Women Under The Influenceはあまり知られていないが魅力豊かな女性監督をサポートするコミュニティだ。現在国際的に地位を確立しつつあるアナ・リリー・アミールポアー(Ana Lily Amirpour)やデジリー・アッカヴァン(Desiree Akhavan)を知っている人は多いかもしれないが、実は1960年代からイランの女性監督は映画業界に多大な貢献をもたらし、高い評価を得ている。ここではイラン出身の女性監督の中で、作品のみならずその生き方も素晴らしい6名の草分け的な存在を紹介したい。
フォルーグ・ファッロフザード (Forough Farrokhzad)
フォルーグ・ファッロフザードは19歳のとき既に結婚をして子供もいたが離婚をし、1954年に初の詩集を出版した。バツイチの彼女が書いた女性の声を大胆に主張するその詩は、1960年代のイランでは大きな非難を受けた。しかし、それでも彼女は断固として自身の作風を曲げず、独立した女性としてライフスタイルを送っていた。彼女の作品は、アメリカの詩人シルヴィア・プラス(Sylvia Plath)のように当時の多くの女性の心を掴んだ(今も掴み続けている)。彼女が監督した映像作品は1962年に公開された『The House Is Black』(1962)というハンセン病の療養所に関するドキュメンタリー映画1本のみだが、彼女はイラン・ニュー・ウェーブという映画の新しいムーブメントを起こした監督として知られている。頑なシネマ・ヴェリテの手法と叙情詩的なカメラワーク、そして彼女の詩をユニークに組み合わせることによって、彼女の作品は新しい映画制作の方法を生み出した。勇敢で素晴らしい作品を残したが、残念ながら32歳という若さで交通事故により亡くなった。
ラフシャーン・バニー・エッテマード(Rakhshan Bani-Etemad)
“イラン映画におけるファーストレディ”と称されるラフシャーン・バニー・エッテマードは、映画監督として輝かしいキャリアを持っている。彼女の作品は家族と政治が主なテーマだ。彼女は80年代に風刺に富んだドキュメンタリーで頭角を表した。その後は特定の社会のアウトサイダーや弱者をフォーカスした物語的な作品を制作し、長きにわたって存在する社会問題を題材にした。ここ数年はまたドキュメンタリー的な作品を手がけ、根深い宗教による障壁に立ち向かい自由を求める若者たち(とりわけ女性たち)を題材にした作品を制作している。
ターミネー・ミラニ(Tahmineh Milani)
ターミネー・ミラニは、女性の視点からイラン社会の現実を描くフェミニストの映画監督として名高い存在。彼女は2001年に“反革命的“な思想を広めたとして投獄されたこともある。社会の規制が厳しいイランでは、映画製作は時として非常に危険な活動でもあるのだ。世界の映画コミュニティが、イラン政府にプレッシャーをかけることで彼女は釈放された。世界トップクラスの監督であるコッポラやスコセッシも彼女の釈放に協力した。現在、自身の15作品目となる映画を制作している。
サミラ・マフマルバフ(Samira Makhmalbaf)
サミラ・マフマルバフは17歳で制作した作品『The Apple』(1998)がカンヌ国際映画祭に史上最年少でノミネートされ、世界中の注目を集めた。彼女の父はイラン・ニュー・ウェーブを代表する監督で、彼女の母マルズィエ・メシュキニも非常に評価の高い監督。マフマルバフは映画監督のサラブレッドなのだ。21歳の時に『Blackboards』(2001)でカンヌ国際映画祭の審査員賞を受賞し、その2年後タリバン政権崩壊後の社会を初めて題材にした作品『At Fine In The Afternoon』(2003)で再度カンヌの審査員賞を受賞した。彼女の監督スタイルは、地元の一般の人のありのままの姿を、詩的なストーリーに乗せて伝えるものだ。
シリン・ネシャット(Shirin Neshat)
アメリカに亡命しニューヨークで活動しているシリン・ネシャットは、20年以上現代のイランにとって、アイコニックな存在である。彼女は相反する2つのもの対比をテーマとしている。彼女の作品はイスラムと我々の慣れ親しんでいる社会とのイデオロギー的な軋轢に関して、強烈なメッセージをアート界にもたらした。イスラムのフェミニストのによる作品を、私たちに最初に見せてくれたものネシャットだ。それらにより、ヒジャブで覆われた女性たちのたくましさと意志の強さを伺い知ることができた。彼女の作品を初めて購入したのはシンディ・シャーマン(Cindy Sherman)だった。その後1999年に『Turbulent』(1999)と『Rapture』(1999)で、ベネチア・ビエンナーレの国際賞を受賞した。監督として初の作品で、権威ある賞を受賞した『Women Without Men』(2009)では、1953年にCIAが後押し、イランが民主主義を手放し王政を復活させたクーデターを経験した4人の女性の架空のストーリーだ。
マルジャン・サトラピ(Marjane Satrapi)
マルジャン・サトラピが手がけた、自伝的漫画作品『Persepolis』(2007)が映画化されたことは、予測不能な現代のイランの政治と改革の情勢の中でも最も興味深いことだ。この作品は一人の女の子が、政治的対立の厳しい中で成長していく物語。彼女が育った中流階級の家庭は、マルクス主義革命が現実のものとなる状況に期待を抱くが、イスラム原理主義者が次第に勢力を強めるにつれ、抱いていた期待はなくなり恐怖を感じるようになる。当時のティーンが皆そうであったように、彼女の友達も何か動きを起こしたいと思っていたが、リスクが高すぎてできなかった。作品の最後で彼女の両親は、彼女が投獄されることがないように国外に送ってしまう。この映画は少女が大人になっていくプロセスと当時の政治の流れをとても印象的に描いている。この作品はカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、オスカーのアニメ部門にもノミネートされた。サトラミは現在、5作目となる作品を手がけている。