私が10代の頃はネットがなかったので、少ない情報をかき集め、有名な映画を少し観ていた程度でした。20代になり、ファッションの仕事をするようになって、自分が知っている映画の世界の狭さにショックを覚えたこと今でもとても覚えています。それからはアートやファッションに関する映画、日本映画やそれらの映画の起源となるサイレント映画など、時間が許す限りいろんなジャンルの映画を観ました。今の人生があるのは、すべて映画のおかげ。ヌーヴェルヴァーグ映画に再度注目が集まって以降、60~70年代映画を観る機会が増えていますが、それ以前にも、女性監督は活躍していました。アナログな手法を使ったり、当時の日常を丁寧に描いたりする作風は、今みるととても新鮮。そんな昨今の映画の出発点となる過去の映画はもちろん、今まさに活躍する女性監督の映画も興味深いものなので、積極的に観て欲しいです。
マヤ・デレン監督「午後の網目」(1943)
1943年に撮影されたマヤ・デレン監督(Maya Deren)「午後の網目」はビジュアル・アートとして名高い作品。マヤ・デレン自身も出演しており、謎めいて神秘的な彼女自身がこの作品で大きな存在感となっている。59年に追加された、彼女の3番目の夫で音楽家のテイジ・イトー(Teiji Ito)による日本の古楽器を使ったサウンドも欠かせない要素の一つ。あえて日本的な要素を入れていて、今見ても非常に素晴らしい。
リリアーナ・カヴァーニ監督「愛の嵐」 (1975)
リリアーナ・カヴァーニ監督(Liliana Cavani)「愛の嵐」を鑑賞したときの衝撃は忘れられない。私にとって、初めてのシャーロット・ランプリングの映画だったから。裸にサスペンダー、軍帽を被って踊るシーンは、美しさと歪んだ愛の形が描かれている。ランプリングは今も変わらず、力強く魅力的な女性。
田中絹代監督「月は上りぬ」(1955)
田中絹代監督は、昭和の大女優の一人としてよく知られていました。「月は上りぬ」の脚本は小津安二郎。映画監督の成瀬巳喜男などの協力もあって、彼女は日本で2人目の女性映画監督としてデビューし、本作はその2作品目。キャストや映画の撮り方など小津の影響を大いに受けていると感じます。女優でありながら、映画監督も自身で務めた情熱的な彼女が作り出す映画を、ぜひ一度は観て欲しい。
ルシール・アザリロヴィック監督「エヴォリューション」(2015)
ルシール・アザリロヴィック監督(Lucile Hadžihalilović)『エヴォリューション』は、昨年監督が来日した際に実際にインタビューする機会をいただけました。それもあって、自分の中で、印象深い作品のひとつ。映画全体のトーンや質感など、ストーリー以外に観客に伝える映画の集積についても監督自らの努力が伺える美しい作品。特に衣装が、映像を紡いでいく上で重要な要素の一つとなり、効果的な印象だと感じました。
ジェルメーヌ・デュラック監督「貝殻と僧侶」(1928)
ジェルメーヌ・デュラック監督「貝殻と僧侶」は“最初のシュルレアリスム映画”として有名な作品。実は、ルイス・ブニュエル(Luis Buñuel)とサルバドール・ダリ(Salvador Dalí)によるシュルレアリスム映画の金字塔『アンダルシアの犬』よりも 1 年早く公開されました。女性監督が一歩先に、実験的な表現を世に送っていた、一見の価値がある作品のひとつです。
長尾悠美/Sisterディレクター・バイヤー。2017 Amazon Fashion Week Tokyo AWのキービジュアルのスタイリングも手がける。20代の頃は映画を1日3本は観ていたという映画通。一児の母となってからは、「仕事が早く終わった日に、夜劇場に足を運ぶ時間が至福の時」なのだとか。
長尾悠美