今、注目すべき南米ミュージシャン5人

ブラジルからボリビアまでを内包する南米。その懐の深さは、彼の地を故郷とするミュージシャンからもうかがい知ることができる。とろけるようなエレクトロニカ、時事問題に斬りこむラップに至るまで、常識を覆す音を世に送る5人のアーティストを紹介しよう。

1

テイ・シ

ポーランド系ユダヤ人を祖先に持ち、アルゼンチンとコロンビアで育ったテイ・シ(本名ヴァレリー・タイシャー)は、のちにカナダへと拠点を移す。そのグローバルな魅力は、ニューヨークでもニューデリーでも通用するような、クリーンかつスーパースタイリッシュなエレクトロニカにも表れている。3月31日にリリースされたデビュー作『Crawl Space』は、自身が子供時代に経験した不眠症や、その才能が開花するまでの軌跡を表現した作品。スペイン語のナンバー「Como Si」も収録されている。同作には、彼女が書いたこんな一文が添えられている。「私のアイデンティティの多くを占めるスペイン語を使って、どうしても何かをつくり出したかった。この言語が大好きだし、そうすることによって自分の中のその部分を記憶にとどめておきたかったの」。

tei-shi.com

2

ダイアモンド

アリス・コエーリョ、ジェニ・ロヨラ、マリアナ・アウヴェスからなる3人組ユニット(元パールズ・ネグラス)は、リオデジャネイロを拠点とし、ハイパーアクティヴでエネルギッシュなダンス系ラップに重厚な低音とバイレ・ファンキを組み合わせ、厳しい貧民街の現実を音楽で表現している。2014年にリリースした2つのミックステープで注目を浴びたのち、短い活動休止期間を経て、この3人のハイティーンたちは、昨年『Bad Girls』を携えて華々しくシーンに返り咲いた。基本的にはEDM[訳注:エレクトロニック・ダンス・ミュージック]サウンドといえるこのアルバムだが、ポルトガル語バージョンのミッシー・エリオット的な要素も併せ持っている(例えばこんな歌詞がある。「もし行き詰まったら、そこから飛び出してごらん。あたしたちが責任持つから」)。つまり、端的に言うと、素晴らしいのひと言だ。

3

フリエッタ・ラダ

ウルグアイ出身のこのシンガーは、著名なパーカッショニストであり歌い手でもある、ルベーン・ラダの娘である。その曲は『Rhythm Nation』時代のジャネット・ジャクソンをスペイン語にしたものと80年代のファンク・ロックの中間の音に、ウルグアイ系黒人サウンドを合わせ、スティーヴィー・ワンダー色を加えたような感じだ。その豊かなポップサウンドによって、今やウルグアイを代表する若き才能の1人となった彼女。2015年には、ラテン・グラミー賞の最優秀新人賞にノミネートされている。

4

ズズカ・ポデローサ

インドネシアとブラジルの血を引くポデローサがつむぐサウンドは、ヒップホップにバイレ・ファンキを融合させ、ダンス要素を加えたもの。その飄々としたエネルギーは、CSS、ボンヂ・ド・ホレといったブラジルのバンドや、M.I.A.を彷彿とさせる。2013年の『Carioca Funk』以降は公式に新曲を発表していないものの、先の1月に起こった女性によるデモ行進を受けて、シングル「Pussy Control」をリリースした。ポルトガル語と英語で、ちょっとおちゃらけながら女性の権利拡張を切り取ったこの曲は、ブルックリンを拠点とする彼女の政治的で不遜な一面をあらわにする秀作だ。

5

カリ・ウチス

コロンビアで生まれ、アメリカで育ったポップスター、ウチス。技巧に富み、ソウルフルでR&B的要素もあるそのバラードは、ブラジルのボサノヴァ歌手アストラッド・ジルベルトからリリー・アレンまで、ありとあらゆる方面から影響を受けてつくられたものだ。また、気鋭のクリエイターとのコラボレーションも注目されている。デビューEP『Por Vida』では、ディプロやタイラー・ザ・クリエイター、ケイトラナダといった面々をプロデューサーに迎えたほか、2014年にリリースされたスヌープ・ドッグの「On Edge」にゲストとして登場。2016年にドロップされた自身のシングル「Only Girl」では、ヴィンス・ステイプルズとジ・インターネットのスティーヴ・レイシーをフィーチャーした。レトロな音楽にインスパイアされながら、インスタグラムでもその世界観を伝えているウチス。その比類なきセンスが感じられる写真とともに、帰省中に撮ったスナップも公開している。

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