ペニー・ゴーリングの詩「tower block 55」

ペニー・ゴーリングはロンドンを拠点とするアーティストであり、詩人でもある。カジュアルでありながら緻密という非凡な手法で「非常に注意深く間違えた」作品をつくりあげてきた。今回はそんなペニーについてもっとよく知ることのできるインタビューに加え、彼女が〈The Fifth Sense〉のために書き下ろした詩「tower block 55」を紹介する。

ニュー・クロスで生まれた。何年もの月日をかけてさまざまな学校で学んだのち、1994年に首席でファインアートの学位を取得し、卒業。ルイーズ・ブルジョワに関する論文が高い評価を受けた。内なる不安を表現するために生涯を通じて多彩な手法を用いたルイーズ・ブルジョワ(Louise Bourgeois)と同じく、ペニーもまた、言葉やチープな家庭用品など、身近にあるものはなんであれ使いながら作品をつくりあげてきた。粘土代わりのパン生地、インク代わりの食紅、鉛筆や絵の具代わりのボールペンとサインペン、Word代わりのOpen Office、Photoshop代わりのペイントソフト。過去50年間、その型にはまらぬ形状、色、生地の使い方は進化し続け、比類なきペニーの世界観をビジュアルからかたちづくってきたのだった。

自身の感情を詩によって表現しなければという思いに最初にかられたのはいつのことか、覚えていますか?

ええ! しなければという思いにかられたわ。戦った。禁酒を始めたころで、毎日絵に取り組んでいたわ。でも1年かそこらで、文字の大群が私の頭の中を侵略し始めたの。鬱陶しかったから、無視しようとしたのよ。そのころは絵画こそ自分が本当にやるべきことだって思っていたから。でも、悲しい夢に泣きながら起きることが続いて。そしてあるひどい夜、午前3時とかそのくらいの時間に、ついに涙でぐっしょり濡れた枕から飛び起きたの。その夢のもととなった思い出せる限りの記憶を、スケッチブックに殴り書きしたわ。そのあと1週間かけて、それを500文字に削ったら、みんながそれは詩だねって言ったのよ。で、奇跡が起こった。夢を見なくなったのよ。こんなふうに何かを書くと、そのプロセスが夢を追いやってくれるのだということを発見したというわけ。私の中の記憶や感情が形を変え、異なるものにしまわれて、高い棚の上に片づけられてしまうのね。そしてそれが再び私を苦しめることはない。私の外に存在するものになるの。もし、長い年月ののちにそれが戻ってきたとしたら、私はもっと書くわ。そうやれば、トラウマを追いやり、それが私を傷つけるのではなく守ってくれるようにすることができるのだとわかったから。

私はトラウマと共に生き、夢を見、汗を流す。私の一部なの。私自身が自分のためにそれをつくり出し、それが私を生かしている。それ以外の方法で生きられないの。ロマンティックな恋なんて、フワッとして不安定な心の揺らぎよ。私の作品は私の心のままにある。牙をむくことなどない。私のために存在し、気分の移ろいにも従い、細切れにされても優しくなでられても文句は言わないわ。私はそれを歌うことも、デジタル化することも、書くことも、描くことも、縫うことも、愛すことも嫌うこともできる。どこでも、誰にも、何にでも、こんなふうな関係を得ることは不可能よ。簡単にはいかないけど、私のものなの。 

詩は、ときに辛辣です。ユニヴァーサルな、もしくは思わず顔を赤らめてしまうような感情を美しく明瞭に言葉につむぐから。詩があなたにとってそれほど大切なものであるのは、どんか理由からでしょうか。

言葉が通常持つ厳格なルールを、詩は無視してしまう。代わりに、自由な場所をつくるために言葉を使うのよ。そこでは、必要なことを望む通り言うことができる。詩は、言葉からではなく、言葉の意に反してつむがれるものなの。それが好き。ほかの人が積み上げた言葉の壁を壊すような誰かの作品を読むと、すっごくワクワクする。そう、だって、私たちに与えられるのは、そういう古い言葉だけなんだもの。でも、そうすべきと思われているやり方で言葉を使う必要はないわ。言葉っていうのは、政府がその残虐性を隠して嘘をつくためだけにあるものじゃない。生きるか死ぬかを決める、うんざりするほど丁寧な合法化の手続きや、生真面目な書類を埋めるためでもないわ。ニュースがカネ目当てのプロパガンダを世に広めるためのものでもない。今、レナード・コーエンの『The Favourite Game』を読んでいるんだけど、彼は言葉のルールを美しく乱してる。彼はもうこの世にはいないけれど、現在もなお美しく何かを壊しているの。彼は今も彼自身でいるということよ。私の頭の中でね。そういうのに、すごく憧れるわ。彼にもう会えなくてうれしい。自分を感動させた人には絶対に会いたくないの。必要ないから。すべてが台無しになってしまうわ。

私はそれを歌うことも、デジタル化することも、書くことも、描くことも、縫うことも、愛すことも嫌うこともできる。

自然に、もしくは意識的に、自分がほかの誰よりも深く掘り下げていると感じるテーマはありますか?

私が掘り下げるテーマは、自分の近くにあるもの。すごくたくさんのジャンルにまたがっているわ。いいときもあったけど、すっごく深い部分でトラウマになっちゃう、危険で、死をもたらすような、精神的な虐待や肉体的な暴力をともなう落ち込みは、あり過ぎるくらいあったわ。11年前に禁酒する以前は、無鉄砲な生活を送っていたから。多くの友人を、そしてほとんどの恋人をなくしてしまって、死や悲しみにまつわる作品をよくつくっていたの。その人たちとは今でも奇妙な関係でつながっているのよ。彼らを尊敬しているし、利用することもあれば、一緒に仕事するようにしむけることもあるわ。当時、私は自分が前ほど幸運でなくなったことを嘆いていたの。男性とカネに支配されて生きてきたんだけど、今、その生活が自分の人生や肉体にひどい仕打ちをしたことに怒りを感じてる。そんな未来は身の毛もよだつほどおそろしいものだってことに気づいたの。そして、おかしなことに、残忍なピエロみたいだって。それが高速で迫りくる強大な権力みたいに不可避的で無慈悲だと感じさせることにも、嫌気がさすわ。

ときどき、自分がつくる立体作品が“不安な物体”であるかのように感じるの。今日私が吸っているみたいな、大量の恐怖をはらむ空気がそこにあるから。そして私は更年期の終わりにいる。2007年から悩まされてきたのよ。大量の出血がその年から1年以上も止まらなかったわ。最終ステージは、もうちょっとマシになったみたい。今じゃ性的欲求がまったくなくなって、すっごくうれしいの。“本当の人間”になるチャンスを得たのよ。この小っちゃな自由が手に入るなら、見た目が衰えるのも許せる。私たちの誰もがそうであるように、子どものときから大人になるまで色目を使われたり恋されたりしてきたあと、私はついに口を動かすこともせず、ただ恥じることなく年をとるだけで、クソったれって言えるようになったの。つまりテーマっていうのは、死/悲しみ、復活、依存、怒り、恐怖、無力感、そして加齢ね。これはお気に入りのテーマのほんの一部。愛や気遣いも忘れずに。私がつくるものはすべて、脆く、傷つきやすいんだから。そのほかのテーマは、私がバイセクシャルであり、“精神的に病んでいて”、障碍があり、DVやちょっとした暴力、いじめを乗り越えた人物であること。生きるお決まり人間みたいな気がするわ。

ロールモデルとして、あなたの現在の作風に影響を与えた女性は誰ですか? 

ルイーズ・ブルジョワ、エヴァ・ヘス、フリーダ・カーロ。彼女たちの作品は、素晴らしくて、喜びに満ちた穴になるまで深く深く細部を掘り下げた、悲しみをともなう実験だと私は思うの。この人たちは試金石よ。彼女たちは死んで、私は生きている。

詩の未来はどうなっていくと思いますか? 

その足かせを断ち切ることができれば、私たちを救ってくれると思う。解き放つの。のどを引き裂かせるのよ。だってそののどは引き裂かれる必要があるから。そして、救われるべき者たちに救いの手を差し伸べさせるの。

「Tower Block 55」(高層ビル55)

体を支えることもできない汚れたバルコニーの上

丹精している花が置かれ

テラコッタ鉢にはコンドルが巣をつくる

(私は私、年を取る)細くてちいちゃな私の腕いっぱいの女の人

人形を呪え

この高層ビルは空を血に染める

私の香りはあなたと一緒:(玉ねぎ、ヒヤシンス、ソーセージ、クリーム)

スペースを埋めるには十分なほどかたちを持たず

高まる下品さに耐えうるほど堅実

(私、こんな高いところにいるの)玉ねぎが目に染みて涙を流してる

私たちのあいだにある痛みによって出る涙のように本物ではないけど

私はゆっくりと血を流し

素早く願う

私の口は大きくて湿った膿盆みたい

私は

クレイトン・ロードを下ったところにあるペッカムを眠ったまま裸で歩き回ってる

ごめんなさい、私、下宿人をこき使ってるわ

私、救世主の女の子をこき使ってる

私、あっという間に過ぎ去った日々の残骸の香りがする

私、すごく注意深く間違った香りがする

私、乞食、ブリーダー、嘘つき、恋人、障碍を持ったセックスゴッド、盗人の香りがする

私はバルコニーから飛び降りるひと

私、モーズレイでカットされた手首の香りがする

私は赤ん坊のかたちをしたグミしか食べないの

ラヴェンダー・ヒルにあるバス停

バルコニーからあなたの本を投げ捨てる

私たちは、干上がって釘づけになった川

私の道具は、銃の先につけた黄金のクリトリス13個だけ

私、やり過ぎな香りがする

私、最盛期を過ぎた香りがする

ドカーン!(私は私たち&私たちだった)

私は

醜悪なケーキを焼いて、あなたはそれを食べるの

私は醜悪なセーターを編むわ、あなたに似合うはず

腕の長さに拍子をとって、感傷的なその息をかわすのよ

それとも私の重要な、もしくは取るに足りない死の香りを嗅いで、どっちでも構わないわ

どんナことがあっても据えナガク、私の手

もう出られない

私はそのかたちを取り&あなたのゴミの香りがする

もしあなたが幸運だったらどうなるの

やつらはまだ待ったをかけてはいないわ

肩に乗ったコンドルがクークー鳴いている

冷蔵庫を開けて、何かが腐ってる:

ディープなディッシュのデリート

ビーッ

汚いバルコニーの上で手すり越しに見えるもの:ランドマーク、どん底、ジャンクション

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