ミュージシャン、ソフィア・ソマヨが明かすDIYの極意

スウェーデンポップ界の実験主義者、ソフィア・ソマヨ(Sophia Somajo)。大物ポップミュージシャンに曲を提供しながら、自身の曲を書き、録音し、プロデュースし、アートディレクションまで手がけている。そんな彼女が今回「The Fifth Sense」に、持てる力を最大限に発揮する方法を伝授してくれた。

ストックホルムで活躍するソフィア・ソマヨは、いつだって自分のやり方で物事を進める、ワガママで完全なるDIYポップ実験主義者だ。2008年にリリースされたメジャーデビューアルバム『The Laptop Diaries』に収録された曲も、そのタイトルが明示する通り、すべて彼女自身が自宅のベッドルームに置いたノートパソコン上でつくり、収録し、プロデュースしたのだという。その3年後、社会不安障害となった彼女はメジャーレーベルを去るが、ポップ界の大物アーティスト(ここは秘密厳守で)に曲を提供することで資金を集め、素晴らしくも奇妙なアルバム『TTIDSDIEUIC(そのとき深く掘りすぎて中国まで行っちゃった)』をドロップ。しかも、物議を醸していたファイルシェアリングサイト「Pirate Bay」での無料配布だった。音楽だけでなく、彼女は自分がクリエイトするものすべてに介入する。写真撮影のディレクションもするし(この記事のポートレイトも彼女が撮影)、PVに至ってはディレクション、編集、品質管理まで自身で手がけ、その上、SNSの管理もすべて自分で行っている。メジャーレーベルのアーティストなら、まったく手をつけない部分だ。エレクトロポップが沁みわたる最新EP『Freudian Slip Vol 1』に続き、最新シングル「Mouth To Mouth」がもうすぐリリースとなるソマヨに、2016年を我がものにするための7つの秘訣を聞いた。

自分のセンスを信じること

私にとって、直感はすごく大事なもの。自分の曲を書いたりつくったりしているときは、特にね。いきなり即興で歌うことから始めて、それをブラッシュアップしていくっていうのが私のやり方だから。ぜんぶが直感的。でもおもしろいのよ、だってほら、それがいいか悪いかはともかく、私ってすごく感度が高いから。光とか匂い、それに音にも超敏感なの。音に敏感っていうのは音楽をするときには強みだし、色彩に敏感だと視覚的な部分で有利よね。仕事をするときはそういう敏感さをフル活用するけど、実生活では困ることも多くて……。それから、匂いはすべてよ。私、人の匂いについての曲をいっぱい書いているんだから。ある曲では、知らない人に会って、その人たちが「ふるさとの匂いがする」ことについて書いたの。親密性に強い影響をおよぼす感覚よね。それまで見たこともない人なのに、実際の思い出のように感じられるの。未来の記憶よ。

限られた予算は可能性につながる

私はいつも弱者の立場で仕事をするの。映像に関しては絶対に自分でやりたいっていうこだわりがあるから、何かしら制限がついて回るわ。でも、自分が美しいと感じたものを集めて撮るという行為の方が大切でしょ。制限があることでクリエイティヴになるって気づいたのよ。偉大なアーティストやシンガーや詩人や画家も、道具がなかったら、自分が持っているものや目の前にあるものだけを使って、自分自身を表現してきた。大金をつぎ込んでつくったくせにひどい出来のPVなんて、腐るほどあるわ。私が好きなのは、シンプルで、予算がいらないように賢く考えてつくったものよ。照明機材を買うお金はないから、日の出を待って、そこから30秒で撮り切るの。ちょっと作り込み過ぎなシーンがあれば、編集でカットしちゃうくらい。

時にはリスクを選ぶ

人生で一番人嫌いだった時期にベッドルームでつくったのが『TTIDSDIEUIC』よ。デビューアルバムで稼いだお金でマイクを買ったの。でもそのくらいしか手に入らなかったから、持てる手段を活用するしかなかった。レーベルから出すこともできたけど、自分のやり方でリリースする方がいいと思ったの。「Pirate Bay」が「The Promo Bay」っていうサービスをローンチしたところで、そこのアーティストたちは露出もたくさんしているみたいだった。だから、誘われてそこを使うことにしたのよ。人嫌いのキッズたちがたくさんそこに集まっていたから、彼らにこのアルバムを届けたかった。お金儲けをしたかったんじゃなくて、彼らにそれを聴いてもらって、感想を教えてほしかったの。一緒に仕事をしてるチームの中には、私が何をやろうとしているか知らない人もいたから、リスクもあったわ。でもあのアルバムに関しては、100%セルフプロデュースだった。書くのも収録も、自分の部屋でやったんだもの。誰の力も借りなかったから、私のやりたいようにやれた。他のポップアーティストに曲を提供していたから、そのおかげで、利益の心配をせずにこのアルバムをつくることができたのよ。だから無料にしたの。

保険をかけない

物事は生きるか死ぬかであるべきだから、最初から代案を用意しておくのは危険だと思う。10年間、私には音楽以外の収入がなかった。死ぬほど貧乏だったわ。業界をよく知るようになって、人脈も増えてきたら、自分向きじゃない曲は他の誰かに提供すればいいんだって気づいたの。実際にそういう仕事があるんだってことにね。最初のころは、友だちとしか仕事をしなかったの。ちょっと自分を大切にしすぎてた。満足できるほどクールなものはなかったし、自分自身をポップアーティストって呼ぶつもりもなかったわ。相手を信用していなかったから、プロジェクトにがっつり参加することもなかったし。でも、私自身も、業界も変わった。成長した私は、自分自身のことをもう少し気楽に考えるようにしたの。

リスナーを信じること

デビューアルバムの制作中は、どことも契約していなかったの。アルバムはできていたんだけどね。進行中のセカンドアルバムは、メジャーレーベルからリリースされることになってた。でもコンセプトをシンプルにしろって言われ続けて、ついダメにしちゃった。100%手づくりなのは変わらないけど、ラジオで使いやすいようなフォーマットを意識しすぎてる気がしたし、当初のコンセプトが奇抜に感じられるようになっちゃって。メジャーレーベルって、所属アーティストやリスナーのことを過小評価してると思う。でも時代は変わったわ。もう音楽が雲の上の存在だった90年代は去って、リスナー自身がポップミュージックとは何かを決める時代になった。ポップミュージック自体も日々変化しているしね。今、私はリスナーと直につながる機会を得られたし、リスナーをリスペクトしてる。彼らならできるってわかってるから。

全力で立ち向かえ、だが自分を見失うな

私は精力的な人間だけど、同時にプライドといつも戦ってる。最高の自分でいること、そして多くのものを生み出すこと。これは私自身が一生懸命やるときのやり方で、若い女性がしたほうがいいと思っていることでもあるの。解き放つのよ。すべきことに全力を注ぐの。ときにはひどい目にあうこともあるけど、立ち向かい続けなきゃ。次なるリアーナを目指すのなら、目立つことも、チャーミングであることも必要よ。長く続けられるものがあったり、自分の音楽の良さを知らしめたり。要はバランスね。自分至上主義だって言いたいわけじゃなくて、本気でやるってこと。ある程度の品位を保ちながら、一貫性を持って自分を表現したほうがいいわ。井の中の蛙にはなっちゃダメ。誰かのやり方には従わない。バーで飲みながらの打ち合わせなんてごめんだわ。私が主導権を持って、昼間に会うことだってできるんだから。

今や音楽を世に出すのは簡単なこと。だからこそその質にこだわるべき。

私が音楽活動を始めたころは、曲をつくったあとにすぐアップロードできるような場所なんてなかった。そしたら「Myspace」ができたの。自分がそこに上げた音楽がもう二度と聴けなくなって、本当に助かってるわ。だって、ねえ……。何かを世に送り出すんなら、それが一生自分につきまとっても大丈夫なくらいの出来にしておくって、本当に大事だと思う。ノリや反響がほしいだけで気軽にやるもんじゃないわ。いつか、みんなつくった曲をその日のうちに「Soundcloud」に上げたりするようになる。インスタみたいに、その瞬間に感じたことを曲にしてすぐ投稿する日がきっとくるわ。

This Week

和洋新旧の混交から生まれる、妖艶さを纏った津野青嵐のヘッドピース

アーティスト・津野青嵐のヘッドピースは、彼女が影響を受けてきた様々な要素が絡み合う、ひと言では言い表せないカオティックな複雑さを孕んでいる。何をどう解釈し作品に落とし込むのか。謎に包まれた彼女の魅力を紐解く。

Read More

小説家を構成する感覚の記憶と言葉。村田沙耶香の小説作法

2003年のデビュー作「授乳」から、2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』にいたるまで、視覚、触覚、聴覚など人間の五感を丹念に書き続けている村田沙耶香。その創作の源にある「記憶」と、作品世界を生み出す「言葉」について、小説家が語る。

Read More

ヴォーカリストPhewによる、声・電子・未来

1979年のデビュー以降、ポスト・パンクの“クイーン”として国内外のアンダーグランドな音楽界に多大な影響を与えてきたPhewのキャリアや進化し続ける音表現について迫った。

Read More

川内倫子が写す神秘に満ち溢れた日常

写真家・川内倫子の進化は止まらない。最新写真集「Halo」が発売開始されたばかりだが、すでに「新しい方向が見えてきた」と話す。そんな彼女の写真のルーツとその新境地を紐解く。

Read More

動画『Making Movement』の舞台裏にあるもの

バレリーナの飯島望未をはじめ、コレオグラファーのホリー・ブレイキー、アヤ・サトウ、プロジェクト・オーらダンス界の実力者たちがその才能を結集してつくり上げた『Five Paradoxes』。その舞台裏をとらえたのが、映画監督アゴスティーナ・ガルヴェスの『Making Movement』だ。

Read More

アーティスト・できやよい、極彩色の世界を構成する5つの要素

指先につけた絵の具で彩色するフィンガープリントという独特の手法を用いて、極彩色の感覚世界を超細密タッチで創り出すアーティスト・できやよい。彼女の作品のカラフルで狂気的な世界観を構成する5つの要素から、クリエーション誕生の起源を知る。

Read More

ハーレー・ウェアーの旅の舞台裏

写真家ハーレー・ウィアー(Harley Weir)が世界5カ国に生きる5人の女性を捉えた旅の裏側、そして、ドキュメンタリー映像作家チェルシー・マクマレン(Chelsea McMullen)が現代を象徴するクリエイターたちを捉えた『Making Images』制作の裏側を見てみよう。

Read More

『Making Codes』が描くクリエイティヴな舞台裏

ライザ・マンデラップの映像作品『Making Codes』は、デジタルアーティストでありクリエイティヴ・ディレクターでもあるルーシー・ハードキャッスルの作品『Intangible Matter』の舞台裏をひも解いたものだ。その作品には、プロデューサーとしてファティマ・アル・カディリが参加しているほか、アーティストのクリス・リーなど多くの有名デジタルアーティストが関わっている。

Read More

ローラ・マーリンが表現する、今“見る”べき音楽

イギリス人のミュージシャン、ローラ・マーリンのニューアルバムに満ちている“ロマンス”。男っぽさがほとんど感じられないその作品は、女性として現代を生きることへの喜びを表現している。

Read More
loading...