に色が浮かんでいるのですか?
そうね。ゴールド時代には、すでにグスタフ・クリムト(Gustav Klimt)からインスパイアされていたから。好きな画家の1人なの。彼はあの金色の薄片を使って絵に威厳を持たせ、当時華やかだった文化に力を与えたのよ。素晴らしいことだわ。好きな作品は「ユディト」。強さがあるし、モチーフの内面から美しさがあふれ出てる。この絵に影響を受けたアルバムをつくりたかったの。重苦しさがすべてだったブラック時代に対して、レッド時代と『レデンプション』は、活力がみなぎってる。赤色を見ると、人は危険を感じるのよ。
子供時代にオルタナロックを聴いて育ったのですよね。それが音楽との最初の関わりだったと思いますか?
そうね、かなり影響していると思うわ。リスキーだったり、骨太だったり、酒やタバコでかすれた歌声に親近感を感じるもの(笑)。インディロックの女の子の物悲しさや、男性リードボーカルの不快なキーキー声も好き。あの音やバイブは、私がずっと持ち続けていたものだし、私自身の声の使い方にもそうした要素があるわ。楽器のようなものなの。
あなたの肌の色から、人はあなたがR&Bに興味があると思い込んでいると感じますか?
そうね、その通り。それが無難だもの。黒人でいることやR&Bを好きなことには何の問題もないわ。色によってそれが決まるとは思わないけど、私は黒人だから、人は私をR&Bと結びつけようとするわね。それに、もちろん過去にバッド・ボーイと契約していたってこともあるし。みんな物事をピュアにそういう観点から見るのよね。
あなたの曲はどのジャンルにもぴったりと収まりません。その尽きることのない創造力を刺激するものは一体何なのでしょうか。
私はニューオーリンズで生まれ育ち、オルタナロックが大好きな黒人の女の子だった。それが全てを物語っているんじゃないかしら。影響はたくさんのものから受けたわ。私の父はクラシック音楽を学んだミュージシャンだったから、ドビュッシーとかバッハとかをよく聴いていたわ。でも私が好きだったのは、グリーン・デイ(Green Day)とかシステム・オブ・ア・ダウン(System Of A Down)とかビヨーク(Björk)だったの。それに、教会にもよく通ったわ。カトリック教でね、聖歌隊に入っていたのよ。だからゴスペルも大好き。ブルースも理解していたわ。深い部分を見れば、私がどうして今のような音楽をつくるのかがわかると思う。
以前はメジャーなレーベルに所属していましたよね。真にインディペンデントなアーティストとなった今、とても新鮮な気持ちですか?
最高よ。4年前に始めたばかりの頃は、時期じゃなかったの。あの頃インディーシーンは人気じゃなかったし、壁にぶち当たったわ。今は、チャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)みたいなアーティストが、常識を根底から覆してくれてる。でも女性にとってはまだまだ難しいかも。だってヘアとかメイクとか服とか、いろいろあるでしょ。お金もかかるしね。でも今はインディとして新しい技術を駆使する最高の時代なの。私のアルバムはUSBを使っているから、ネックレスみたいに「着る」ことができるのよ。USBの中にはアルバムだけじゃなくて、本も入っているわ。新しい技術があれば、インディペンデントなアーティストでいるのがもっともっと素晴らしいものになる。
ドーン名義でつくる音楽は、ダニティ・ケイン時代の、統制され大量生産されていた音楽に対する反動なのでしょうか。
最初のアルバム『ゴールドハート』はそうだったと思う。あれはホントに中指を突き立ててるわよね。私 対 業界みたいな。あの頃の私は手に武器を持って立っているような感じだった。みんなあのファーストアルバムをR&Bの『ゲーム・オブ・スローンズ[訳注:中世の架空世界を舞台にしたドラマ]』だって言ってたもの。すごくシネマティックだったのよね。最初はそんなふうに反抗的だったけど、今は違うわ。この新しいアルバムはそうじゃない。今はインディペンデントなアーティストであることを強みだと思っているもの。昔はなんでメジャーなところでうまくいかないんだろうって感じていたけど、今はその理由がわかる。私、業界が望むようなミュージシャンではないのよ。今はそれでいいと思ってる。
経済的な面ではいかがでしょうか。
創業したばっかりの会社みたいなものよ。まずは基盤をつくらなきゃいけないから、大変。自分のものづくりに共感してくれるスポンサーを探したりね。がんばって、私のブランドをつくりあげているの。
ライブでご自身のファンとつながりを持つというのはより重要になってきますか? そういう人たちはあなたをミュージシャンとして信頼しているということですから。
そうね、そういうのってピュアなものだから。私は黙ってても知られるようになる立場のミュージシャンではなくて、探さなきゃみつからない類のミュージシャンなの。つまり、私にファンがいるとすれば、その数の大小に関わらず、その人たちはみんな望んでライブに来てくれているってこと。たくさんのCMが私を好きになるように言ったからじゃなくてね。大掛かりな計画は実行するのにも時間が必要だけど、カルトなミュージシャンのファン(繰り返しになるけど、私ももともとはインディバンドのファンだったのよ)のいいところは、自分でそれを選んでいるという点。私がつながっていたいのも、そういうファンなの。ライブは熱気ムンムンですごく内輪だし、みんながつながってる。どんな大きな場所のライブも、あれには勝てないわ。安っぽいバーでライブしているようなバンドが大好きなの。
おもしろいことに、世界の頂点に立つミュージシャンの1人であるレディ・ガガ(Lady Gaga)も、最近そういう場所でライブをしましたよね。
彼女は知っているから。わかってるの。利口なら、そういうファンや場所のいい点を利用することができるわ。歴史があるもの。ロンドンの〈XOYO〉みたいな場所がどんなにいいところか語ってあげられるわよ。みんなが自分の曲を歌ってくれるんだもの。最高よ。
自分の音楽を聴くことで、現実を忘れてほしいですか? それとも現実と向き合ってほしい?
そのどちらもちょっとずつというところかしら。通り抜けなければいけないものから逃げてほしくはないし、現実を受け入れることにも希望があることを知ってもらいたいとも思う。希望は逃避にもつながるわ。私の3部作が言いたいのはそこなの。ゴールド時代は、自分の眼の前に立っている敵と武器を手に対峙することについて。ブラック時代は、別の現実へと誘う喪失。レッド時代は、その両方にある現実のこと。贖罪(レデンプション)とは過去を追体験することだけど、より大きな力を得たり、さらなる高みにたどり着く術を知ることでもあるの。そこで感覚とかチャクラの話に戻るんだけど、人は自身の内にある現実と共存しなければならない。でもそれは単なる逃避ではなく、自分の内面に逃げ込むことで、自らの内にある美しさを定義するということなの。それが、人間であることの本当の証。混沌とした世の中に生きながら、そこから離れ、自分の基礎を固める。混沌とした中にあって平穏を見つけられたなら、あなたの勝ちよ。