レバ・メイバリー:彼女は力を手にした

エディター、ライターであり、SM女王のレバ・メイバリー。社会のタブーを打ち破り続ける彼女の出版社Wet Satin Pressについて、彼女の最新作である『Dining With Humpty Dumpty』のこと、そして男を支配することについて聞いた。

レバ・メイバリー(Reba Maybury)の出版社Wet Satin Pressがテーマとするのは、変態、芋虫、フェティッシュ、女性、女性であること、情熱、男性であること、支配、力、セックス、アイデンティティ、保守党を嫌うこと、高潔さ、耳障りな感情と退屈……と多岐に渡る。さらに、どれもとても興味深い本ばかりだ。エディター、ライター、SM女王である彼女はこれまで、彼女の奴隷たちと一緒にジンを制作し、またポルノ業界における女性の友情を取り上げた本を執筆した。彼女の新作『Dining With Humpty Dumpty』は、空調がきちんと管理されているロンドンのチェーンレストランが舞台で、レベッカ女王とハンプティという奴隷の現実のようなストーリーだ。ハンプティは彼をとてつもなく太らせてくれる女性を探していた。

あなたは小さな村で育ったんですよね。その村での居心地は良かった?小さい頃何になりたかったのですか?

私が育ったのは、人々が定年退職後に住むような村だったの。だから小さい頃はとても孤独だったわ。まして思春期に誰もが抱くような、周りの世界が好きかどうかという反抗的な思いなんて考えるまでもなかったわ。今考えると恥ずかしくて笑ってしまうけど、私が10代の頃“「The Daily Mail」なんて大嫌い”と壁にチョークで書いたことを覚えているの。このことは、私にとっての政治的な敵対心、特に右寄りのメディアに対して怒りの表れだったと思うの。都会に住んで友達と会ったり、24時間営業のお店に行ったりすることを空想していたわ。あと、社会から逸脱するようなことにとても惹かれて。何か一つの特定のことをしたいという夢はなかったけど、性科学者についてはとても興味があったの。

あなたはサブカルチャー、ジェンダー、セクシャリティーに興味をもっていますが、初めてこれらに興味を抱いた時のことを覚えていますか?

ええ、10歳の時に初めて生理が来て、その時に興味を持ち始めたの。私の肉体が精神的な部分よりも早く発達し始めて、自分の性器があるということ自体よく理解していなかった頃から、女性は男性の商品であるということを理解しなくてはならなかったの。

今のサブカルチャーについてどう思いますか? またフェミニズムについてメジャーなメディアでの取り扱われ方についてどう思いますか?

サブカルチャーもフェミニズムも、両方ともへそ曲がりでくだらないものになってしまっているわ。私はSisters Uncutのような真剣な活動が好きなの。育ちの良い白人の女の子が見せるワキ毛の写真なんかには興味がないの。

架空の世界でも、現実でも女性として力を手に入れるというのは私が想像していたよりもはるかに複雑ということね。

出版社として大切なことは? どのようなストーリーのものを出版したいですか?

権力や力、ネオリベラリズムの日常が崩壊されていくストーリーの物語にとても魅力を感じるわ。

SM女王として活動を始めたのはいつから?

2年前からね。

風俗業界について学んだことは? 自分の生活や生き方に対して得るものはありましたか?

とても多くのことを学んだわ。多分もっとも大きかったことは、架空の世界でも現実でも、女性として力を手に入れるというのは、私が想像していたよりもはるかに複雑ということね。はっきりとわかったとことは、人生とはいつも権力や支配と戦うことで、人々は常に一番になろうとしているということね。

奴隷の人たちとの関係はどのようなものですか?

奴隷との関係の厳格さによって違っているの。お互いをリスペクトし合えていればいるほど、良い関係を保てるわ。もっと感情的に満たされる関係を持ちたがっていた奴隷が2、3人いたけど、彼らとは関係を絶たなくてはいけなかった。でもお気に入りの奴隷もいるわよ。

ハンプティのことについて教えてください。あなたの作品を読んで彼はどのような反応をしましたか?

ハンプティは2、3人の奴隷を基にした架空のキャラクターなのよ。ニューヨークのBridget Donahueというギャラリーで本の発売イベントをやった翌日に、非通知の番号から殺害予告の脅迫のメッセージが来たの。警察は私が1年前に関係を持っていた奴隷を疑っていたけど、彼に私の番号を教えたことはなかった。脅迫について色々調べたんだけど、これまでもありとあらゆる女性が社会に対して発言力を持つと、その人たちが脅迫を受けていることがわかったの。なので、私がもらったメッセージも無関係のところからきているのかもしれないわ。

現代の白人の会社員であふれる男性社会で、まだチャレンジされていないことをすべて試みるキャラクターを作りたかったの。この本では、その男らしさというのが崩壊していくのが詳細に描かれているわ。ただ、私の女王としての経験のすべてがレベッカ女王に投影されている訳ではないの。確かに、レベッカ女王のキャラクターの大部分は私自身からきているけど、私たちの社会の中で力を持っている典型的な男性像を垣間見せたかったの。地下鉄での男性の行動を描いていて、彼は多くの男性が着ているレザージャケットをじっと見たり、そのジャケットがどこのブランドのものか、それが何を象徴しているかを考えたり、保守的なゲイでない男性がデヴィッド・ボウイ(David Bowie)をとても好きだということが、何を意味するかを考えたりするの。

フェティッシュは階級や、性別、人種に関係なくあるものなの。この本は、UKのEU脱退やトランプの大統領就任前の頃が舞台で、女王と奴隷のダイナミクスによって、典型的な会社員の男性像の崩壊されていく様を描いているの。物語の語り手であるレベッカ女王は、アート学校を卒業した25歳の女の子で、2016年1月にロンドンじゅうのチェーンレストランをハンプティと巡るの。食事をしながら理想のSMのプレイの話をして、その中には彼の“女性に支配されたい”っていう欲があったり。さらに、前回の選挙で彼は保守党に投票したっていう、政治についての考え方についても話もするの。

究極的にいってこの本は、深刻な政治的の問題が、普段ではできないような自分の欲望を満たすために利用されることを写していて、この政治と欲望という難しい2つをどのように女王が折り合わせるかを描いているのよ。

いくつかの幸運に恵まれて、ターナー賞を受賞したアーティスト、レイチェル・ホワイトレッド(Rachel Whiteread)のお世話をしていたと聞きました。彼女はどのようにあなたに影響を与えましたか?

結局は作品が大切で、作品が良ければその他のことは一切関係がないということをレイチェルは教えてくれたわ。

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