ギター高田正子、ベース在川百合、ドラム姫野さやかの3人によるガールズバンド、にせんねんもんだいは、国内に限らず遠く海を渡ったヨーロッパやアメリカでも熱烈な支持を集めている。同じメンバーとして、ミュージシャンとして、そして友人として、彼女たちのフラットな関係性はそのままクリエイションにも生かされているようだ。国内におけるガールズバンドの大衆的なイメージとは真逆を行く彼女たちに、その音楽性について、海外での反響について、そしてバンドとしての表現方法について訊いてみた。
バンド結成のきっかけはなんですか?
在川:1999年に大学の同じ音楽サークルで出会って結成しました。バンド名を何にしようかなと考えていたときに、同じサークルの友人が、当時世間で話題だった2000年問題から「にせんねんもんだい」と提案してくれて、あまり深くは考えていなかったんですが、この名前には3人ともピンときたので、そのままバンド名に決まりました。インストゥルメンタルというスタイルもその頃から変わっていません。
結成から現在に至るまで、その独自の音楽性はどのように進化していったのですか?
高田:もともと、ノイズミュージックをやっているサークルの先輩がいて、そのバンドがすごくかっこよかったんです。ノイズを初めて聴いたのもそのときでした。そのときに「これだったら出来そうだな」と思い始めて、3人でスタジオに入ったのがきっかけです。
姫野:まさにこの音楽だ! という感じではなく、これなら出来そうくらいの感じで始めました。最初の何年かは、楽しいからやってたという感覚だったんですが、何年もやっていくと、さすがにこれだけじゃいけないと思うようになって。気がつけばアメリカとかヨーロッパにもライブで行くようになって、段々とバンドとしての考えを深めて行くようになりました。
高田:最初の頃の衝動的な感じよりは、無意識と意識のちょうどいいバランスで音を出せるようになってきたという感触はあります。常にその時々で、かっこいいと感じる音をだすということを大切にしています。
姫野:漠然と何がかっこいいかというイメージはあるんですけど、それは音だけじゃなく雰囲気とかそういったものも含めてで。そこは3人でも共有していて、試行錯誤しながらその時々で出せる音をイメージして、どのようにアプローチしていくか、その方法はちょっとずつ変わってきていますね。
初めからオリジナルのインストゥルメンタルバンドだったんですか? コピーなどは?
在川:最初はコピーもしていましたね。3人とも初心者だったので、自分たちでも出来そうなものをコピーしていました。
高田:コピーと言っても、本当に少しだけ。出来る範囲でって感じです。基本的には自分たちのやりたい音を出すみたいな感じでやってました。カバーしたのはThe VaselinesとかBeat Happening、The Velvet Undergroundなどです。
音作りの際のインスピレーションの源は?
高田:最近、すごくかっこいいなと思ったのは、フィンランドのエクスペリメンタル・デュオのPan SonicのメンバーでもあるMika Vainio(ミカ・ヴァイニオ)ですね。
姫野:ミカさんはノイズもやるし、テクノっぽいアプローチのところもあって。
高田:ミニマルっぽい感じもあったり、どのアプローチも全部好きで……。特に音の質感とか、雰囲気がすごくかっこいいなと。
姫野:あとはThrobbing Gristleはいつでもかっこいいと思います。ここ何年かは、ずっとそこら辺しか聴いていませんね。
にせんねんもんだいと音楽的に共感が持てるバンドとかミュージシャンはいますか?
姫野:個人的にはFactory Floorとか。ライブを観たときすごくかっこよくて。久しぶりにこれはすごいって感じでした。あとは、同じインストバンドのgoatとか、個人的には灰野敬二さんですね。
バンドとしては、2013年に発表したアルバム「N」から始まった一連のリリース、そしてツアーなども終えたということで、現在はひとまずやり遂げたという感覚ですか?
姫野:その感覚はありますね。今は吸収の時期というか、次に向けてという感じですかね。今はライブもあまり入れていないので、メンバー同士でもたまに会って話すくらいだったり、リリースした作品の諸々の宣伝のやりとりをするくらいですかね。また何か決まれば、スタジオにもちょっとずつ入ってこうかなと思っていますけど。
「N」の時の手ごたえというものは、今までとは違うものでしたか?
姫野:そうですね、「N」に関してはたくさん反響ももらえたので。ある日、坂本龍一さんからTwitterで直接メッセージが届いて、坂本さんがやっている「NO NUKES」というイベントにもお誘いいただいたこともありましたし。あとは、坂本慎太郎さんのレーベル(zelone records)からアナログをリリースできたりだとか。
バンドとして割と早い段階で海外公演もやっていたかと思いますが、当時から比べると向こうでのライブ活動の状況もだいぶ変わりましたか?
姫野:そうですね、たぶん2007、8年くらいからほぼ毎年ヨーロッパには行っていて、年々少しずつ状況は良くなっています。「N」をイギリスのBlast First Petiteというレーベルからも出してもらって、それで結構、状況が好転しました。向こうのレーベルが割と宣伝してくれたのもあって、同じ年にイギリスに行ったときは、それまでより大きい会場でライブが出来るようになりました。
もうすでに、次の動きに向けてのヒントは生まれてきているんですか?
高田:実はつい最近まで制作活動をしていたんです。そのときに新しい音源も録っていて。自分の中では……、方向性は同じ感じで。でも「N」の時とはアプローチが変わってきてます。今はこの方向性をもっと進化させて行こうかなという感じの時期です。
姫野:タイトルは「E」です。今はCD-RとBandcampでリリースしています。これが私たちの「N」以降のイメージを表した一つの形だと思ってます。「N」はバンド名の頭文字から取ってたんですが、今回は「実験」という意味も込めて「Experimental」の「E」にしてみました。実際、タイトルは何でも良かったんですけど、意味をあえて付けるならって感じで私が勝手に付けました。そして今は「E」の延長線上というか、それをうまくライブで演奏できるようになることが目標です。
ちなみにその他のアルバムタイトルや曲名には、具体的な意味などあるのでしょうか?
姫野:昔から意味はほとんど無いです。ただ音源をリリースする際に、曲名が無いといけないって言われて、登録する都合で付けています。以前は無理やり何か思いついた言葉を当てはめていたんですが、だんだんそれも面倒くさくなってきて、最終的には記号のようになってしまいました(笑)。
高田:だけど、これも今の私たちの音楽スタイルにあっているのかなっていう実感もありますね。
ではジャケットなどのアートワークはどなたが手掛けているのですか? すごい削り落としたミニマルなビジュアルもまた、バンドの音を巧みに表現しているなと思って見ていたんですが。
在川:アルバム「N」以降は姫野さんのデザインです。黒と白の。
姫野:最近の記号っぽいのは私ですね。その前までのイラストなどは、在川さんが。アートワークも基本的には自分たちでやっています。
今日のこの場所(落合Soup)は、ライブ以外にもレコーディングでも使用してるんですよね?
姫野:そうです。エンジニアもやっているSoupの野口さんとは、ちょうどイベントをやらせてもらった時に知り合って、それがきっかけでレコーディングをやってくれるって話になったんです。「N」が初めてここで一緒に作った作品なんですけど、上手くコミュニケーションを取りながら録れたと思ったので、それ以来はずっとお願いしています。
高田:そうだね。「E」もここで録らせてもらって、soupは最近の拠点と言ってもいいかもしれません。
在川:ちょうどいい場所だもんね。スペースも雰囲気も広さも。
最後に、にせんねんもんだいというバンドを「香り」で表すとどのような香りでしょうか?
在川:難しい……。
高田:無臭?
在川・姫野:無臭!?
高田:わからない(笑)。目指すべきは、透明な香りですかね?
在川:それで言ったら、まだちょっと香りが出ちゃってますね。
高田:うん、まだ香ってるね。
姫野:まだまだ削って行けると思います。どんどん透明な香り方向に。
一同:(笑)
高田:香りも存在も。空気のような。
にせんねんもんだい/高田正子(ギター)、在川百合(ベース)、姫野さやか(ドラム)により、東京で結成された女性3人組のインストゥルメンタル・バンド。2008年にアルバム「Destination Tokyo」を発表。2013年にアルバム「N」を発表。2016年10月には、最新CD-R「E」を発表。