水原佑果が開花させた、二つの才能

モデルの枠を超えて活動する、なんて常套句には食傷気味だ。そもそも彼女には当てはまらない。水原佑果は単純に、自分のフィーリングに正直に、やりたいことを選びとっているだけだ。そして同時にそれは多くの者を惹き付ける。天は彼女に2つのものを与えた。

差し入れに持参した、老舗和菓子店の栗大福をぱくぱくと頬張るーー。カフェ「モントーク」でのレギュラーパーティ「RECORDS」でのプレイ前に、1時間だけ時間をもらうことができた。場所は所属事務所のスタジオ。部屋に案内され、大きなメイク台に向かう彼女と、鏡越しに挨拶を交わした。屈託のない笑顔が返ってくる。彼女のインスタグラムと同じ、こちらまで自然と微笑ませてくれる、あの笑顔だった。

去る10月に22歳になったばかり。「カメラの前でポーズするだけじゃつまらない」と常々語る彼女はモデルという枠組みを超えて、活動の幅を広げている。その最たるものがDJだ。

「実はまだ、DJをはじめて半年くらい。テイ・トウワさんとの出会いがきっかけです。姉がテイさんのPVに出てたりして、イベントによく呼んでもらってました。それが2、3年前ですかね。そのうちレコーディングしないかってスタジオに呼ばれて、テストしたら『いいね!』って言われて。ライブがあるから佑果ちゃん出てよって、いきなり大きなフェスで歌わせていただきました。そういったご縁があって、DJイベントにも出させていただくようになりました」。

もともと音楽は彼女の身近にあった。彼女が生まれる前、母は心身をリラックスさせるため、お腹にいる幼子のためにとスローなジャズを聴いた。家族でドライブに出かければ、ロック好きの父はクイーン(Queen)をかけた。姉はヒップホップを教えてくれた。「最近はちょっとオタクかもって思う瞬間があります。海外に行くと必ずレコードショップをチェックします。この間タイに行ったときも、店員さんと意気投合してしまって。タイの80年代ソウルやファンクについて、かなりディープに教えてもらったり。今はディグするのが楽しくてしょうがないです」。

好きこそものの上手なれ。みな間違いなく、この言葉には肯定的だろう。ファッションの世界は”好きこそもの上手なれ”という人で溢れている。もちろん彼女も例外ではない。「先日大阪でDJする機会があって、大阪と言えば阪神タイガースでしょ!って『六甲おろし』かけたらすごくみんな盛り上がってくれました。自分はまだDJをはじめたばかりだし、自分より上手なひとはたくさんいて……。でも自分にしかできないこと、自分だからできることって何だろうっていつも考えながら選曲しています。好きな音楽をディグってディグって、とっても楽しいんです。好きなことでいろんな方々とつながれるのがすごく楽しくて、年齢とか国とか関係なく、『あのアルバムに入ってる、あの曲いい』って教えてもらえる。今すごくいい感じだと思います」。

もちろん、肩書きの最初にくるべきはモデル。彼女はさまざまな表情で私たちを惹き付ける。シリアスでモードっぽいものから、アンニュイでガーリーなもの、ストリートライクでパンキッシュなまなざしももっている。カメラを向けられると、ご覧の通り。サービス精神たっぷりに応えてくれる。

「今の時代、モデルとして個性があったほうがいいなと思ってる。自分のやりたいことを曲げずにやってるから、個性というか私というキャラクターが出来上がる。そのキャラクターにマッチするフィールドは必ずある。使う側もおもしろいなと思ってるからこそ、モデルやいろんな仕事が出来てるわけだし」。

じゃあ、今までで印象に残っているフォトグラファーは? と尋ねると、考えた末に「モニカちゃんかなあ」と返ってきた。彼女と同世代の写真家 茂木モニカだ。すでにこの連載でも取り上げている、次代を担うファトグラファーのひとり。「普段から仲がいいし、自分と好きなものも近いかな。彼女といるとリラックスできる。だから彼女にしか見せない表情があって、それってとてもリアルで生々しいものだから、写真として強いと思う。モニカちゃんとは、何か新しいことができないかなって、考えています」。

一方で、彼女が自身のInstagrmで見せる表情はとってもパーソナル。どの写真からも彼女特有のハッピーな“バイブス”(インタビュー中に彼女がよく使っていた表現だ)を感じ取ることができる。天賦の才とはまさにこういうことをいうのだろう。彼女は美しさだけではなく、周囲を自然とハッピーにするパワーも同時に授かったのだ。

「髪の色ピンクなんですけど『真似したい』っていろんな子がダグ付けしてくれる。そういう"つながった瞬間"みたいなのが自分としてもうれしい。ハッピーの連鎖みたいな。こっちも元気をもらえる」。

「常にポジティブで、常に前向きでいたい。だからかどうかわからないのですが、未来のことを考えることが好きなんです。車が宙に浮いてたりするような。好きなマンガは『ドラえもん』だし(笑)。過去のことを考えると暗くなるっていうか……。今、この国では戦争もないし、こうやって好きなことができて、未来ってどうなるんだろうって考えることができるだけで幸せだなって思います」。

「今日も宇宙がテーマ」とブルーのラメをまぶたに引いた。「その日その時の気分でヘアメイクさんにお願いして、仕上げてもらいます。着たい服も香水もその時のフィーリングによって変わるから」。

それを若さゆえの“移り気”や“気まぐれ”と捉えてもいいだろう。でも、思い返して欲しい。私たちがもっと幼かった頃の多幸感にあふれた感覚って、本来はそういうものじゃなかっただろうか。忙しく日々を送っていると、些細な心の変化ーー瞬間的に訪れる微妙な心の機微ーーに気づくことは難い。そのときそのときの生の感情を、まっすぐに見つめて、自分自身をさらけ出す。自由に、気ままに。

「すべてに対してもオープンでいたい」。これが彼女のパーソナリティの核となっている。だから見知らぬ土地のはじめて出会う人ともつながることができる。「人付き合いもそうだし、ファッションでもなんでもそう。モニカちゃんやテイさんとの出会いもそうだし、それで世界が広がったり、新しい経験ができたりする。それに、とにかく楽しくいられる。人が私をハッピーにしてくれるから」

彼女が人を幸せにできるのは、なによりも彼女自身が人からハッピーを受け取ることに長けているから。

パーティが終わっても、多くの人に囲まれて笑顔を振りまく姿が印象的だった。

YUKA'S PLAY LIST

水原佑果が“五感”をテーマにつくるプレイリスト

1

触覚 王 菲(Faye Wong)「夢中人」

ウォン・カーウァイの映画『恋する惑星』のテーマ曲、世界観がたまらなく好き。

2

視覚 ミニー・リパートン(Minnie Riperton)「Loving you」

彼女の声と歌詞がとっても魅力的。

3

聴覚 冨田 勲(Isao Tomita)「Arabesque Nº 1」

メロディーがとても美しくて、宇宙っぽくもある。未来を感じさせる世界観が好き。

4

嗅覚 ルイ・アームストロング(Louis Armstrong)「La Vie en Rose」

トランペットの演奏と彼の声がセクシーでカッコいい、とてもロマンチックな1曲。

5

味覚 細野晴臣「北京ダック」

いつも私のテンションを上げてくれるこの曲は、木琴をはじめ色々な楽器で演奏されている。

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