lucy hardcastle's

intangible matter

AN INTERACTIVE EXPERIENCE
MUSIC BY FATIMA AL QADIRI AND LI YUCHUN 

インタラクティブな世界へ

見えないものを見るためのデジタルの旅へ — Inspired by CHANEL Nº5 L’Eau. 
これまで視覚化されてこなかった新たなエレメントにより、香りの物理的要素とバーチャルな要素が表現される。科学的な根拠に基づいた香りの構造と感情的表現の融合がデジタル空間に — それぞれのスペースではユーザーはインタラクションやタスクを通し、イメージの想像と音の世界をそれぞれの見えない旅の中で発見していく。光の点滅にご注意ください。

彼女の経歴からもわかるように、テキスタイルを専攻したルーシー・ハードキャッスル(Lucy Hardcastle)の作品は、視覚を楽しませてくれるもの。光沢あるスライムのような液体の玉が、揺れながらスクリーンを行ったり来たり、真っ白な空間に注ぎ込まれる色彩の流れと光沢のある色とりどりのかたまり- ゼリーにもガラスにも見える美味しそうな塊が、柔らかな風合いの完全な球体と並ぶさま—コンピュータ・グラフィックやプリントテキスタイルと写実主義の境界線の限界まで推し進めようとする彼女の作品は、人間の手による手工技術と人工的な完璧さとのバランスの反復の上に成り立っている。「とにかく、すべての触れる感覚に精神を研ぎ澄ませることに集中しているの。盲目の人がどのようにテクスチャーという感覚を”体”という宇宙の中で消化するのか — ベルベットやサテン、フロック加工の素材感に惹かれます—見た印象と触って感じる印象の繋がる感じ— 生地の手話とでもいうべき、そう、あのコネクション」とハードキャッスルは語る。

「ウェブサイトという形式上、これまでに実現したことがない類いのもの」

The Fifth Senseについて。彼女は、すでに作品の中で確立している香りという概念と、感覚的なアングルを融合することで、なにか独創的なものを作りたいと考えた。出来上がったものは、見るものを刺激する素晴らしい作品となったのだ。— ウェブ上にある宝石箱のような小さな空間 —そこには、デジタルな反応でありながらも、現実を超えるようなリアルな物体が並び、見るものに、それに触れ、舐めてみたいとさえも思わせてしまう。「ウェブサイトという形式上、これまでに実現したことがない類いのもの。ここまで視覚的なウェブサイトを作る理由が、これまで誰にもなかったからでしょう。どうやって作ったのだろう?と、人々に思ってもらえるようなものにしたかったの」

香りによる発想 –– Chanel Nº5 L’eau –– そして、香りを纏うものに与える力とは。彼女が辿り着いたのは「コードとしての香り」だった。このインタラクティブな視聴空間は、香りの持つ様々なエレメントを分析し、見る者の感覚を香りのフィジカルでヴァーチャルな世界と繋ぎ、体感させる。「まずは、たくさんのウェブサイトを見て、香りのあるべき姿についてさまざまな意見を探ったりした。もちろん、それは香水師だけが知り得る秘密だけど。実際にたくさんの香りを試した –– フランスのグラースにも行き、そこには、いままで見たことのなかったような植物がたくさんあった。そのうちのひとつ、チューベローズ(Tuberose:月下香)は、とても高価なバラで、生産のほぼすべてが、香水のためだけにしか作られていないそうです。かなり、デフォルメしましたが、「Molton」の部屋にある物体は、チューベローズを模ったもの。そうやって、人がそれを見たときに、見たこともないけれど、なぜか親しみが湧くもの。と感じるようなものが好きなのです。それぞれの部屋すべてには、異なる感情を吹き込み、異なるムードを作り上げたかった — 例えば「Soft」は、“心地よさ”と、“軽さ”。私にとって「Soft」は、香りとのパーソナルな関係を探求する部屋。きっと、頭の中でこのようにふたつの要素が一緒だったのでしょう」

それぞれの部屋すべて、異なる感情を吹き込み、異なるムードを作り上げたかったのです

香りとの体験によって、さまざまなムードを見出す –– 化学反応、パーソナルなもので物理的な意味、ボトルが持つ偶像性、ハードキャッスルの新たな解釈は、女性アーティストたちの視点によってモチーフ化された。5つの部屋には「Mist」「Beam」「Molten」「Soft」とテーマ付けされ、閲覧者はそれぞれの部屋でタスクを実行し終了してから次へと進む。「Mist」では、触れることで香りの分子を破裂させたり、リングを壊してバーチャルな溶岩を流出させるという、実際の香りの抽出プロセスを模したタスク。「Soft」では、すべてのステップ、すべてのクリックに、透き通るような宗教的な響きのコーラスや、枕を投げる「ズドン」という衝撃音など、オリジナルサウンドが配されている。これらのサウンドはクウェート出身でニューヨークを拠点に活動する作曲家 ファティマ・アル・カディリ(Fatima Al Qadiri)と、クリス・リー(Chris Lee)の名で知られる中国のポップスター、リー・ユーチュン(Li Yuchun)による、曲を分解した「音の欠片」。部屋に散りばめられた物体のひとつひとつに使用されている。ハードキャッスルは説明する「現実世界に、完全な無音など存在しない。だから、あなた自身があたかもこのバーチャル・リアリティの空間に存在しているかのように感じてもらうために、音楽の要素はとても重要だった」

Behind The Scenes

Episode 3

25歳の若きハードキャッスルは、今回のプロジェクトと並行して、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの情報体験デザイン科で修士号を取得すべく勉強をする大学生。「インタラクティブ・デザインではあるけれど、従来のものとは違って、データを基に製作したもの。周りには助けてくれるクリエイティブな仲間がいるの」彼女は続ける、「若者としての意見ではあるけれど、自分自身でどうにかスペースを作り出し、クールだと感じることができるコミュニティを持っていれば大丈夫なの」