真舘晴子(Gt.Vo)、和久利泉 (Ba.Cho)、渡辺朱音(Dr.Cho)からなる3ピースバンドThe Wisely Brothersの第一印象は、可愛らしく元気な、いたって普通の女の子たち。しかし、彼女たちのライブパフォーマンスは、汗の音が聞こえるほどに熱く、その笑顔は清々しくて、普段の穏やかな表情とのギャップに虜になる。波打つように揺れる真舘晴子の独特な歌声、曲調は不規則に変化し、歌詞は詩的なニュアンスを帯びながらも、どこかおどけたような一面を見せる。その愛らしいビジュアルとも相まって、いまインディーシーンを中心にじわじわと知名度を上げている彼女たちに、バンドへの思い、そして曲づくりへの思いを聞いた。
The Wisely Brothersという名前の由来を教えてください。
真舘:父がたまたま聴いていたアメリカのソウルコーラスグループ「The Isley Brothers」を文字ってつくってくれたんです。意味を考えるというよりも、字面のバランスの良さや音の響きで「“wisely”っていいね」、と言って名付けてくれました。
渡辺:バンド活動を始めた頃、ライブでは「ブラザーズ」のバンド名だけを見て、男性がいるバンドと思われていることも結構ありました。周りにバンド名の由来を聞かれて初めて違和感に気づきましたが、私たちは“ブラザーズ”の方がしっくりきています。一人一人女の子らしさももちろんありますが、私たちの関係性を見てみると、さっぱりしていて、いつも音楽や食べ物の話ばかりしていたりと、女子特有の関係があんまり見えないなと思っていて、だから“兄弟”という感覚が強いんですよね。
音楽を始めたきっかけは習い事や部活などそれぞれ。3人は高校で出会い、バンドを組む事となる。結成直後は、たまたま楽譜を持っていたという理由もありチャットモンチーのコピーをしていたという3人。バンド編成も同じだということもあって練習にはもってこいだったよう。学祭で披露していたほか、高校2年生の時に、初めて学校外でライブを披露し、それから着々と経験を重ねていったという。
本格的な活動はいつから始めたのですか。
和久利:高校を卒業して、それぞれが進学した後もバンドは当たり前のように続けていました。私が通っていた専門学校は国家試験を受ける必要がある学校でしたが、バンドを続けていきたいと思い、結局試験は受けませんでした。
真舘:私は大学に進学し、勉強とライブと練習に追われ、余裕がありませんでした。もっと練習したいのに練習する時間がどうしても作れないというもどかしい気持ちを抱えていた時期がありましたね。でもバンド活動をしていない自分を想像することはできませんでした。バンドは私の1部であり、手や足と一緒。私にとってバンドをすることが自然と生活の一部になっていました。
和久利:辞めないほうがいいよとアドバイスをくれたり、チケット代を払って私たちを見に来てくれたりする人も現れ、多くの人に支えられてここまできました。周りの人の助けがあり、バンドでやっていけるかもなって思えたんですよね。私たち3人では、成し遂げることができず、絶対に見えなかっただろう景色をたくさんの人の言葉が、見せてくれました。
本格的に活動を始めてからも、理想のバンド像に近づけるのではなく、バンドに身を任せるというか、バンドとともに歩んでいる感覚でしょうか。
真舘:そうですね。私はバンドに引っ張られて、成長している気がします。バンドを始めるまでは、あまり社交的ではなく、自分の考えや気持ちを外に出すことが苦手だったんです。2人はとてもおしゃべりなので、私も話さないとやっていけない。そのうちに性格が変わり、バンドを始めたことによって、音や歌で表現することもできるようになって。心の在り方が近い人と一緒に何かを作り上げることができることは、本当にラッキーなことだなと痛感しています。バンドを始めてから新しい自分が生まれて、今まだ育っている途中という感覚です。
セッションのように曲作りをすることもあるとか。
真舘: 3人の誰かが音を出し、そこから曲を広げ、発展させていくんです。歌詞はその時に生まれた面白い言葉がテーマになったり、勝手に出た言葉を重ね、思いのまま作っています。出来上がってみると最終的にストーリーが完成しています。
渡辺:普段は私がリズムを打ち始め、そこに晴子が入ってきたら晴子を基準に演奏を進めていきます。始めはいい感じに進んでいても、突然はまったようにうまくいかなくなり、この後どこにいけばわからなくなる。しばらく続けてみますが、結局どこにも辿り着かないで終わることもありますね(笑)。
真舘:試行錯誤しながら、本当の意味で3人で1つの音楽を作り上げていますね。頭で考えるのではなく、とても感覚的だと思います。1人で作るなら、自分の好きなように音を上げたり下げたりできるけど、誰かがあるタイミングで入ってきて、意表をつくような音の上がりをつけたりして。そんな中で演奏していると、自分が次どうするのか、どんな音を出すのかを予想できないんです。そこが楽しいですね。
和久利:スタジオでセッションの様に作る時は、曲調とは反対の歌詞がのることが多いです。特に、明るい曲に暗い歌詞がのることが多いのですが、晴子の声は、暗いストーリーも明るく伝えることができる力を持っていると思うので、暗い話を聞いていても、なぜか明るい気分になれるんです。
渡辺:前作のレコーディングの時に、晴子が「暗いことは悪いことじゃなくて、その状況も自分らしく楽しめばいいんだ」と話していて、それがこれまでとは大きな変化だと思いました。
自らの感性の赴くままに自由に曲作りをしているようですが、曲作りの間、またレコーディング中など、創作環境を整える上で大切にされていることはありますか。
真舘:私は香りにとても影響されるので、そこは大切にしています。特に木の香りが好きです。雨に濡れた土の匂いとかも好きですね。ライブなどで自然と触れ合えるような場所でパフォーマンスしている時も、気持ちが高ぶりスタジオで演奏している時とは違う音が表現できたりもします。香りや風景などを含め1つの雰囲気として捉えるので、普段生活している中でふと私の感覚が反応し、曲にしたいと思ったりしますね。
和久利:『鉄道』という曲があるのですが、そのMVは晴子が脚本やストーリーを制作チームと手がけています。進み続ける鉄道を自分の前向きな想いと重ねた曲なのですが、コーヒーやタバコなど、香りもキーワードになっています。晴子の歌詞には抽象的な言葉が多く使われますね。
渡辺:私たちの曲はイメージが固まっているものが多いんです。過去の経験やよく行く喫茶店など、その状況を曲にするので、自ずと香りも要素の1つになっていますね。
真舘:例えば、喫茶店のタバコの香りや渋谷の独特な香りなど、その場所が持つ空気を大切にしています。濁った空気や暗い空気など、いい香りでなく、美しくない空気を持つ場所にもちゃんとストーリーはある。香りには意味やストーリーがあるので私たちには大事なもの。それに香りってみんなで共有できるものなので、捉え方はそれぞれだけど、みんなが感じることのできる魅力的なものだと思います。
女性のみで活動するからこそ生まれる意味や、それらが創作に与える影響などは感じますか。
真舘:普段から女性の魅力を伝える曲や「女性だからこそ」といった目線を強調した歌を意識的に作っているわけではありませんが、たまたまセッションの時に思い浮かんだ言葉は、女性である私から生まれる言葉なので自然と女性らしさは出てくるとは思います。1枚目のアルバムに妊婦という曲を書きました。セッションで偶然「お腹の中にいる」って歌ったことがきっかけでそこから妊婦の曲が完成したんです。すごく気に入っています。
渡辺:3人で刺激し合ってバンドを成長させているのと同時に私たち自身も成長していると思います。それはやっぱり、女の子だけのバンドだからだと思います。男性がメンバーにいたら、やはり私とは感覚も持っているパワーも違うので、もっとこうなりたいとか、参考にしないとなど、思えないような気がします。
理想の女性像を教えてください。
真舘:私は、内面から魅力が溢れ出る女性に憧れます。目を見るだけで魅力的だなと思える女性になりたい。あと、自然と愛情を人に捧げることができる人。気を使ってというのではなく、素直に愛情を持って人と接することができる人になりたいですね。
渡辺:最近多くの人と出会えるようになりました。学生の時よりも幅広い年齢層の女性やプロフェッショナルに働いている女性に知り合うようになり、その世界で戦っているかっこいい女性に魅力を感じています。ヘアメイクの方だったり、スタイリストの方だったり、仕事を一生懸命やっている人たちを見てかっこいいなと思います。
和久利:やりたいことを貫いている人は楽しいと言葉にしていなくても、楽しそうに仕事をしているのがわかるし、とても輝いて見えます。やりたいことをやることは、そんなに簡単なことではないと思います。迷いが生じて一度やめてみたり、周りの人に迷惑もかけることもある。貫いている人たちを間近で見ていて、やっぱりやりたいことはやったほうがいいんだなって思いました。
今後、どんな曲を作りたいですか。
真舘:今の気持ちをもっともっと表現したいです。新しいCDを出したことによって、新しい人とも会うことができ、今まで感じたとのない新鮮な感覚を得ました。この気持ちをどう言葉に言い表せばいいかわからない。とにかく今、これまでとは違う気持ちなんです。時間をかけて、この気持ちを言葉や音で表現していきたいですね。
和久利:私は、もっと私たちの曲をみんなに聞いてほしいと思えるようになりました。もっといろいろな曲を作りたいですね。始めはどんなバンドになりたいかっていうのが本当にわからなくて、色もありませんでした。でも少しずつ、私たちらしさが見えてきた気がするんです。もっともっと自信のある曲を作っていきたいですね。
真舘:今新しい曲を作ろうと、好きなパーツを集めています。これから曲になっていく素材を作っている感じですね。最近は、レコーディング中に歌詞がしっくりこなくて変えたりもします。聞いてほしいと思えるのは、自信がついた証だと思います。綺麗な音楽で聴きやすい音じゃない音選びをできるようになった。私たちが好きな音を、いいと思ってくれる人が実際にいるということがわかったので、今はバンドの色をもっと表現していきたいです。
The Wisely Brothers(ワイズリー・ブラザーズ)/都内高校の軽音楽部にて結成。真舘晴子:(Gt.Vo)、和久利泉 (Ba.Cho)、渡辺朱音(Dr.Cho)からなるオルタナティブかつナチュラルなサウンドを基調としたスリーピースガールズバンド。2014年下北沢を中心に活動開始。2017年1月7inchアナログ「メイプルカナダ」リリース。2017年3月「HEMMING EP」リリース。2017年4月「HEMMING UP! TOUR」開催。