彼女たち自身のためのDIY、スキニー・ガール・ダイエット

デリラとウルスラのホリデー姉妹、そして従姉妹のアメリアの3人から成るロンドンのDIYバンド、スキニー・ガール・ダイエット(SKINNY GIRL DIET)は、退屈と反抗心、さらに”自分を愛して”というバンドのメッセージに共感する仲間をつくりたいという渇望から生まれた。

ティーンの頃、姉妹や従姉妹とスリーピースバンドを組んだことはある? ガールズパンクのアイコン的ミュージシャンであり作家でもあるヴィヴ・アルバータインの前座を務めたことは? フェミニストとパンクの理想について声を上げた? 音楽業界の平等性に疑問を投げかけたことは? 「女性器切除」をテーマにしたエキシビションに参加したことはある? ビルボードの「注目のガールズバンド20」に選ばれたことは? 3分のパワフルなパンクソングを書くのに、フェミニニティ(女性らしさ)や経験、感情を題材として選ぶ? あなたがどうかは知らないけど、スキニー・ガール・ダイエットはそうだったみたい。

バンドの名前がはっきりとステートメントを出していますよね。個人的に、私は若い女の子に手術やダイエットを勧めるのは最低だと思っています。こうした傾向に異を唱えようと思ったのはなぜですか?

ウルスラ:社会にはびこる美の神話は実現不可能なレベルだけど、ごくごく小さな頃から、折に触れて私たちに押しつけられている。6歳のとき、ダリアと私でアクション・マンを買ったの。そのとき小さな男の子が「おまえたちはこれを買っちゃダメだ。バービー人形があっちにあるだろ」って言ったのよ。女性がどうあるべきか、どういう枠に収まるべきかという社会的な理想に立ち向かうことは、とても重要だと私たちは考えているの。男の子だって同じよ。男は感情を抑制した筋肉マッチョでなければいけないという押しつけが続くせいで、サイコパス的兆候みたいなものが出てくるんだわ。だから、性別に関係なく、キッズが私たちを見てそういったことを拒否するようになったり、パンク音楽を聴いてしがらみから自由になりたいと感じたら、夢みたいに嬉しいこと。自分が直接影響を受けている時事問題を取り上げたり、抑圧され沈黙させられた人々を代弁するというのは、アートを表現するベストなカタチよね。

あなたたちの誠実さはどこから来るのでしょうか? そしてどうしてそれが重要なのですか?

ダリア:汚いものを隠したり、それについて黙っているには人生は短すぎると気づいたから。真っ正直でいたいの。そうすれば汚いものをやっつけられる。

ウルスラ:身の回りで起こっていることに対して注意深くありなさい、フェアじゃないと感じたらそれを伝えなさいと育てられただけ。自分が生きている世界に蔓延る悪しき問題に対して正直でなければ、その問題をつくり出している人たちと同じくらい悪いってことだから。

アメリア:黙っているのは共謀しているのと同じこと。立ち上がって真実を語らない限り物事を変えることはできない。誠実に生きるのは辛くもあるけど、良心に恥じないように人生を送ることができるもの。

曲に書いた中で、あなたたちにとって最も重要な問題は何でしょうか? 時事的な問題を取り上げることや、それに興味を持たせることが必要だと感じる理由は何ですか?

ダリア:もともと私たちは社会派バンドってわけじゃないの。自分自身の日々の経験や、知らない人とか身の回りのあれこれとの関係を報告してるだけ。世界中に問題はあるわけだし、私たちはそうすることで折り合いをつけているの。創作活動をするのは、さもなければ発狂しちゃうから。でもほとんどのバンドはそんなふうじゃないから、プレスの人たちは私たちを社会派って書く。私たちが伝えたいのは真実。男に溺れたり、夢中になったりすることじゃなくてね。

どういう人にそんなメッセージを伝えたいですか?

ダリア:どこにも属していなくて、自分の声が誰にも届いていないと感じている自分たちみたいなボヘミアン・アウトサイダーに届いてほしいわ。奥が深くて、複雑な人たちね。

女らしさという概念にどのように対峙しますか? また、どのようにしてそれを3分の曲に仕立てるのでしょうか。

ウルスラ:女らしさは、乳房がふくらんできた直後に目の前に投げ捨てられた重い責任ね。それを拒否するも受け入れるも、自分しだい。一番いいのは、アンジェラ・デイヴィス[訳注:アメリカの女性活動家]とかポイズン・アイビー[訳注:『バットマン』の登場人物]みたいに、女らしさと知性を武器にして戦う影響力のある女性に望みをかけること。私たちが取り上げているのは、自分の経験や感情だけ。この3人はお互いの考えをよく理解しているから、なんでも自然と曲になってしまうの。

アメリア:自分の経験から離れるって、すごく難しい。それがあるから今の自分がいるわけで、だから音楽にもできちゃう。前進するのみ。まあ、いろいろ憤りもあるけどね。本当に、自分の経験を吐き出さなきゃダメ。

2016年現在、パンクとなるのは可能だと思いますか? もしそうなら、どうやって?

アメリア:パンクにはなれるけど、その意味は正しく捉えられていないと思う。パンクは進化したわ。今はただ決まったファッションをしていればいいわけじゃない。特定のサウンドを鳴らしたり、行動を起こしたりすることでもなくて、自分がすべきことをしているかどうかなの。価値観に反し、自分自身に正直であるべきよ。

越えなければならないと感じるものはありますか?

ダリア:女性ミュージシャンでいるのは大変。どんなふうに演奏するか、見た目はどうかで判断されるから。人の感じ方や意見に挑戦するのは好きだけど、ときには難しくて、自分を信じられなくなっちゃう。でも自らを鼓舞し続ければ、目の前が開けて、自分を疑うのは間違いだと気づけるようになる。

ほとんどのことを自分たちでやっていますよね、それはなぜですか? そのほうが創作活動に関わる制約を振り払いやすいからでしょうか。

ダリア:いろんな理由があるわ。自分がその日に何をするか起きてから決められるのは、解放された気分。今日は動画を撮ろうか、それともアートワークにしようか、とかね。有機的ではあるけど、難しくもあるわ。自分たちの中にあるクリエイティヴなヴィジョンを実現するにはいつもお金が足りない。問題に対処しながら、より良い結果を生み出すという点で、私たちはほかのバンドと一線を画しているんだと思う。レコード会社と契約してたり、メジャーデビューしてるバンドが私たちを真似しようとしているのを見て、いつも笑ってるの。だってそういう人たちには、いろんな道具はあるけど、根本的なアイデアがないから。

ウルスラ:うちのバンドのマネージャーは、私たちの父親なの。メールには自分たちで返信するし。他の国や街に行くときのお金は、ライブをして稼いだものを使うわ。インディペンデントでいるのは素敵なことよ。ミスがあったとしても自分のせいで、誰も責められない。アーティストとしては完全に自由。あれこれ指示を出す人はいない。それってすごく自由よね。

女性が音楽業界にいることのデメリットはよく聞きますが、メリットもありますか?

アメリア:好きなことをしているだけなのに、それが良いことなんだと知ったときは嬉しかったわ。女性だけのバンドでいること自体が、社会的なステートメントになるみたいだし。少なくとも、他の若い女の子に影響を与えられるポジションにはいるわけだしね。

今や、よくできたインスタグラムの投稿やハッシュタグだけで、簡単にムーヴメントの仲間入りができます。みんなが中途半端な気持ちで関わっているかもしれないことについて、不快に思ったりしますか?

ダリア:そういうものにうんざりしていた時期もあるけど、今はそうしてみるのもいいんじゃないかと気づいたの。流行りのものだから、本気の人もそうでない人もいるんだし。人にかっこいいからと勧められただけで手を出しちゃう人たちのことは、ちょっとかわいそうだと思うけど。早く気づいて、自分で考えられるようになればいいと思う。

ウルスラ:自分が変わらなきゃ。私からすれば現実はいつだってネット世界を凌駕してる。でも21世紀に生きているからには、できる限り多くの人に自分たちのメッセージを広めるために、その両方を使う方が便利だけどね。

アメリア:ある意味、そうやって簡単にムーヴメントに参加できるようになったのはすごいと思う。ずっと身近になったんだから。インターネットなら、同好の士を見つけることも簡単だし、自分の声を簡単に発信できる。社会活動がそこで終結してしまうのはイヤだけど、少しでも多くの人の関心を引くことができるのなら、それもアリじゃないかな。

最後に、女の子や女性があなたたちの音楽を聴いたときに感じ取ってもらいたいことは何ですか?

ダリア:自分を愛することと、自由な考えを持つこと。そして、私たちはあなたの憤りを理解しているということ。

ウルスラ:パワー。あなたには自分のしたいことができ、なりたいものになれるパワーが備わっているということ。そして、もしそれが社会の枠にはまらないと感じたら、あなたのやり方は正しいのだということ。

アメリア:その人たちが声を上げたり、音楽をはじめたりする助けになってほしい。そして、それを続ける力になればいいと思う。社会が描いたあなたの姿は無視していいと感じてほしいの。

This Week

和洋新旧の混交から生まれる、妖艶さを纏った津野青嵐のヘッドピース

アーティスト・津野青嵐のヘッドピースは、彼女が影響を受けてきた様々な要素が絡み合う、ひと言では言い表せないカオティックな複雑さを孕んでいる。何をどう解釈し作品に落とし込むのか。謎に包まれた彼女の魅力を紐解く。

Read More

小説家を構成する感覚の記憶と言葉。村田沙耶香の小説作法

2003年のデビュー作「授乳」から、2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』にいたるまで、視覚、触覚、聴覚など人間の五感を丹念に書き続けている村田沙耶香。その創作の源にある「記憶」と、作品世界を生み出す「言葉」について、小説家が語る。

Read More

ヴォーカリストPhewによる、声・電子・未来

1979年のデビュー以降、ポスト・パンクの“クイーン”として国内外のアンダーグランドな音楽界に多大な影響を与えてきたPhewのキャリアや進化し続ける音表現について迫った。

Read More

川内倫子が写す神秘に満ち溢れた日常

写真家・川内倫子の進化は止まらない。最新写真集「Halo」が発売開始されたばかりだが、すでに「新しい方向が見えてきた」と話す。そんな彼女の写真のルーツとその新境地を紐解く。

Read More

動画『Making Movement』の舞台裏にあるもの

バレリーナの飯島望未をはじめ、コレオグラファーのホリー・ブレイキー、アヤ・サトウ、プロジェクト・オーらダンス界の実力者たちがその才能を結集してつくり上げた『Five Paradoxes』。その舞台裏をとらえたのが、映画監督アゴスティーナ・ガルヴェスの『Making Movement』だ。

Read More

アーティスト・できやよい、極彩色の世界を構成する5つの要素

指先につけた絵の具で彩色するフィンガープリントという独特の手法を用いて、極彩色の感覚世界を超細密タッチで創り出すアーティスト・できやよい。彼女の作品のカラフルで狂気的な世界観を構成する5つの要素から、クリエーション誕生の起源を知る。

Read More

ハーレー・ウェアーの旅の舞台裏

写真家ハーレー・ウィアー(Harley Weir)が世界5カ国に生きる5人の女性を捉えた旅の裏側、そして、ドキュメンタリー映像作家チェルシー・マクマレン(Chelsea McMullen)が現代を象徴するクリエイターたちを捉えた『Making Images』制作の裏側を見てみよう。

Read More

『Making Codes』が描くクリエイティヴな舞台裏

ライザ・マンデラップの映像作品『Making Codes』は、デジタルアーティストでありクリエイティヴ・ディレクターでもあるルーシー・ハードキャッスルの作品『Intangible Matter』の舞台裏をひも解いたものだ。その作品には、プロデューサーとしてファティマ・アル・カディリが参加しているほか、アーティストのクリス・リーなど多くの有名デジタルアーティストが関わっている。

Read More

ローラ・マーリンが表現する、今“見る”べき音楽

イギリス人のミュージシャン、ローラ・マーリンのニューアルバムに満ちている“ロマンス”。男っぽさがほとんど感じられないその作品は、女性として現代を生きることへの喜びを表現している。

Read More
loading...