アーティスト・Kyokaが見た、世界を変えるテクノイベント5選

ドイツの最高峰実験・電子音楽レーベル『raster-noton』に所属するサウンドアーティストのKyoka。ベルリン~東京を拠点に、独特な音楽表現で世界を魅了する彼女が、各国を旅する中で出合った5つの先鋭的なテクノミュージックイベントを紹介。

1

歴史が香る会場で開催された

『P2 Art's Birthday Party 2016』(ストックホルム、スウェーデン)

1963年、フランスのフルクサス系アーティストのRobert Filliouが、「100万年前、まだアートが存在しなかった時代の1月17日に、誰かがスポンジをバケツの水の中に落としたその瞬間に、アートは生まれた」と発言。この発言にちなんで、スウェーデン国営放送局が主体となり、毎年1月17日に開催されるようになったという逸話を持つこのイベント。この『Art's Birthday Party』というイベントをもっともっと盛り上げよう、芸術を祝おうというムーブメントは全世界に拡がっていて『Art's Birthday Party』を開催する都市は年々増加している。2016年の会場となった『Södra Teatern(サダラ・テアタン)』は、1859年に建てられ「知性が刃向かってくるエンターテイメントの城」と異名が付くほどの、スウェーデン有数の格式高い劇場のひとつ。建物自体には良い意味での埃っぽさがあり、ベースの音に共鳴する壁や空間の妙な軽さ、観客席の椅子の重厚な華やかさと、そこに座る現代の観客の服の色や存在感とのギャップが非常に魅力的で、演奏していると心地よい高揚に導かれる。そこには確かに、歴史の香りが存在していた。

映像は、このイベントで私の前に演奏した電子音楽プロデューサー・作曲家で私の友人でもあるMaria W Horn。2016年に開催した『FFF presents Dommune x EMS (スウェーデン国営スタジオ)』でも、パフォーマンスを披露してもらった。

出演アーティスト: Kyoka,  Andreas Tilliander、Maria w Horn etc.

2

密着して共鳴するオーディエンスの良識と愛とパワーに触れた

『positive education』(セント・エティエンヌ、フランス)

見てみれば年齢、体質、性差を超えて、様々な層の観客が皆一緒になって楽んでいることにふと気がつく。ただただはしゃぎ倒すだけじゃない、良識や客観性を持ったお客さんのパワー、優しさに触れることができた。私の人生においては、幕張メッセの次に面積が大きな会場で行われたイベント。

動画は、raster-notonのレーベルメイトでもあり、現地でばったり会えて嬉しかったアーティスト・Dasha RushのBoiler RoomでのDJセット。

出演アーティスト:  Kyoka, Surgeon, Randomer, Ancient Methods, The Hacker, Dasha Rush, Kowton, Peverelist, Bambounou, Hodge, In Aeternam Vale, and more...

3

ベルリンの音の偏差値

『Raw Chicks』(ドイツ、ベルリン)

ベルリンには、何気なくふと立ち寄ったクラブですら、「音の偏差値が高いってこういうことか」と、納得させられてしまうイベントが多数存在する。今回、ベースと女性がテーマだということを伺ったときに、迷わずこのイベントが思いついた。主催者であり映像作家のbi:keiは、先頃ベルリンの女性アーティストに関するドキュメンタリー映画を製作し、世界各国でプレミア上映を開催している。(参考:『RAW CHICKS.BERLIN Trailer』 (2017) )この映画を機会があれば見ていただきたい。彼女たちの自由度の高さや力量などが、垣間見えるのではないだろうか。

動画は、ROW CHICKレジデンスDJのJanoshiのプレイ。彼女自身は、小さくて可愛くて優しい雰囲気の持ち主だが、さらっと選ぶ音はベルリンらしくとても重く斬新で、尚且つ自然。彼女のパフォーマンスからも、ベルリンの“まるでごく当たり前にやっている”と思わせるような態度が醸す空気感と実際のその音色により、偏差値の高さを体感できる。

出演アーティスト: Kyoka, LEE-PLING、GEN、hectic、KARINA QANIR、fr. JPLA (IfZ) 、Janoshi、bi:kei(VJ)、Kalma(VJ)

4

オーディオ・ビジュアル・都市景観の表面を、冬の白い息が流れていった

『Lunchmeat festival』 (プラハ、チェコ)

プラハの街は緩やかに傾斜する丘のように街が展開されているため、一箇所に立ちながらパノラマのような景色を見られる場所が比較的多い。冬に開催された『Lunchmeat festival』は、複数のステージを行き来するために、オーディエンスは外を通る必要があった。確かに寒そうではあったけれど、街の景色をバックに白い息を吐きながら小走りで移動する集団はとても美しかった!イベント自体も、音とビジュアル、ステージングなど、異なる分野のアーティストを組み合わせ、一つのステージを作り上げるようにたくさんの仕組みに富んでいたおかげで、斬新なアクトを数多く見ることができた。 

動画は、サウンドアーティスト・Peter Kirnとビジュアルアーティスト・Gabriela Prochazkaのコラボレーション作品。Peterは、テクノロジーを取り入れた音楽プラットフォームを構築していることで有名。そのテクノロジー人間に対してのGabrielaのプリミティブなRGBの映像という組み合わせが、とても良いバランスに見えた。

出演アーティスト: Kyoka,  Legowelt(NL), Samuel Kerridge(UK), Roly Porter(UK) & MFO present Third Law, SHXCXCHCXSH(SW), Objekt(UK), AnD(UK), patten (UK), SØS Gunver Ryberg (DK) Peter Kirn (US) Silent Servant (US) and more...

5

街並みが半透明に見える幻想的な広場で、ホットワインを味わいながら楽しんだ

『GROUNDED FESTIVAL』(リュブリャナ、スロベニア)

建築家・都市計画家であるヨジェ・プレチニックの出身地であるリュブリャナ。有名な三本橋や中央市場など、街の主要な部分はほとんど彼の都市計画によって1930年代に建てられた。プラハ城の建築家でもある。私が訪れた12月には、クリスマスマーケットがたくさん出展していたので、会場の目の前の通りでホットワインを入手。近くの広場を散策しながら現地の食材を食べ歩き、歴史的な街でクリスマスムードを堪能した。本物の蜂蜜を見極めながらのマーケット探索も思い出深く、このシーズンになると思い起こすことも稀ではない。その後のイベントは、エレクトロン使いの実力者である電子音楽家・Headless Horsemannと、センスのいい地元DJがベースと低音をバキバキに鳴らし、皆踊らずにはいられなくなる程の振動と興奮が渦巻く最高に盛り上がった夜になった。主催者のNina HudejとNina Belleは、とにかく知的で前衛的、元気で勢いのあるリュブリャナ出身の美しい2人組。

動画は、その主催者のNina Hudej、Nina Belle、Asja GraufのプロジェクトであるWarrego Valles。このプロジェクトからも鋭いベースや、音楽と未来への熱い意志が聴こえる

      

出演アーティスト: Kyoka、 Headless Horseman、Nina Hudej (DJ)、Nina Belle (DJ)

Kyoka/実験・電子音楽レーベルの最高峰の一つ『raster-noton』における、初の女性ソロアーティスト。2012年以来、『iSH』、『Is (Is superpowered)、『SH』の3作品をリリース。ライブパフォーマンスは国内外問わず高い評価を受けており、2016年、世界一のクラブと称される「ベルクハイン」でのパフォーマンスでは観客が大興奮し絶叫の渦に巻かれた。今でもベストアクトとして人々の話題に上ることが多い。2015年、FFF(First Floor Festival)をレーベルメイトのUeno Masaakiと共に設立。その独創的で意外性に富んだ視点が観客や主催者を惹きつけている。2017年3月より、Apple「Shot on iPhone7」のCMに、『SH』の収録曲「Hovering」が起用される。

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