ペニー・マーティンが語る『ザ・ジェントルウーマン』

『ザ・ジェントルウーマン』誌の編集長を務めるペニー・マーティン。紙媒体の変化を誰よりもよく知る彼女に、雑誌に関わることになった経緯、彼女が持つフィロソフィについて話を聞いた。

多彩なジャンルで活躍する才能ある女性たちを、ディテールにとことんまで迫った取材、息をのむほど美しいポートレイト、エレガントかつ深遠な記事で紹介する雑誌『ザ・ジェントルウーマン』。その存在は、出版界においても稀有なものだ。創刊は、不況のさなかの2009年。ゲルト・ユンカース(Gert Jonkers)とヨップ・ヴァン・ベネコム(Jop Van Bennekom)によって、『ファンタスティック・マン』の人気に後押しされるかたちで実現した。ビヨンセ(Beyoncé)やアンジェラ・ランズベリー(Angela Lansbury、テリー・リチャードソンのイエローレンズのサングラスをかけて撮影された)など錚々たる顔ぶれを表紙に起用したこの雑誌の目的は、読み手に商品を押し売りすることではない。こうした女性たちの生き様を世の人々に知らしめ、導いていくことだ。陶芸家からミュージシャン、有名人から無名の人まで、取り上げられる女性は多岐にわたるが、編集的な扱いに差異はまったく見られない。あくまで、現代社会に生きる一個の人間として表現されているからだ。

2000年代初頭に〈SHOWstudio〉でそのキャリアをスタートさせた、編集長のペニー・マーティン(Penny Martin)は、創刊当初から『ザ・ジェントルウーマン』に関わってきた。今回のインタビューを通じ、どうやってその仕事を遂行しているのかを彼女に聞いた。

『ザ・ジェントルウーマン』に関わるようになった経緯を教えてください。

2008年まで7年くらい〈SHOWstudio〉で働いていたんだけど、ゲルトとヨップに、一緒に女性向けの雑誌を立ち上げてみないかって誘われたの。もちろん可能性はあったけど、実現するまでにかなり時間がかかったわ。私はファッション界を離れて再び勉学に励んでいたし、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションで、ファッションイメージの教授となるオファーを受けていたしね。でもその仕事は私に向いていなかったの。だからゲルトとヨップのところに戻って、まだ望みはあるかと尋ねたわ。ヨップとランチに出かけたとき、祈るような気持ちだった。だってその仕事環境はすごく自分に合っているし、力になれると思ったから。

それまで雑誌の仕事の経験はあったのですか?

いいえ。ウェブの仕事はしたことがあったけど、それが出版の仕事に生かせるかどうかは皆目見当もつかなかったわ。自分にとっては馴染みのない、ちょっと嘘くさくてすごく謎めいた業界って印象だった。知らないことやわからないこともたくさんあったのに、超一流のふりをしていなけりゃならなかったの。キツかったわ!

例えばどんなことを知らなかったのですか?

まず、何の手がかりもなしに、5ヶ月で雑誌を立ち上げなければならなかった。編集とデザインを組み合わせる期間というのは、揉め事も起こりやすいし、気をつかう時期なの。最初は業界用語を勉強するところから始めたわ。文字通りの意味でも、比喩的な意味でもね。だってゲルトとヨップは同じオランダ人だし、お互いのこともよく知ってる。しゃべる必要すらなくて、ただうなずけばいいの。あの2人の言うことを理解し、そのアイデアを具体化するのにすごく苦労したわ。めちゃくちゃウザい妹みたいな存在だったの!

私たちは彼女たちを誠実に扱っているの。これがカギよ。

創刊号をつくるにあたり、こうしたいというようなイメージはありましたか?

そうね、でも私には『ファンタスティック・マン』という前例があったから、ある程度のことはどうやればいいか見当がついたわ。例えばトーン&マナーとか、文章を長めに書くとか、親しげな感じとか、レタッチはしないとか、スナップ写真の感じとか、美しいポートレイトとかね。それに、嫌いなこともはっきりしているのよ。当時、巷で売られている女性誌によく見られたことなんだけど。そのへんのニューススタンドに行くと、何の主張もないポルノ的な女性のヌードがあふれているって感じてたの。おかしなことに、それはたった7年前の話なんだけど、当時はものすごく重要なことに思えたのよ。

ここ10年で、セレブ文化や雑誌文化も大きな変化を遂げました。メディアを通じてのセレブしか見ていない私たちには、彼らがSNSやブログをしていない限り、その存在さえ信じられないこともあります。でも『ザ・ジェントルウーマン』はそうではない。

いわゆる正統派セレブを取り上げるとき、同じ号では5〜6人、ほとんど世間では無名の人をフィーチャーするようにしているの。それに、ロングインタビューも、ホテルのロビーみたいな場所ではやらないように努力しているわ。創刊したてのころは、プレスの人の指示が至るところに飛んでくるような時代だった。レタッチの具合とか、被写体とカメラの距離にまで口を出されたり。そんな取材じゃ、インタビューを読んでも、踏み込めていない感じがありありと浮かび上がるわ。そういう記事を見ると、雑誌の自己満足って感じがするでしょう。

そんなわけで、創刊したばかりの私たちは、まずプロモーション案件のない人たちを探すことから始めたわ。それってすごく難しいことよ。それに、私たちはどう見せるかってことを口に出さないの。2つ前の号でパメラ・アンダーソン(Pamela Anderson)をフィーチャーしたんだけど、読者が彼女を正しく評価できるようにするための編集方針を確立するのに、すごく時間がかかったわ。おもしろかったのは、最初にインタビューは『サンデー・タイムズ』に入っている『スタイル』誌みたいにしようと言っていたんだけど、実際に比べてみると相当違うの。私たちは有名人におかしなことを仕掛けるから、それが彼女たちの周りにある虚構を取り払ってしまうんだって、改めて気づいたわ。それに、私たちは彼女たちを誠実に扱っているの。これがカギよ。干渉しないし、ディテールへのこだわりは法医学レベル。彼女たちを商品みたいに売ったりはしない。

『ザ・ジェントルウーマン』のインタビューは、巷のファッション誌やライフスタイル誌に比べて、かなり突っ込んだ聞き方をしていますよね?

そうね、うちの雑誌は年に2回しか発行しないから、そこに尽力するだけの価値はあると思うの。何層にも重なった編集愛がそこにあるのよ。ただのインタビューや書き手の意図を入れるだけじゃなくて、「彼女にまつわるあなたが知らない5つのこと」みたいな「おもしろい事実」コーナーもあるし、「レファレンス」ではおバカな部分も出すようにしているわ。取り上げる女性たちとは真剣に向き合うようにしているけど、必ずしも生真面目な女性として描くというわけではないの。話を進めていくうちに、彼女が自分の仕事について語りたがっているとか、ユーモアのあるポートレイトを撮ってほしいと思っているということに気づくのよ。ユーモアのあるポートレイトは女性たちをとても素敵に見せるし、少なくとも冗談がわかるってことでしょう。そんなわけで、一流の女性たちをお堅く見せないようにするってことが、私たちエディトリアルチームの仕事。そして、スタイリストとエディトリアルチームは、平等な温かみをポートレイトに注ぎ込まなきゃいけないの。ビヨンセとかマーサ・スチュワート(Martha Stewart)をフィーチャーするような号で、そういうことを気づかうのよ。マーサ・スチュワートで16ページの特集を組んだとき、ありとあらゆる努力をしたわ。だって私たちは誰でも一度きりしか取材しないから。「来年また、新しい料理本ができたときにお願いします〜」って感じじゃないの。

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