作曲家 エロリン・ウォレンの世界で流れる5つの音

管弦楽曲を15作ほど書き、数え切れないほどの室内楽作品を作り、ソロアルバムも複数リリースしているエロリン・ウォレン(Errollyn Wallen)。音楽世界への貢献が讃えられ、2007年にはMBEを受賞し、また楽曲『Principia』と『Spirit in Motion』がロンドン・パラリンピックの開会式で演奏されるなど、ウォレンの活躍は勢いを増すばかり。

ウォレンはもともと、未来が大きく期待されるダンサーだった。中央アメリカのベリーズに生まれ、米ニューヨークのNew York’s Dance Theater of Harlemでダンサーとしてのキャリアを着々と積んでいたが、作曲を学ぶことを決意し、ケンブリッジ大学に入学。現在はイギリスのロンドンとスコットランドのハイランド地方を行き来して生活している。音楽を作る過程においては、なるべく水の近くにいたいというのが彼女のあり方だ。

ウォレンの作曲プロセスは、「いまの生活と環境を作品に注ぎ込みたい」という衝動から始まるのだという。室内楽の作品であろうと現代声楽の作品であろうと、彼女の音楽は、彼女を取り巻く環境をまるで触れることができるかのように描いた、時が限りなく流れ踊る世界だ。楽器ではチェロが好きというウォレン。しかし彼女がもっとも魅了される楽器は、ひとの声なのだそうだ。

1

エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)声は、ひととしての魂を呼び覚ましてくれる。バッハの音楽もまた、ひとの魂というものに触れるものを持っている

2歳の時に、ナット・キング・コール(Nat King Cole)の『When I Fall In Love』を歌いながら母と父を起こしたことがあったそうです。泣くよりも歌うことのほうが多い赤ちゃんだったと聞いています。

2

曲を書いているときにもっとも大切な感覚は、私にとってのでもある私の内なる聴覚

作曲は、体を使う作業——あらゆる感覚が必要とされます。そこで私がもっとも頼りにしているのが直感。私はダンサーとしてのトレーニングを積んできたので、作品にはいつでも、「魅惑の音世界に明確な動きを」と無意識のうちに考えています。作曲の過程で好きなのは、自分の体が消えてなくなるような感覚に襲われる瞬間です。

3

わたしを取り巻く光景、音、香りが、わたしの音世界を作る

ロンドンではテムズ川のほとりに暮らしています。テムズ川は音に溢れ、ときに力強い香りを発する川。そこで作る音世界に、わたしはブルーを作り出したい。香りも重要な要素で、トッテナムに暮らした子供時代、学校でよく食べたプディングの香りを鮮明に覚えています。たぶんハーリンゲイ地区特有のプディングだったのだと思うのですが、固まる前の液状タールのような質感でした。

4

目を閉じて音楽を聴くと、まぶたの裏に音符が踊る。

官能というものは、幸福感を伴う孤独でもあり、また圧倒的な至福感を伴う完全性でもあります。わたしにとっての官能とは、生という流れのなかで完全に自由である感覚です。

5

新しい曲を書くときには、触感や色、ムード、雰囲気を音に作り出そうと努める

自分が音楽というものに初めて触れる宇宙人になったところを想像すると、新たな発見に巡り合うことができます。初期作品のいくつかは、フルーツケーキの質感を音に再現したいと思ったことから生まれました。

This Week

和洋新旧の混交から生まれる、妖艶さを纏った津野青嵐のヘッドピース

アーティスト・津野青嵐のヘッドピースは、彼女が影響を受けてきた様々な要素が絡み合う、ひと言では言い表せないカオティックな複雑さを孕んでいる。何をどう解釈し作品に落とし込むのか。謎に包まれた彼女の魅力を紐解く。

Read More

小説家を構成する感覚の記憶と言葉。村田沙耶香の小説作法

2003年のデビュー作「授乳」から、2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』にいたるまで、視覚、触覚、聴覚など人間の五感を丹念に書き続けている村田沙耶香。その創作の源にある「記憶」と、作品世界を生み出す「言葉」について、小説家が語る。

Read More

ヴォーカリストPhewによる、声・電子・未来

1979年のデビュー以降、ポスト・パンクの“クイーン”として国内外のアンダーグランドな音楽界に多大な影響を与えてきたPhewのキャリアや進化し続ける音表現について迫った。

Read More

川内倫子が写す神秘に満ち溢れた日常

写真家・川内倫子の進化は止まらない。最新写真集「Halo」が発売開始されたばかりだが、すでに「新しい方向が見えてきた」と話す。そんな彼女の写真のルーツとその新境地を紐解く。

Read More

動画『Making Movement』の舞台裏にあるもの

バレリーナの飯島望未をはじめ、コレオグラファーのホリー・ブレイキー、アヤ・サトウ、プロジェクト・オーらダンス界の実力者たちがその才能を結集してつくり上げた『Five Paradoxes』。その舞台裏をとらえたのが、映画監督アゴスティーナ・ガルヴェスの『Making Movement』だ。

Read More

アーティスト・できやよい、極彩色の世界を構成する5つの要素

指先につけた絵の具で彩色するフィンガープリントという独特の手法を用いて、極彩色の感覚世界を超細密タッチで創り出すアーティスト・できやよい。彼女の作品のカラフルで狂気的な世界観を構成する5つの要素から、クリエーション誕生の起源を知る。

Read More

ハーレー・ウェアーの旅の舞台裏

写真家ハーレー・ウィアー(Harley Weir)が世界5カ国に生きる5人の女性を捉えた旅の裏側、そして、ドキュメンタリー映像作家チェルシー・マクマレン(Chelsea McMullen)が現代を象徴するクリエイターたちを捉えた『Making Images』制作の裏側を見てみよう。

Read More

『Making Codes』が描くクリエイティヴな舞台裏

ライザ・マンデラップの映像作品『Making Codes』は、デジタルアーティストでありクリエイティヴ・ディレクターでもあるルーシー・ハードキャッスルの作品『Intangible Matter』の舞台裏をひも解いたものだ。その作品には、プロデューサーとしてファティマ・アル・カディリが参加しているほか、アーティストのクリス・リーなど多くの有名デジタルアーティストが関わっている。

Read More

ローラ・マーリンが表現する、今“見る”べき音楽

イギリス人のミュージシャン、ローラ・マーリンのニューアルバムに満ちている“ロマンス”。男っぽさがほとんど感じられないその作品は、女性として現代を生きることへの喜びを表現している。

Read More
loading...