ウォレンはもともと、未来が大きく期待されるダンサーだった。中央アメリカのベリーズに生まれ、米ニューヨークのNew York’s Dance Theater of Harlemでダンサーとしてのキャリアを着々と積んでいたが、作曲を学ぶことを決意し、ケンブリッジ大学に入学。現在はイギリスのロンドンとスコットランドのハイランド地方を行き来して生活している。音楽を作る過程においては、なるべく水の近くにいたいというのが彼女のあり方だ。
ウォレンの作曲プロセスは、「いまの生活と環境を作品に注ぎ込みたい」という衝動から始まるのだという。室内楽の作品であろうと現代声楽の作品であろうと、彼女の音楽は、彼女を取り巻く環境をまるで触れることができるかのように描いた、時が限りなく流れ踊る世界だ。楽器ではチェロが好きというウォレン。しかし彼女がもっとも魅了される楽器は、ひとの声なのだそうだ。
エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)声は、ひととしての魂を呼び覚ましてくれる。バッハの音楽もまた、ひとの魂というものに触れるものを持っている
2歳の時に、ナット・キング・コール(Nat King Cole)の『When I Fall In Love』を歌いながら母と父を起こしたことがあったそうです。泣くよりも歌うことのほうが多い赤ちゃんだったと聞いています。
曲を書いているときにもっとも大切な感覚は、私にとっての“目”でもある私の“内なる聴覚”
作曲は、体を使う作業——あらゆる感覚が必要とされます。そこで私がもっとも頼りにしているのが直感。私はダンサーとしてのトレーニングを積んできたので、作品にはいつでも、「魅惑の音世界に明確な動きを」と無意識のうちに考えています。作曲の過程で好きなのは、自分の体が消えてなくなるような感覚に襲われる瞬間です。
わたしを取り巻く光景、音、香りが、わたしの音世界を作る
ロンドンではテムズ川のほとりに暮らしています。テムズ川は音に溢れ、ときに力強い香りを発する川。そこで作る音世界に、わたしはブルーを作り出したい。香りも重要な要素で、トッテナムに暮らした子供時代、学校でよく食べたプディングの香りを鮮明に覚えています。たぶんハーリンゲイ地区特有のプディングだったのだと思うのですが、固まる前の液状タールのような質感でした。
目を閉じて音楽を聴くと、まぶたの裏に音符が踊る。
官能というものは、幸福感を伴う孤独でもあり、また圧倒的な至福感を伴う完全性でもあります。わたしにとっての官能とは、生という流れのなかで完全に自由である感覚です。
新しい曲を書くときには、触感や色、ムード、雰囲気を音に作り出そうと努める
自分が音楽というものに初めて触れる宇宙人になったところを想像すると、新たな発見に巡り合うことができます。初期作品のいくつかは、フルーツケーキの質感を音に再現したいと思ったことから生まれました。